Disc Review

Live Evil: SA-CD Multi-Hybrid Edition / Miles Davis (Sony)

ライヴ・イヴル〜SA-CDマルチ・ハイブリッド・エディション〜/マイルス・デイヴィス

ぼくがマイルス・デイヴィスのコンサートを初めて見たのは1975年。1970年代、2度目の来日のときだ。もちろん、いわゆるエレクトリック・マイルス期で。いろいろあってその後しばらく活動休止期に入る直前のこと。

むちゃくちゃかっこよかったなぁ。

この来日ツアーは、大阪で、例の『アガルタ』と『パンゲア』というライヴ・アルバムが録音されたことでもおなじみだけれど。ぼくが見たのは今はなき新宿の厚生年金会館でのパフォーマンス。ソニー・フォーチュン(サックス)、マイケル・ヘンダーソン(ベース)、アル・フォスター(ドラム)、ピート・コージー(ギター)、レジー・ルーカス(ギター)、エムトゥーメ(パーカッション)らが繰り出す濃密なファンク・グルーヴを、マイルスは身振り手振りで完璧に操りながら、トランペットとオルガンで、時にグルーヴに加勢するように、時にその隙間を縫うように、音をぶちまける。

真下に置かれたマイクに向かってワウワウ・ペダルを踏みながら演奏する姿とか、合間合間にタバコに火を点けてちょっと吸ってはすぐに消す仕草とか、全部がかっこよかった。

確か2部構成になっていて。後半のほう、何がいけなかったのかいまだにわからないのだけれど、モニターの状態とかが気に入らなかったのか、アル・フォスターが途中でドラムを離れ、スティックを投げ飛ばして舞台袖に引っ込んでしまって。演奏からドラムがいなくなったことに気づいたピート・コージーが代わりにドラムの席について、以降、ラストまでドラムを叩いていたことも忘れられない。まだ10代のガキだったぼくは、おー、なんだかわかんないけど、何が起こるかわからない、何でもありな感じ、これがジャズなのね…とか、盛り上がったものだ。単純だった。

この夜の演奏の模様は、後日、当時のFM東京で毎週日曜の夜にオンエアされていた『ゴールデン・ステージ』とかいう番組で2週にわたって流れた。それ、エアチェックしてよく聞いたものだ。あー、懐かしい。

…って、なんで、こんな昔話を突然しているかと言うとですね(笑)。この『ゴールデン・ステージ』って番組、今はなき名門オーディオメーカーの山水電気がスポンサーで。当時オーディオ・マニアにとって憧れだった4チャンネルでの放送だったのだ。もちろんぼくは夢の4チャンネル・システムなど持っていなかったので、普通のステレオ放送として聞いていたのだけれど。

エレクトリック・マイルス、ライヴ、4チャンネル…と、こうしたキーワードが並んだアルバムがまたまた再発されたもんで。つい、あのときの来日のことを思い出してしまったのでした。一昨年に出た『ビッチズ・ブルー』ハイブリッド盤の続編という感じなのだけれど。今回出たのはマイルスが1971年にリリースした傑作『ライヴ・イヴル』だ。

マイルス、ゲイリー・バーツ(サックス)、ジョン・マクラフリン(ギター)、キース・ジャレット(キーボード)、ジャック・ディジョネット(ドラム)、アイアート・モレイラ(パーカッション)、そして1975年に日本にもやってきたマイケル・ヘンダーソン(ベース)という顔ぶれで1970年12月、ワシントンDCの《セラー・ドア》でライヴ録音された強力なジャズ・ファンク・ジャム音源と、同年ニューヨークのコロムビア・スタジオにジャレット、モレイラ、ディジョネット、スティーヴ・グロスマン(サックス)、ハービー・ハンコック(キーボード)、チック・コリア(キーボード)、デイヴ・ホランド(ベース)らを招集してスタジオ録音したエルメート・パスコアール作品などを組み合わせたアナログLP2枚組で。

前作『ビッチズ・ブルー』あたりでは、ファンク〜ブラック・ロック的なノウハウを積極的に取り入れつつも、まだ音と音、グルーヴとグルーヴの隙間にマイルスらソロイストたちが巧みに切り込むことで匂い立たせるアブストラクトな感触こそが主役といった印象も強かったのだけれど、『ライヴ・イヴル』の、特にライヴ音源のほうでは、ベースにヘンダーソンを起用したことも奏功したか、ごきげんにファンキーなグルーヴそのものが圧倒的な存在感を主張。その躍動に煽られながらマイルスらソロイストたちがフリーかつフリーキーなインプロヴィゼーションを繰り出す、みたいな…。

まあ、そのかっこよさについて今さら改めてぼくが語るまでもない名盤で。これまで、すでに何度も何度も再発は実現しているのだけれど。なんと今回、そのクアドラフォニック版、つまり往年の4チャンネル・ミックスが日本独自の形で甦ったのでした。

『ビッチズ・ブルー』のハイブリッド再発盤と同様、7インチ・サイズで往年の12インチ・アルバムのダブジャケを徹底再現した仕様。71年オリジナル・ステレオ・ミックスのCD版、同SA-CD版、そして1972年に発売された4チャンネル・ミックスのSA-CD版、すべて2019年最新リマスターで1枚のSA-CDに詰め込まれたハイブリッド盤。

しつこいようですが、とにかくエレクトリック・マイルスで、ライヴで、4チャンネルで…って。思いきり懐かしい。1970年代、学生時代の自分の部屋の間取りが脳裏に甦ってくる。と同時に、半世紀近い歳月を経た今聞いてもシビれるしかないマイルスの圧倒的なクリエイティヴィティと冒険心に改めてぶちのめされる。

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