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Disc Review

Vanilla Fudge (2020 Hybrid SACD) / Vanilla Fudge (Mobile Fidelity)

ヴァニラ・ファッジ(2020年モービル・フィディリティ・リマスター)/ヴァニラ・ファッジ

昨日、亀渕昭信さんと泉麻人さんとをお迎えして、ぼくもメンバーに混ぜていただきつつの鼎談を敢行。密にならないように気をつけながら、カメさんがラジオDJとしてばりばり活躍なさっていたころ、1960年代末から70年代アタマのお話をあれこれうかがった。面白かった。その模様は7月に出る電子版音楽雑誌『エリス』最新号に掲載予定。楽しみにしていてください。

で、そこで亀渕さんの興味深いお話を浴びながら、やっぱ1960年代後半というのはなんだか特別な、ロックを含む若者文化がもっとも幻想を伴って語られた時代だったのかもしれないなぁと改めて思い知った。

いろいろなところで何度も何度も書かせてもらってきたことの繰り返しになるけれど、1950年代前半に誕生して以来、卑俗で、猥雑で、やかましいガラクタ音楽と社会からまともに認知されることがなかった若者音楽=ロックンロールも徐々に成長。1960年代も後半に入ると、学生運動や反戦運動など、ある種の“思想”と結び付き、さらに自由と解放のシンボルでもあったドラッグと合体しはじめた。

象徴的なきっかけとしてはビートルズの『サージェント・ペパーズ…』とか、ドアーズのファースト・アルバムとか? あの辺のアルバムがバカ売れしたあたりを契機に、ブルース、ジャズ、クラシック、インド音楽などの要素を積極的に取り入れ、従来の45回転シングル盤における3分間の壁をぶちやぶるロック作品が次々とシーンを賑わすようになった。

そして、拡散が始まった。それまでは“ロックンロール”という一言でひとくくりにできたものが、そうはいかなくなった。フォーク・ロック、ジャズ・ロック、ブルース・ロック、アシッド・ロック、サイケデリック・ロック、ブラス・ロック、ラテン・ロック、プログレッシヴ・ロック…。様々な呼び名が生まれた。もはやロックはただの子供向けガラクタ音楽じゃない、ロックは知的な鑑賞にも十分に耐える芸術だ、と。そんな主張が若者たちの間で首をもたげはじめた。

こうした状況のもと誕生し、日本の洋楽シーンを席巻した究極のジャンル名。それが“ニュー・ロック”と“アート・ロック”だった。新ロックと芸術ロック。すごいよなぁ。なんだかわからないけど、すごい。ありがた味があるような。いかがわしいような。もはや音楽スタイルを表わす言葉ですらなかった。

今、海外でそう呼ばれている音楽はある。けれど、当時の“ニュー・ロック”“アート・ロック”は日本独自に造語して流通させたいんちきなジャンル名だったと思う。当然、昨今海外でそう呼ばれている音楽とはまるで違うものを指していた。日本のレコード会社はこぞって“ニュー・ロック・シリーズ”とか“アート・ロック・シリーズ”とか銘打ってキャンペーンを展開したものだ。確か東芝音工とCBSソニーが“ニュー・ロック”。日本グラモフォンが“アート・ロック”だったような…。

で、その“日本造語版アート・ロック”の代表選手がヴァニラ・ファッジだった。なんで代表選手かと言うと、なんたって彼らが1967年にリリースしたデビュー・アルバム『Vanilla Fudge』は、事もあろうに世相を反映して日本では『アート・ロックの旗手』という堂々たる邦題で発売されちゃったのだから。代表選手です。間違いない。

確かに。このアルバム、ぱっと聞くとそういう第一印象。基本的にオリジナル曲はなし。大げさなことが大好きなシャドウ・モートンのプロデュースの下、ビートルズの「涙の乗車券(Ticket to Ride)」と「エリナー・リグビー」、スプリームスの「ユー・キープ・ミー・ハンギング・オン」、ソニー&シェールの「バン・バン」、インプレッションズの「ピープル・ゲット・レディ」、ゾンビーズの「シーズ・ノット・ゼア」、イーヴィ・サンズの「テイク・ミー・フォー・ア・リトル・ホワイル」などヒット曲を大胆な発想でリアレンジした長尺作品ばかりだった。B面は自作スニペットを曲間に挟んだ組曲ふうの構成になっていたし。

