Disc Review

Baby, Please Come Home / Jimmie Vaughan (The Last Music Company)

JV

ベイビー、プリーズ・カム・ホーム/ジミー・ヴォーン

ぼくが初めてジミー・ヴォーンのギターを生で体験したのは、もう30年以上前。1986年の春に取材でニューヨークへ行ったときだ。彼がまだファビュラス・サンダーバーズの一員として、メジャーのCBSレーベル移籍第一弾アルバム『タフ・イナフ』のプロモーションのために全米を精力的にツアーして回っていたころのこと。

といっても、実は彼ら目当てのコンサートではなかった。その夜は、ストレイ・キャッツをいったん解散してソロ・デビューを果たしたばかりのブライアン・セッツァーのニューヨーク凱旋コンサート。そのオープニング・アクトを、彼ら、ファビュラス・サンダーバーズがつとめていたのだ。超ラッキー。極上の棚ぼただった。

ウッド・ベースとエレキ・ベースを持ち替えながら、腰の入ったリフを繰り出し続けるプレストン・ハバード。着実なビートを刻むフラン・クリスチナ。時にブルース・ハープを吹き鳴らしながら渋い歌声をふりしぼるキム・ウィルソン。そして、何よりもこの人、泥臭い粘りとソリッドな切れ味を併せ持った絶妙なギター・プレイを繰り出すジミー・ヴォーン! 会場はビーコン・シアターだったと記憶しているけれど、その広いステージの中央付近にメンバー4人がぐっと固まり、あまり派手なアクションも見せずに演奏する姿が屈強のクラブ・バンドっぽくてやけにかっこよかった。キーボードのチャック・リーヴィルをサポートに従えて全部で10曲ほど、息もつかせぬ勢いで聞かせてくれたものだ。

もちろん、ファビュラス・サンダーバーズの存在はすでに知っていた。タコマ・レコードやクリサリス・レコードからリリースされていたアルバム群も全部持っていた。その辺のアルバムを買ったのはたぶん青山にあったパイド・パイパー・ハウスでだったと思うけれど、ジミーがスティーヴィー・レイ・ヴォーンのお兄さんだということも、パイド店主の長門芳郎さんから教わっていた。

で、スティーヴィー・レイ・ヴォーンも大好きだったけれど、コンパクトで、タイトで、頑固なブルース/ロックンロール・センスに関しては断然ファビュラス・サンダーバーズのほうに好感を持っていたぼくにとって、このニューヨークでの偶然というか、幸運な体験は、本当に忘れられないものになったのだった。

と、そんなジミー・ヴォーンの新作です。2017年にジミー・ヴォーン・トリオ名義のライヴ・アルバムが出てはいるけれど、ソロ名義のスタジオ・アルバムとしては2011年の『プレイズ・モア・ブルース、バラーズ&フェイヴァリッツ』以来。うれしい。まあ、久々の1枚とはいえ、内容的には前作同様。渋い曲ばかり取りそろえたごきげんなブルース・カヴァー・アルバムだ。このあたりの基本姿勢はファビュラス・サンダーバーズ時代から不変。しびれる。

ロイド・プライスの「ベイビー・プリーズ・ドント・ゴー」で幕開け。以降、ジミー・ドンリーの「ジャスト・ア・ゲーム」、レフティ・フリゼールの自作カントリーをぐっとブルージーに変身させた「ノー・ワン・トゥ・トーク・トゥ(バット・ザ・ブルース)」、エタ・ジェイムスの「ビー・マイ・ラヴィ・ダヴィ」、チャック・ウィリスの「ホワッツ・ユア・ネーム?」、ビル・ドゲットの「ホールド・イット」、Tボーン・ウォーカーの「アイム・スティル・イン・ラヴ・ウィズ・ユー」、ルイス・ブルックスとかミッドナイターズとかルース・ブラウンとかアール・ゲインズとかいろんな人がやってる「イッツ・ラヴ・ベイビー(24アワーズ・ア・デイ)」、ファッツ・ドミノの「ソー・グラッド」、ゲイトマウス・ブラウンの「ミッドナイト・アワー」、ジミー・リードの「ベイビー・ホワッツ・ロング」…と、この11曲が本編。加えて2曲のオリジナル・ブルースがボーナス収録されている。

レトロ・ブルース仲間とも言うべきバンド、ルームフル・オヴ・ブルースのメンバーなども含むバンド陣も最高。スウィンギーなリズム隊も、ファンキーなハモンド・オルガンも、ごりごりのホーン勢も痛快。が、なんといってもジミー・ヴォーンのギターが渋い。俺が俺が…的に前に出てくるわけでもないのに、ここぞのポイントでバシッと、これしかないというフレーズをキメてくれる。別に新しい発見など何ひとつない演奏ではあるけれど、それがどうした。

ヴォーカルの弱さは本人もよく知ってるため、今回も曲によっては相変わらずゲストに頼ったりもしているけれど、本人の歌声も以前に比べればだいぶ力強くなってきて。Tボーンの「アイム・スティル・イン・ラヴ・ウィズ・ユー」とか、ちょっとダグ・サームみたいなムードも漂っていたり。ブルースには年の功も重要っすね。

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