Disc Review

Night Songs II / Barry Manilow (STILETTO Entertainment)

ナイト・ソングズⅡ/バリー・マニロウ

今さら改めて宣言するのもナンですが(笑)。

ぼくはオールディーズ・ポップスが大好きで。もちろん今現在のヒット曲も大好きだけれど、昔のヒット曲も大好き。オールディーズってのは、要するに昔の曲。ゆえに、かつてDJを務めさせてもらっていたラジオのオールディーズ番組は、“現在のヒットチャートから落ちた曲はすべてオールディーズ”という勝手な定義のもと、なんでもかんでも好きな曲をオンエアしてきたものだ。

ただ、いわゆる“オールディーズ・マニア”を自称するうるさがたの間ではちょっと定義が違ったりすることもあって。彼らにとってオールディーズってのは、もうちょっと、こう、マニアックで渋めのものらしい。エルヴィス・プレスリーよりバディ・ホリー、リトル・リチャードよりラリー・ウィリアムス、ビートルズよりジェリー&ザ・ペースメイカーズ、ローリング・ストーンズよりキンクス、ボズ・スキャッグスよりネッド・ドヒニー…みたいな。

万人受けするものより通好みっぽいものを高く評価する傾向がある。そういう方々にポップ・ミュージック史とかを語らせると、たとえばレターメンとかカーペンターズとかアン・マレーとかヘレン・レディとかギルバート・オサリヴァンとか、そのテのフツーの、手堅い、しかしとても質の高いヒット曲を量産したタイプのアーティストへの評価がごっそり抜け落ちちゃったりして。けっこう悲しい思いをすることが少なくない。

今回取り上げるバリー・マニロウなんかも、そんな、ふと気を抜くと、特に日本では歴史から抹殺されちゃいかねないアーティストのひとりだ。知らない人はいないはずなのに、功績を音楽的な側面から語り継ごうとする者が現われず、あえなく歴史の影にずぶずぶと埋もれていきそう。確かに、彼のような、いわゆるMOR=ミドル・オヴ・ザ・ロード系アーティストの場合、その魅力を言語化しづらいということもあって。その辺で損をしているのかも。

ぼくは1970年代半ば、大学生だったころからこの人のことが大好きだった。けど、当時はなかなか同好の士がいなかった。ぼくも自分に自信がなかったから、うかつにバリー・マニロウが好きだとか口を滑らすとバカにされそうな気がして(笑)。学校では“ニューミュージック・マガジン”とか熟読しているロック好きの友達とリトル・フィートやスティーリー・ダンの話をして、家ではバリー・マニロウやアン・マレーの歌声に没入する日々…。情けなくも懐かしい。

誰か他の人とバリー・マニロウが好きだという点で意気投合できたのは、だから、社会人になってからだ。以前もデイヴ・クラーク・ファイヴのエントリーで触れた某出版社勤務期のこと。1年先輩の編集者に、現在翻訳家として活躍なさっている野口百合子さんがいて。ずいぶんとお世話になったというか、ご迷惑かけたというか、いつも怒られていたというか。その野口さんがバリー・マニロウのことを好きだったのだ。

1980年に出た『バリー』ってアルバムのこととか、話しながら盛り上がったなぁ…。やっぱり誰か他の人と好きなアーティストのことを語り合うと、そのアーティストへの愛がより深まるから。とってもうれしかったことを覚えている。ああいう感触をいまだに味わいたくて、CRTのようなイベントをやったり、ラジオを続けさせてもらったりしているのかも。

ブルース・ジョンストン作の「歌の贈りもの(I Write the Songs)」とか、アーノルド=マーティン=モロウ作の「涙色の微笑(Can't Smile Without You)」とか、映画『ファイルプレイ』の主題歌だったノーマン・ギンベル&チャールズ・フォックス作の「愛に生きる二人(Ready to Take a Chance Again)」とか、そういう他ソングライターが書いたシングル・ヒット群ももちろん好きだけれど。

それだけでなく、1976年のアルバム『想い出の中に(This One’s for You)』収録の「二人のスイート・ホーム(You Oughta Be Home With Me)」とか、1978年のアルバム『愛と微笑の世界(Even Now)』収録の「去りゆく人(I Was a Fool (To Let You Go))」とか、前出『バリー』収録の「24時間、一人占め(Twenty Four Hours a Day)」とか、1981年の『愛はあなただけ(If I Should Love Again)』収録の「レッツ・テイク・オール・ナイト」とか、そういう本人作のアルバム・チューンも大好きだった。

