Disc Review

Acoustic Live from Big Pink & Levon Helm Studios / The Weight Band (Vivid Sound)

アコースティック・ライブ・フロム・ビッグ・ピンク&レヴォン・ヘルム・スタジオ/ザ・ウェイト・バンド

ものすごく大切な盤、紹介し忘れていました。ライナーノーツまで書かせてもらっているというのに…。いやー、いかんいかん。

ザ・バンドがかつて体現していた佳き頃の米国ロックの美学を、確かなパースペクティヴをもってこの21世紀に受け継ぐ頼もしい男たち、ザ・ウェイト・バンドの最新ライヴ・アルバム。ストリーミング開始は4月2日。国内盤が出たのが5月12日。慌てて、なんとかとりあえず発売月である5月のうちに滑り込み紹介しときます。

ザ・ウェイト・バンドといえば、2019年8月から9月にかけて実現した初来日公演の素晴らしさが忘れられない。リトル・フィートのポール・バレアとフレッド・タケットをゲストに迎えつつ、ザ・バンドのレガシーを継承した自分たちのオリジナル曲や、ザ・バンドの往年のレパートリー、そしてリトル・フィートのナンバーなどを確かなテクニックと濃厚なアメリカン・ロック愛とをもってぼくたちに届けてくれた。ご覧になった方は、たぶんぼく同様、誰もが思い切り興奮なさったことと思う。

そんな来日公演の直後、米国へと戻ったザ・ウェイト・バンドはニューヨーク郊外の街、ウッドストックへ。同年10月26日、当地にある“ザ・バーン”ことリヴォン・ヘルム・スタジオで彼らにとって初のアコースティック・ライヴ・コンサートを行なうためだった。

前日、25日にはリハーサルが行なわれた。場所は、なんと、かのビッグ・ピンクだ。ウッドストックから数マイル離れたウエスト・ソーガティーズにあるピンク色の外装で知られる伝説の民家。かつてこの家にザ・バンドのリック・ダンコ、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソンの3人が暮らし、近所に虚を構えるロビー・ロバートソンとボブ・ディランも交えて、1966〜67年、建物の地下室で後年の活動の基礎となる様々な試行錯誤を繰り広げていたことは、アメリカン・ロック・ファンならば知らない人はいないだろう。

その、ごくごく親しい音楽仲間だけを前にしたビッグ・ピンク・リハーサルの模様と、翌日のザ・バーンでのライヴ本番の模様を収めたのが今日ご紹介する、というか、リリースされてから半月間ほど紹介し忘れていた(笑)、本作『アコースティック・ライブ・フロム・ビッグ・ピンク&レヴォン・ヘルム・スタジオ』なのでありました。

ビッグ・ピンク・リハーサルから5曲。ザ・バーンでのライヴから6曲。特にビッグ・ピンクでのリハ曲目にしびれる。ディラン&ザ・バンドの『ベースメント・テープス』の収録曲としてもおなじみのトラディショナル・プリズン・ソング「エイント・ノー・モア・ケイン」で始まり、やはり『ベースメント・テープス』で世に出たロビー・ロバートソン&リック・ダンコ作品「ベッシー・スミス」、2019年に出した初アルバム『ワールド・ゴーン・マッド』でもカヴァーしていたグレイトフル・デッドの「ディール」、ザ・バンドの“ブラウン・アルバム”の収録曲「ロッキン・チェア」、そしてザ・ウェイト・バンドの中心的存在、ジム・ウィーダーが再結成ザ・バンド在籍中に提供したオリジナル曲「レメディ」。

もちろんザ・バーンでのライヴ本番のほうもごきげんだ。ボブ・ディランの「追憶のハイウェイ61(Highway 61 Revisited)」をはじめ、ザ・バンドの「キング・ハーヴェスト」「カレドニア・ミッション」、そして「コモン・マン」(ジム・ウィーダーが生前のレヴォン・ヘルムと共作した曲)や「ワールド・ゴーン・マッド」(ウィーダー作)、そして「アイ・ウィッシュ・ユー・ワー・ヒア・トゥナイト」(レイ・チャールズのレパートリーのカヴァー)といったザ・ウェイト・バンドのレパートリーがいいバランスで混在するナイスな選曲。

メンバーはジム・ウィーダー(ギター)、ブライアン・ミッチェル(キーボード)、マット・ゼイナー(キーボード)、アルバート・ロジャース(ベース)、マイケル・ブラム(ドラム)という日本公演同様の顔ぶれ。マジカルなロケーションの後押しも受けながら、またまた頼もしいやつらが素晴らしいアルバムを届けてくれた。ブツとしてはCD-R仕様で、そのあたり彼らが置かれた現状とか、いろいろ大変なんだろうなとぼんやり想像したりもするわけですが。これからもめげず、へこたれず、ごきげんな活動を着実に続けていってほしいものだと願います。心から。

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