重厚なハモンド・オルガン、重々しいドラム、ソウルフルなベース、サイケなギター。その大仰な演奏ぶりから“シンフォニック・ロック”と呼ばれたりもしていた。プログレの文脈で語られることも多かった。ヘヴィー・メタルの先駆として持ち上げられることもあった。当時中学生だったぼくもすっかりそういうもんだと思って思いきり楽しんでいたのだけれど。

でも、その後いろいろと音楽体験を積むにつれヴァニラ・ファッジは、またひと味違うバンドとしてぼくの耳に飛び込んでくるようになった。オルガン中心のバンド編成でアトコ/アトランティック所属…とくれば、ね。ロング・アイランド出身という素性も含めて、これはもう間違いなくラスカルズの後継バンドだったわけで。

そう思って接し直してみると、オルガン&ヴォーカルのマーク・スタインの歌いっぷりも実にソウルフルだし、のちにジェフ・ベックと組んで独自のブルー・アイド・ソウル系ハード・ロック・アンサンブルを構築することになるティム・ボガート&カーマイン・アピスのリズム隊もこの上なくファンキー。その事実に気づいてから、ぼくはヴァニラ・ファッジのことがますます好きになった。

あと、まだ輸入盤なんて買う手立てすらなかったぼくの中学生時代、当然、愛聴していたのは日本グラモフォンから出ていた国内盤で。カヴァー曲ばかりだったこのアルバムの裏ジャケットに掲載された北山幹雄さんのライナーノーツで、ぼくはインプレッションズとかパティ・ラベルの名前を知った。それでオリジナル・ヴァージョンを聞いてみたくて八木誠さんのラジオ番組にリクエストはがき書いて、インプレッションズの「ピープル・ゲット・レディ」かけてもらったんだよなぁ…。個人的にはこれがリクエスト初採用の瞬間だった。懐かしい。いろいろな意味でこのアルバムにはお世話になった。

そんなヴァニラ・ファッジの記念すべきデビュー・アルバムを、老舗高音質リイシュー・レーベル“モービル・フィディリティ”がこのほど再発してくれたのだった。まあ、ヴァニラ・ファッジの場合、これまでにもライノとかサンデイズドとか、いろいろな再発系レーベルからCD化が実現していたけれど。いよいよその究極、Mo-Fiからのリリースだ。しかもモノ・ミックス! もちろんオリジナル・マスター・テープからの高音質リマスター。ジャケット上部の“ORIGINAL MASTER RECORDING”の表示がまぶしい。燦然。うれしい。泣けてくる。

モノ・ミックスがこのバンドのブルー・アイド・ソウル感をより生々しく甦らせてくれる。かっこいい。しびれる。ぼくが買った日本グラモフォン盤はステレオだったけれど、なんか突然、曲によって一部モノになっちゃったり。もともとモノラルを想定して製作されていた1枚だったのだろう。そういう意味でもこのMo-Fiの判断はたぶん正しい。CDに入るたびにカットされがちだったりするA面1曲目「涙の乗車券」の前のしゃべりもちゃんと入っている。けど、そこからイントロのオルガンの音が出るまでのブランクが長すぎるような気も…。モノ盤とステレオ盤とでその長さ違ってたりする? ちょっと謎。

このほどリリースされたハイブリッドSACDヴァージョンが2000枚限定。これから出るらしい45回転180グラム重量盤アナログLP2枚組ヴァージョンってのが3000セット限定だとか。ぼくは、まあ、待ちきれず普通にナンバリング入りハブリッドSACDで聞いているのだけれど、高音質アナログも出るんじゃ、ねぇ…。

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