と、そんなバリー・マニロウも、いつごろかな、1980年代の末くらいからだと思うけれど、アルバムに無理に自作曲を入れることへのこだわりがあまりなくなったようで。以降はポピュラー・スタンダードとかオールディーズ・ポップとかのカヴァーを中心に着実にアルバム・リリースを続けている感じ。

と、長い長い前説を終えて、ようやく本作の話ですが(笑)。

今回もまた、いわゆる“グレイト・アメリカン・ソングブック”、つまりポピュラー・スタンダードの傑作群のカヴァー・アルバムだ。2014年にリリースされてグラミーにもノミネートされた『ナイト・ソングズ』の続編ということになる。オリジナル・アルバムとしては、2017年、地元ニューヨークへの思いを託した自作曲と往年の同趣向の名曲群とを交錯させた『ジス・イズ・マイ・タウン〜ソングズ・オヴ・ニューヨーク』以来、ほぼ3年ぶりの1枚だ。

近ごろはまたラスヴェガスのホテルを拠点に長期公演を再開して好評を博しているバリーさん。でも、日本にいるとなかなかそういうのに接することもできないから。やはりカヴァー・アルバムだろうが何だろうが、こうやって新作が出てくれるとうれしい。

収録曲もいいところが取りそろえられている。発売日がヴァレンタイン・デーだったからか、それにちなんだ「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」のほか、「シー・ワズ・トゥー・グッド・トゥ・ミー」「リトル・ガール・ブルー」の3曲がリチャード・ロジャース&ロレンツ・ハート作品。ロレンツ・ハート作品としてはジェローム・カーンと組んで書いた「アイム・オールド・ファッションド」も取り上げている。

「ムーンライト・ビカムズ・ユー」「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ」、そしてフィジカルCDのみにボーナス収録されているらしき(フィジカル、まだ買えてないもんで…)「ライク・サムワン・イン・ラヴ」の3曲がジミー・ヴァン・ヒューゼン&ジョニー・バーク作品。

あとはマット・デニス作の「エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー」、ハリー・ウォーレン作の「アイ・ハッド・ザ・クレイジエスト・ドリーム」、アントニオ・カルロス・ジョビンの「メディテイション」、ビリー・ストレイホーン作の「ラッシュ・ライフ」、ガーシュウィン・ナンバー「イズント・イット・ア・ピティ」、カール・フィッシャー作の「ウィール・ビー・トゥゲザー・アゲイン」。

アルバムの告知文としてバリー・マニロウ本人が書いたメッセージによると——

素敵なメロディをつむぎ、情感あふれる歌詞を綴る。そんなアートが消え去りつつあります。ここに収められたような楽曲たちは、私にとって以前にも増して意味のあるものです。前回同様、このアルバムもとても居心地のよい1枚に仕上りました。まるであなたのリヴィングルームにいるかのように、私が歌って、ピアノを弾いて…それだけです。

とのこと。その言葉通り、前作『ナイト・ソングズ』同様、基本的にバリー・マニロウのピアノ弾き語りアルバムだ。曲よって、バリー自身が鍵盤でプレイするサンプリングによるアコースティック・ベースが加わったり、軽くパーカッションがまぶされたりしているだけ。いい曲を、まっすぐ、素敵に歌う。現在76歳ということで、歌声の伸びとか迫力はずいぶんと弱くなったけれど、そのぶん年輪を重ねた者にしか提示し得ない繊細な表現を存分に楽しめる。さすがジュリアード出身。旋律の扱い方が本当に丁寧だ。

発売日のラスヴェガスのショーでは観客にこのCDがプレゼントとして配られたらしい。うらやましい。フィジカルCDは、そういうショーの現場とか、彼のWEBショップでしか今のところ買えないみたい。WEBショップではアナログ盤とか、あと、前『ナイト・ソングズ』と組にして豪華箱に入れた50ドルくらいのセットとかも売ってます。今んとこ、ぼくはストリーミング&ダウンロードで我慢しているけど。1曲少ないしなぁ。んー、どうしよっかなぁ…。

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