Disc Review

ツヨクヨハク / ヨシンバ (Happiness Records)

YoshimbaTY

ツヨクヨハク/ヨシンバ

その昔、1990年代の終わりごろ、ぼくはフリーボというグループのアルバム作りのお手伝いをさせてもらったことがあって。なんだか、すごく楽しかったことを覚えている。

フリーボは、ヴォーカルとアコースティック・ギターとソングライティングを手がける吉田奈邦子を中心に据えた4人組。なおちゃん、いい曲書くんだよなぁ。当時、メンバーはみんな20歳代だったけれど、全員、60年代末に出たザ・バンドのファーストとか、70年代アタマに出たボニー・レイットやエリック・ジャスティン・カズやニール・ヤングのアルバムとか、あるいは吉田美奈子とか、はっぴいえんどとか、金延幸子といったアーティストが70年代初頭にリリースした作品群とか、そういうのが大好きで。ぼくとは15歳以上年齢が離れている連中なのに、ぼくが高校生ぐらいのときに聞いていた音楽たちを、あのころ、90年代に愛聴して、若い世代なりの感覚で再構築してみせていた。

ぼくとフリーボのメンバーたちは、年齢差とかを軽く飛び越えて70年代の音楽を話題に言葉を交わし、そうした音楽への愛情と敬意を音にこめてリハーサルをし、レコーディングをし…。けれども、リアルタイム派であるぼくと、後追い派である彼らのアプローチはやはりそれぞれ違っていて。それがやけに新鮮だった。同じニール・ヤングに熱いまなざしを送っていても、ぼくと彼らとでは何かが決定的に違う。その“違い”こそが90年代ならではの何かってことになるんだろうなと実感する日々だった。

ギターの石垣窓のプレイとか、渋さと乱暴さとがいい具合に共存しているというか、多様な時代感覚が捻れるように混ざり合っているというか、バッファロー・スプリングフィールドとダイナソー・ジュニアを行き来しているというか、ものすごく興味を惹かれたものだ。

そんなフリーボとかと同じ世代のバンドには、たとえばコモンビルとか、バブルバスとか、初恋の嵐とか、なかなかに興味深いバンドがたくさんいて。フリーボと一緒に仕事できた楽しさの中には、そうした彼らの音楽仲間たちの存在を知ることができたことも含まれていた。で、そんな仲間たちのひとつがヨシンバだった。当時から、なんだか独特だったっけ。穏やかで、ナイーヴで、でも、やけにエロい、みたいな(笑)。ソウルのような、フォークのような…。フリーボ同様、新世代ならではの感覚で往年のポップ・イディオムを敬いつつもけっこう身勝手に解体し、奔放に再構築してみせるアプローチがとても新鮮だった。

去年がデビュー20周年だったとか。とはいえ、核を成すメンバーである吉井功がソロで活動したり、別プロジェクトで動いたり、あれこれしていたこともあり、レコーディングからはしばらくごぶさた状態。このほど、なんと13年ぶりに通算5作目となる新作アルバムを完成させた。13年ぶり…って。セカンドとサードの間がずいぶん空いて話題を呼んだボストンだって、あのときのブランクは8年だったんだから。13年ぶりとなると、もう別バンドの音みたいになってるんじゃないの? とか思ったものの。

素晴らしいことに、これがどうにもヨシンバなのだ。間違いなくヨシンバの音。穏やかで、ナイーヴで、エロい。不変。鉄壁。やっぱりしぶといバンドだな、と改めて思い知った。しかも収録されているのは、たぶんこの13年という長い歳月のあちこちのタイミングで生まれた楽曲たちで、それらがランダムにぐわっと入り乱れながら並んでいるのだろうけれど、おかげでタイムレスな感触がアルバム全体を貫いているというか。いい意味で時代性のようなものから解き放たれているというか。ある種の集大成感に胸が震える。

デビュー以来、折に触れてメンバー・チェンジを繰り返し、13年前の4作目をリリースしたあとからは、吉井功(ヴォーカル、ギター)、西村純(キーボード)、朝倉真司(ドラム)というベースレスの変則3人編成に。ということで、今回のレコーディングでは、長年ベースでライヴをサポートしてきた隅倉弘至(初恋の嵐)が全曲に参加。やはり長年の仲間である玉川裕高(元コモンビル、赤い夕陽)、鳥羽修(元カーネーション)、中森泰弘(ヒックスヴィル)の3人が曲によってリード・ギタリストをつとめている。この辺の人脈的にも集大成感あり。

ヨシンバもフリーボ同様、デビューしたころから、たぶん実体験はないはずの60〜70年代音楽への限りない共感のようなものを後追い世代として表明していたバンドだったけれど。さすがにあれから20年。そうした追体験ものへの造詣もぐっと深まり、リアルタイムかどうかなんてことどうでもよくなって、それがさらに、たとえばファーザー・ジョン・ミスティとか、スフィアン・スティーヴンスとかが提示している今の時代の空気感に対する感受性のようなものと絶妙に攪拌されながら、独自の音宇宙を編み上げている。

ポップ・ミュージックの世界では、確かに出会い頭の刹那的なスピード感に満ちた勢いってやつも重要だけれど、それと同じくらい、長い歳月によってのみ醸し出される熟成感ってやつも大切なんだな、と。『ツヨクヨハク』はそんなことを教えてくれる素敵な1枚です。トシとるのも悪くないね。

ちなみに、明日、21日放送のJRN系『萩原健太のMusic SMiLE』で『ツヨクヨハク』から「だんだん」と「アイラブユーすら言えず」の2曲をオンエアします。聞くことができる環境の方、ぜひチェックを。

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