Disc Review

Tone Poem / Charles Lloyd & The Marvels (Blue Note)

トーン・ポエム/チャールズ・ロイド&ザ・マーヴェルズ

ぼくが初めて買ったチャールズ・ロイドのアルバムは若き日のキース・ジャレット、セシル・マクビー、ジャック・ディジョネットら気鋭を率いてサイケに炸裂した1966年の名盤『フォレスト・フラワー』でもなく、ガボール・ザボを迎えたピアノレス・クァルテットによる1965年の『オフ・コース、オフ・コース』とかでもなく。1971年の『ウォーム・ウォーターズ』ってやつだった。実際に手に入れたのは発売からだいぶ遅れて、1970年代半ばを大きく過ぎていたけれど。

たぶんこのアルバム、この人の歴史の中でほぼ忘れられかけている1枚だと思う。ぼくも時々忘れそうになるくらいで(笑)。

で、まあ、なんでそのアルバムを買ったのかと言うと、これ、デイヴ・メイソンとかジェシ・エド・デイヴィスとかビリー・カウシルとか、そういうロック/ポップス系のミュージシャンも関わっている盤で。さらには、ブライアン・ウィルソン、カール・ウィルソン、アル・ジャーディン、マイク・ラヴというビーチ・ボーイズの面々がコーラス/ヴォーカルでゲスト参加していたからだ。内容としては、まあ、つい忘れてしまいそうになるのも仕方ないような…。

もともとぼくがチャールズ・ロイドの名前を知ったのは、『サーフズ・アップ』以降、1970年代のビーチ・ボーイズのアルバムに彼がちょこちょこ参加していたおかげ。他にもドアアーズとかキャンド・ヒートとかロジャー・マッギンとかのアルバムでも名前を見かけた。1960年代半ば、ジャズ・シーンでポスト・コルトレーン的な立ち位置で語られていたこととか、相倉久人さんがけっこうぼろくそにディスっていた(笑)ことなどはかなり後になってから知った。

なんでも、1970年代を迎えようとするころ、ロイドさんはいろいろ生き方に関して悩むようになって、ジャズ・シーンの最前線から一時撤退。マハリシ・ヨギが提唱するTM(超越瞑想)の世界に深くはまり込んだのだとか。そこで知り合ったのが、TMの伝承者というか何というか、マイク・ラヴで。その流れでビーチ・ボーイズのアルバムにプレイヤーとして参加したり、反対に彼らをコーラスに迎えたぼんやりしたアルバムを作ったり…。マイク・ラヴとはその後、セレブレイションというバンドを一緒に結成したりもしていたっけ。TMに救いを求めながら、ますます悩み多き人生に足を踏み入れちゃった感、なきにしもあらず(笑)。

その後、1980年代に入ったころ、ロイドはカリフォルニアのビッグ・サーで不動産業を営んでいたそうで。そこへたまたま移住してきたミシェル・ペトルシアーニと知り合い、彼を自宅に招待。ペトルシアーニが居間にあったピアノを弾き始めたところ、演奏に感動したロイドは長年しまいっぱなしだったサックスを持ち出し、夜を徹してセッション。そして、「こんなピアニストを10年間待っていたんだ!」と叫び、ペトルシアーニを含むクァルテットを結成して活発な演奏活動に戻った、と。これは有名なエピソード。

なんとも不思議な歩みなのだけれど。この紆余曲折がロイドの柔軟さや振り幅にさらなる磨きをかけたことも事実なのだろう。ウィリー・ネルソン、ノラ・ジョーンズ、ルシンダ・ウィリアムスらを迎えながら独自のアメリカーナ観に貫かれた音を紡ぎ続けている最近の彼の作品群を聞くたび、そんなことを改めて思う。

というわけで、2015年に名門ブルーノート・レコードにロイドが復帰してから6作目となる新作の登場。ビル・フリゼール(g)、グレッグ・リーズ(g)、ルーベン・ロジャース(b)、エリック・ハーランド(ds)という顔ぶれによるザ・マーヴェルズとタッグを組んだアメリカーナ・プロジェクトとしては3作目にあたる。

今回もフリゼールのギターが訥々と積み上げるリリカルな音の連なりと、リーズのペダル・スティールが浮遊感たっぷりに拡げる音像とがとにかく絶品。繊細さと乱暴さが魅力的に交錯するロイドの色彩感に満ちたフレージングとの相性は最高だ。ブルージーで、フォーキーで、アーシーで、もちろんジャジーで。

オーネット・コールマン作品の2連発でアルバムがスタート。以降、レナード・コーエン、セロニアス・モンク、ボラ・デ・ニエヴェ、ガボール・ザボらの作品が並ぶ。2018年の『ヴァニッシュド・ガーデンズ』でもフリゼールとのデュオ編成で静謐に演奏されていた「モンクス・ムード」とか、今回はバンドでのパフォーマンス。より深まった表現が楽しめる。しびれる。

アルバム・タイトル・チューンを含め、ロイド本人のペンによる楽曲も3曲。タイトル・チューンは1985年、ニューヨークのタウン・ホールで行なわれた“ワン・ナイト・ウィズ・ブルーノート”でのペトルシアーニ+マクヴィー+ディジョネットとの伝説的熱演がおなじみだけれど、こちらも今回、あのときとはまたひと味違う世界観が楽しめる。「ディズマル・スワンプ」でのギターとフルートのアンサンブルとかも、なんだか新鮮。

現在83歳。チャールズ・ロイドは音楽家として、今、深まりのピークにいるかのような気すらする。

ちなみに日本盤CD(Amazon / Tower)には1曲、2017年の来日公演でも披露していたビーチ・ボーイズの「イン・マイ・ルーム」がボーナス追加されているそうです。やばい。ぼくは海外のハイレゾ音源の ダウンロード販売で買っちゃった…。しまった。ビーチ・ボーイズきっかけでロイドを知った身としては、日本盤買い直さなきゃ、かな。

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