Disc Review

Smoke from the Chimney / Tony Joe White (Easy Eye Sound)

スモーク・フロム・ザ・チムニー/トニー・ジョー・ホワイト

もう3年前か。突然の訃報だった。報せを聞いたときの驚きは今も忘れない。当時最新にして、しかし結果、生前最後のオリジナル・アルバムとなってしまった『バッド・マウシン』を2018年9月にリリースした矢先。同年10月24日。トニー・ジョー・ホワイトがテネシー州の自宅で心臓発作のため逝去した。75歳だった。

“ザ・スワンプ・フォックス”などと呼ばれる南部スワンプ・ロックンロールの担い手。エルヴィス・プレスリーがカヴァーしたことでも知られる「ポーク・サラダ・アニー」のようなファンキーでブルージーなナンバーから、ブルック・ベントンが大ヒットさせた「レイニー・ナイト・イン・ジョージア」のような男の哀愁漂うメロウでセンチメンタルなバラードまで、ルイジアナ生まれの彼が生粋の南部人感覚を全開にしながら遺した音楽たちは永遠だ。

1968年のファースト・アルバム『ブラック&ホワイト』から、前述『バッド・マウシン』まで、ライヴも含めて生前に30作近いアルバムをリリースしてきたトニー・ジョーだけれど。なんと、晩年、自宅録音された未発表音源がここにきてお披露目されることになった。トニー・ジョーが亡くなったことを改めて思い知らされて、なんとも寂しい気分にもなるけれど。でも、新しい彼の歌声を味わえるのはやはりうれしい。

生前からプロデューサーとして、あるいはソングライターとして、トニー・ジョーのレコーディングに深く関わってきた息子さん、ジョディ・ホワイトが仕掛け人だ。トニー・ジョーが生前、ギターやベース、ハーモニカなどを弾きながらアナログ・マルチに記録していた自作曲の未発表トラックをていねいに整理し、そこからピックアップした9曲をデジタル・データ化。それらの音源を、南部に渦巻く伝統的なブルース/カントリー/ロックンロール感覚を現代へとリストアすることにかけては右に出る者なし…のダン・アワーバック(ブラック・キーズ)に託した。

アワーバックもかねてからトニー・ジョーとは共演したいと熱望していたそうだ。が、晩年のトニー・ジョーは誰かと曲を共作したり、スタジオで共同作業をしたりするのが苦手だったようで。自分の慣れ親しんだ環境で、自分のやり方でレコーディングしたかったという。そのため、結局、トニー・ジョーの生前にこの二人のコラボレーションは実現せずじまい。が、今回、ジョディ・ホワイトを介して、ついに夢がかなうこととなったのだった。

アワーバックは、自らの本拠、ナッシュヴィルのイージー・アイ・スタジオで再構築作業に着手。伝説のセッション・ミュージシャン軍団“メンフィス・ボーイズ”の一員でもあったボビー・ウッド(キーボード)、ナッシュヴィルの名手として知られるベテランのビリー・サンフォード(ギター)やポール・フランクリン(ペダル・スティール・ギター)、デイヴ・ロー(ベース)、ヨーヨー・マからダイアナ・クラールまでジャンルレスでサポートする腕ききのスチュアート・ダンカン(フィドル)、さらに新世代アワーバック・ファミリーとも言うべきマーカス・キング(ギター)やニック・モーヴション(ベース)らを起用しながら、的確なオーヴァーダビングを施し、素晴らしい新作アルバムの完成へと導いた。

アルバム冒頭を飾る表題曲が、いきなりミディアム・スローのサザン・カントリー・バラード。過ぎ去っていった長い歳月。喪失感もあれば、色褪せない確かな思い出や記憶もある。年取ってくると、ここで歌われているようなテーマはいっそう沁みますわ(笑)。先行トラックとしてリリースされた「ブート・マネー」のような泥臭いスワンプものから始まらないところが渋い。狙い、ばっちり。トニー・ジョーの深い魅力がより有効に伝わってくる気がする。しびれる。

ここぞという個所でナイロン弦のアコースティック・ギターを印象的に使いこなしているところなども、さすがアワーバック。お見事だ。そして何よりも、晩年であるにもかかわらず、そのファンキーさ、ブルージーさ、泥臭さ、渋さ、男臭さ、スウィートさなどにまったく翳りを見せていないトニー・ジョーの底力に圧倒される。

15年くらい前、米ライノ・レコードが限定リリースしたボックスを本ブログで紹介した際、ぼくはこんなことを書いているのだけれど——

この人が体現するスワンプ・ロックの重要なルーツはカントリー・ミュージックなわけだが。といっても、マウンテン・ミュージックと形容されることもあるタイプのピュア・カントリー音楽じゃない。マウンテン・ミュージックがイギリスのトラッド/フォーク・ソングの影響を強く継承しているのに対し、南部の湿地帯を中心に広まったカントリー音楽は(中略)白人も黒人も環境をともにしながら入り乱れて暮らしているという土地柄を反映してか、よりブルース色、R&B色が濃い。そんな音楽性にオブラートをかけることなく表現したトニー・ジョーの音楽…

その音楽をこの“新作”アルバムでも堪能できる。ぼくはイージー・アイ・サウンドのWebストアでWeb限定オレンジ・ヴァイナルLPを注文していて。そのブツがまだ届いておりません。なので、それとバンドルで格安同時購入したロスレス・デジタル・ファイルで聞いているのだけれど。

やっぱり、一刻も早くアナログ盤で聞きたい感じ。そういう音です。早くアナログ、届かないかな…。

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