Disc Review

I'm New Here / Gil Scott-Heron (XL Recordings)

ImNewHere

アイム・ニュー・ヒア/ギル・スコット・ヘロン

ボブ・ディランの来日まで、ほぼひと月って感じ。やー、楽しみだなぁ。全公演ってのは経済的にも時間的にもキツいので、ぼくは3回ほどに仕分けて見に行く予定ですが。

どんなことになるのかなぁ。大筋では近年のネヴァー・エンディング・ツアーの感触のままだろうけど。でも、去年の春にロンドンで見たときの感じと、ブートで聞いた去年11月のニューヨーク公演の感じと、ほぼ半年しか違っていないのに、特にバンドのアプローチというかグルーヴというか、そういうもののムードが変わっていたりするし。その後、ふた月ほど間を置いてのライヴだけに、何かが変わっているかも。

先日のホワイトハウスでの「時代は変わる」とか、けっこうちゃんとメロディを昔のまま歌っていたりして。去年出たクリスマス・アルバムでも、おなじみのクリスマス・ソングのメロディをちゃんと歌っていたし。メロディをちゃんと歌うことが近ごろのディランさんのトレンドになっていたりしたら面白いことになりそう。まあ、そんなことはないとは思うけど…(笑)。

オープニング曲、何だろうなぁ。3パターンくらいで毎日変えてくるのがディラン流。普通に「マギーズ・ファーム」とか「ウォッチング・ザ・リヴァー・フロウ」とかで来るのか。それとも意表をついてくるのか。「オン・ア・ナイト・ライク・ジス」とかでスタートしたら腰抜かしちゃいそうだけど。うーむ…。

と、まあ、こんなことを考えているときがいちばん楽しいわけで。もしかすると来日直前のひと月くらいがもっともわくわくできる日々なのかも。満喫しましょう。満喫の一環として、左の情報欄でも告知している2月23日のCRTも、ぜひお楽しみに。小倉エージ先輩を迎えての来日直前ディランまつりです。

ぼくはもちろん読者としてエージさんのファンになって。いろいろな文章を読ませていただいてきて。いろいろな音楽を教えてもらって。はっぴいえんどのディレクターだったって事実にも胸高鳴らせたりして。その後、同業の端っこのほうに身を置くようになってからは、あれこれいろいろな局面でお世話になってきて。でも、ディランについて腰を据えてお話しする機会というのはそんなになかったから。今回のCRT、ぼくもすごく楽しみです。エージさんの1曲目予想はなんだろうなぁ。当日はアンケートで来てくださったみなさんの1曲目予想とかやっても楽しいかも。お時間ある方、ぜひ参加してください。電話予約、おすすめです。

で、今回のピック・アルバムですが。ギル・スコット・ヘロン。この人の知名度に関する話を先日、北中正和さんとしたんだけど。北中さんが「大江健三郎みたいな感じじゃないですか」っておっしゃったのが、けっこうツボでした。五木寛之とかなら名前も知ってるし、1冊くらいは誰でも読んだことがありそうだけど、大江健三郎になると名前は知っていても実は1冊も読んだことがない、みたいな…(笑)。

ただ、ノージに聞いたら、かつての渋谷系さんたちの間では、田島くんあたりが絶賛していたこともあって、一瞬、かなりの知名度を誇ったこともあったらしい。もちろんサンプリングねたとしても鉄板ではある。そういえばジャミロクワイとかポール・ウェラーとかもけっこう真似していた覚えが…。

そんなふうに知名度があるんだかないんだかわからないギル・スコット・ヘロン。それだけに、どのくらいの方が驚いてくれるかどうかわからないけど。なんと16年ぶりの新作アルバムが登場した。70年にデビュー。黒人解放を核に据えた激しいメッセージをファンキー&メロウなサウンドに乗せて放ち続けた重要なシンガー・ソングライター。ぼくも大学時代とか、よく聞きました。ヒューバート・ロウズと組んだ『フリー・ウィル』とか、ブライアン・ジャクソンと組んだ『ウィンター・イン・アメリカ』や『フロム・サウス・アフリカ・トゥ・サウス・キャロライナ』とか、70年代に彼が残した作品群は今でもときどき聞きたくなる。

この人が歌詞に託していた公民権やアンチ・ドラッグ、反核、社会的マイノリティなどをめぐるアジテーション系のメッセージが、世紀を超えた今のアメリカでどんなふうに響くのか、興味深いところだけど。そんな聞き手の後ろ向きな思いなど、還暦を超えたスコット・ヘロンさんにとってはどうでもよさそう。今回の新作は、これまでのどのスコット・ヘロン作品とも違う手触りに仕上がっている。びっくりだ。しいて言えば、最初期の朗読メインのアルバムに近いかな。ほんの30分ほどのアルバムながら、ドスのきいたポエトリー・リーディングもふんだんに交え、ヒップホップ的なサンプリングやエフェクトも駆使して、ぐりぐりグルーヴしてみせる。自作ものはもちろん、ロバート・ジョンソンの「ミー・アンド・マイ・デヴィル」のカヴァーとか、やばいです。

実は詩の内容とか、まだ全然把握できてないので、とりあえず今は、胸ぐらつかまれて、すっごい力で壁にどしんっ!と押しつけられた状態。何が何だかわからないまま、これからスコット・ヘロンさんに何を言われるのか、ツバを飲み込みつつ目を泳がせてる、みたいな。そんな情けない感じです。聞き込んでみようっと。こわいけど。

国内盤はボーナス2曲追加。ぼくは入手できてませんが。アメリカでは300枚限定で7曲のボーナス・トラック入りの盤も出ているのだとか。

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