Disc Review

Heavy Sun / Daniel Lanois (eOne Music)

ヘヴィー・サン/ダニエル・ラノワ

ボブ・ディラン、U2、ニール・ヤング、ネヴィル・ブラザーズ、ブライアン・イーノ、ピーター・ゲイブリエル、ロビー・ロバートソンらのプロデューサーとして数々の名作を生み出し、グラミー賞に何度も輝いている奇才、ダニエル・ラノワ。久々にソロ名義の新作アルバムをリリースしてくれた。

スタジオ・アルバムとしては2018年、ヴェネチアン・スネアズ/アーロン・ファンクとのコラボレーションでリリースした『ヴェネチアン・スネアズ×ダニエル・ラノワ』以来。今回はいちおうラノワ単独名義でのリリースではあるけれど、実際のところは、ルイジアナ州シュリーヴポートに本拠を置くシオン・バプティスト教会に属するハレルヤ・トレイン・バンドのオルガン奏者であり合唱ディレクターである、現在35才のジョニー・シェパードを大フィーチャーした1枚に仕上がっている。

リード・ヴォーカルもほぼ全曲このシェパードさん。つまり、ジョニー・シェパードのオルガンとヴォーカルを前面に押し立てつつ、伝統的なゴスペルの要素と、最新のエレクトロニクスも駆使したラノワならではのアンビエント/エクスペリメンタルな空気感とを刺激的に融合した1枚、みたいな。そんな感じ。今回もまた、ラノワ持ち前の鋭い感覚が存分に活かされた独特の残響感がたまらない。

ラノワがシェパードの才能に惚れ込んだのは5年ほど前のこと。ロッコ・デルーカとの連名でアルバム『グッドバイ・トゥ・ランゲージ』をリリースした2016年ごろということか。なんでも、初めてシェパードの音楽性に触れた瞬間、若いころ浴びるように聞いた伝統的なソウル〜ゴスペルの4パート・ハーモニーの魅力が改めて脳裏をよぎって。シェパードこそ神がラノワに与えたもうた最高の贈り物だと確信した、と。

なんか、ずいぶんと勝手な話な気もするけれど(笑)。

それからは、もうまるでストーカーのような勢いでシェパードに電話をかけまくり、一緒にアルバムを作ろうと口説き続けたという。ラノワは自身の地元、カナダのトロントにあった仏教のお寺を改築したスタジオと、米ロサンゼルスのスタジオとでアルバムをレコーディングしようと目論んでいたが、シェパードが彼の地元の教会を離れることに難色を示したようで、なかなか計画はうまくいかなかった。

けれども、教会というものは建物そのもののことじゃない、教会には壁などないんだ、どこにいたって君の信仰そのもの、神からのメッセージそのものこそが教会なんだ…というラノワの熱い説得に押される形でシェパードはアルバムへの参加を決心。去年、新型コロナウイルスのパンデミックが世界を急襲する直前に、前述トロントとロサンゼルスのラノワのスタジオでレコーディングが行なわれ、本作『ヘヴィー・サン』が完成した。で、去年からちょこちょこ先行トラックがYouTubeとかで公開されてきて。このほど、ようやくアルバムのリリースが実現した、と。

ラノワ、シェパードの他、ロッコ・デルーカも全面参加。全11曲中10曲をこの3人で書いている。ファンキーなレゲエ・グルーヴを取り入れたアルバム・タイトル・チューンも3人の共作。同タイトルのポスト・ロックっぽいインストが『グッドバイ・トゥ・ランゲージ』に含まれていたけれど、今回はもちろん歌ものだ。もう1曲「パワー」という曲のソングライティング・クレジットにはジム・ウィルソンも名を連ねていて。この4人がベーシックな編成。シェパードのヴォーカルとオルガンを、デルーカ(ギター)、ウィルソン(ベース)、そしてラノワの3人が各々楽器で、あるいはソウルフルなコール&レスポンス・コーラスで盛り立てる。たった4人で“ヘヴィー・サン・オーケストラ”と名乗ってます(笑)。

ラノワはプレス・リリースで“この音楽で人々の気持ちを高揚させたい”とか言っていて。まさに彼が考えるところのゴスペル/ソウル観がアルバム全編を貫いている。ネヴィル・ブラザーズっぽいセイクレッド・フィールも横溢。やばいくらい胸に響く1枚だ。フィジカルは4月に入ってからのリリースだとか。今のところストリーミングで堪能しております。ヴァイナルは出るかな…。

個人的には魂のこもったオルガンと熱いヴォーカルとソウルフルなコーラスのみで綴られた「プリーズ・ドント・トライ」って曲に、まじ、しびれました。

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