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Disc Review

Head Hunters: SA-CD Multi-Hybrid Edition / Herbie Hancock (Sony)

ヘッド・ハンターズ:SA-CDマルチ・ハイブリッド・エディション/ハービー・ハンコック

ハービー・ハンコックという人はとても気になる存在で。当然、来日公演にもたびたび足を運んでいる。ただ、この人、ものすごく多面性があるというか、多彩なアプローチを軽々とこなせてしまえる才人ゆえ、調子が今いちのときでもテキトーに“流して”乗り切っちゃったり。そういうコンサートに出くわすとちょっと悲しくなる。なんか、観客も含めて妙な集会みたいになっちゃってたときもあったし…(笑)。

でも、逆にとんでもなく集中力に満ちた、この上なくカタルシスに満ちた演奏を体験できることもあるから。そういう意味でも気になる、というか、油断のできない人だなと思う。絶対に忘れることができないのが、1979年のライヴ・アンダー・ザ・スカイでのパフォーマンス。このときのことは、以前、ウェイン・ショーター絡みのアルバムを紹介したとき、本ブログでも書かせてもらったので、よろしければそちらも見ていただきたいのですが。

アコースティックな編成で、いわゆる新主流派っぽいラインを求道的に極めた感じだったライヴ・アンダー・ザ・スカイに対して、それとまったく別ベクトルで強烈な印象を放っていたのが、その数年前、1974年7月の来日公演だ。本国アメリカでは前1973年に、日本ではこの年の初頭にリリースされた最新アルバム『ヘッド・ハンターズ』を引っさげてのエレクトリック編成によるツアーだった。

メンバーはハンコック(キーボード)のほか、ベニー・モウピン(サックス)、ポール・ジャクソン(ベース)、ビル・サマーズ(パーカッション)と、ここまではスタジオ・アルバム『ヘッド・ハンターズ』と同じ顔ぶれ。ただし、アルバムではハーヴィー・メイソンがドラムを叩いていたけれど、メイソンは来日せず。代わりにマイク・クラークが参加していた。夏なのに、ポール・ジャクソンがやけに丈の長いレザー・コートを着ていて、その姿がものすごくヤバかった記憶がある。思いきり暑そうだったけど…。

翌年には、ずばり“ハービー・ハンコック&ザ・ヘッドハンターズ”と名乗ってまた来日。そのときの音源がライヴ・アルバム『洪水(Flood)』として記録されているので、そっちの印象のほうが強いのは確か。でもそちらは、1974年の来日メンバーに加えてもうひとり、ギタリストとしてブラックバード・マクナイトが参加していた。1974年のときはギタリストなし。ハンコックがシンセやクラヴィネットで繰り出すファンキーかつパーカッシヴなリフがギターの不在を見事に埋め…というか、むしろありがちなギター・プレイをあえて廃した新形式のファンク・ジャズ的グルーヴを構築してみせていた。

アルバム『ヘッド・ハンターズ』を聞いたときも思ったことだけれど、ジョン・マクラフリンやソニー・シャーロック、レジー・ルーカスらギタリストを多用しながら独自のエレクトリック・ジャズ・サウンドで新時代を切り拓こうとしていた大親分マイルス・デイヴィスに対し、ハンコックのほうは、弟子なりの意地か、あえてギター抜きという別ベクトルで自分なりのエレクトリック・ジャズ・ファンク・フォーマットを模索しているのかもしれないなぁ、と。まだ大学生になりたてだった未熟者リスナーなりに興味深く受け止めたものだ。

ライヴではシンセを自動演奏させながら、鍵盤から離した腕を音に合わせて上げたり下げたりして、手品やってるみたいなパフォーマンスを見せたり。ハンコックもノリノリでショーアップしていたっけ。懐かしい。

と、まあ、とにかく1974年、ぼくはレコードでもライヴでも、『ヘッド・ハンターズ』を存分に堪能していた、と。そういうことです。そんな重要作がSA-CDマルチ(フロント・リアの4チャンネル)ハイブリッド盤として日本独自にリリースされた。以前、こちらでも紹介したマイルス・デイヴィスの『ライヴ・イヴィル』と、その前に出た『ビッチズ・ブルー』に続く完全生産限定ハイブリッド再発シリーズ第3弾だ。

今回も7インチ・サイズで往年の12インチ・クアドラフォニック版アルバムのジャケットを徹底再現した仕様。当時の暗中模索ぎみのライナーノーツや、レナード・フェザーによるハンコック・インタビューなども復刻されている。楽しい。音のほうもぐっと向上。SA-CDステレオ/CDに関してもオリジナル・アナログ・マスターから新たにリマスタリングされている。

4チャンネル・ミックスに関しては、今も昔も聞ける環境にないので、どうなっているのかわかりません(笑)。10年ちょい前に5.1サラウンド盤が出たこともあったけれど、それも聞けてないので違いは不明。すみません。

でも、アガる。とにかく。ハンコックがシンセ・ベースというか、アープ・オデッセイで繰り出すリフにハーヴィー・メイソンのビート・パターンがスリリングに絡みつつスタートする「カメレオン」とか、最初はぐっとクールにキメていたくせして、メンバーが次々参加して、ぐいぐい盛り上がってきて、どんどんテンポも上がって、15分強という長さをまったく感じさせない超ホットな展開を見せていく。当時、確か新宿のポニーだったか、ジャズ喫茶で初めて聞いたときのショックは忘れない。

パイプだか空き瓶だかに息を吹きかけて笛のように鳴らしたリフにシンコペーションを効かせたリズム隊が切り込んでくる「ウォーターメロン・マン」の再演も好きだった。オリジナルとがらっと違うアレンジによるソリッドでシャープなグルーヴが最高にかっこよかった。これも含めて特に本作のA面は聞きまくったなぁ。

もちろんB面もいい。「スライ」は文字通り、当時ハンコックが大いに影響されまくっていたスライ・ストーンからのインスピレーションをぶちまけた仕上がり。緊張感に満ちたキメのフレーズとか、圧倒的なテンポチェンジとか、ベニー・モウピンの激熱なソプラノ・ソロとか、盛り上がってきてからも俯瞰した冷静な視線はけっして忘れないって感じのハンコックのエレピ・ソロとか、どれもが新鮮だった。ラストの「ヴェイン・メルター」の深く、妖しく、繊細な音像もたまらなかった。

やはり名盤です。サンプリングもされまくっていて、ヒップホップを筆頭とする後年のブラック・ミュージックへの影響という意味合いでも重要な1枚。ハンコックは今年で80歳だそうで。彼の多彩な歩みをひとつひとつ再検証するいい機会なのかも。そのとっかかりとしても絶好のハイブリッド・エディションってことで。はい。

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