Disc Review

P・U・L・S・E RESTORED & RE-EDITED (2Blu-ray Deluxe Edition) / PINK FLOYD (Legacy Recordings/Sony)

驚異 (RESTORED & RE-EDITED) 2ブルーレイ・デラックス・エディション/ピンク・フロイド

今月号の『ミュージック・マガジン』でも、この箱、紹介させてもらっていて。そこでも書いたことなのだけれど。

だいぶ前の話。レコード棚で赤いLEDライトが昼も夜も、えんえん、チカッチカッと点滅し続けていたことを思い出す。健気にというか、無機的にというか。とにかくずっと点滅していたっけ。ずいぶん長いこと電池も切れずがんばっていた。なんだかすごく懐かしい。

ピンク・フロイドの『P・U・L・S・E』。彼らが1994年のアルバム『対(TSUI)』のリリースに合わせて行なったツアーから、同年10月20日のロンドン、アールズ・コート公演の模様を収めた2枚組ライヴ盤で。もちろんロジャー・ウォーターズは不在。デヴィッド・ギルモアのピンク・フロイド。ギルモア、ニック・メイスン、リチャード・ライトを核に、鉄壁のサポート陣を従えて一分の隙もないピンク・フロイド・ワールドを聞かせてくれていて。1995年に発売された際、その完璧なパフォーマンスに度肝を抜かれたものです。

第2部が、アルバム『狂気(The Dark Side of the Moon)』の全曲演奏。これも強力。映像も当初はテレビで見たっけ。その後、VHSやLD化もされて。2006年には再編集が施されたDVDが『驚異』なる邦題の下でリリースされたり。ピンク・フロイドというバンドの圧倒的なスケール感のようなものを改めて思い知らされる一作だった。

1971年、例の“箱根アフロディーテ”でピンク・フロイドを生体験した際、あの時はあの時でそれまで見たこともなかったすげえスケール感にぶっとんだものだけれど。それから四半世紀という歳月を重ねた1995年、さらに大きく、別次元へと足を踏み入れつつ、彼らがバンドの存在感を究極まで増幅してみせていたことに圧倒された。でもって今、さらにそこから四半世紀。今回改めて聞き直し、見直しして、変わらず圧倒されたのでありました。

そのアフロディーテを取り上げたエントリーでも書いた通り、ぼくはいわゆる“プログレ”一般が苦手。でも、なぜかピンク・フロイドは好きで。ピンク・フロイドと、あとエマーソン・レイク&パーマーとムーディ・ブルースと、初期イエスもちょこっと。高校生時代、そこそこよく聞いていた。特にピンク・フロイドとELPは初来日公演にも駆けつけたくらい。ELPのエンタテインメント性にはロックンロール・スピリットを感じたし、ピンク・フロイドはギルモアのギターが思い切りブルージーでしびれたし。まあ、これ、プログレを味わう姿勢としては邪道なのかもしれないけれど。

ともあれ、ぼくはぼくなりにピンク・フロイドをそれとなく追いかけ続けてきて。この『P・U・L・S・E/驚異』は、これが彼らにとって今のところラスト・ツアーの記録であるということも含め、そんな歩みのある種の到達点。熱心なマニアの方に比べれば足下にも及ばないとは思いますが、個人的にそれなりの感慨を覚える一作だった、と。そういうことです。

このライヴ映像、実はその後、2019年に5CD+6ブルーレイ+5DVD+2アナログ・シングルというとんでもないボックスセット『ザ・レイター・イヤーズ』(Amazon / Tower)が出た際、オリジナル・マスターから入念なレストアと再編集が施されたハイクオリティなアップグレード版として初ブルーレイ化されていたのだけれど。このボックス、5万円くらいしたもんで。そりゃないよ、と。泣いたファンも多いことでしょう。

そんな嘆きが天に届いたか、ボックスから『驚異』だけ抜き出した単独リリースがこのほど実現。しかも、なんと懐かしの“点滅パッケージ”仕様で! それが本作『驚異(RESTORED & RE-EDITED)』なのでありました。

ブルーレイ版、 DVD版、ともに2枚組で、ディスク1が本編。1995年版CDは曲順があれこれいじられていたけれど、こちらは当夜の模様を全編2時間20分ほど丸ごと、セットリスト通りに収録している。

巨大アーチ状のゴージャスなステージセット。円形スクリーンに映し出されるイマジネイティヴな映像。ミラーボール、レーザー、バリライトを駆使し、ドラム・フィルなど曲の進行に見事にシンクロした完璧な照明。コーラスのおねぇさんたちも、ヒラヒラきれいな衣装に身を包んで、けっこうちゃんと振り付けしながら歌うんだぁ…とか、楽しい気分になる。初来日のときのストイックなムードとはまた違って、興味深い。ショーアップ、大事だよね。

でも、それら豪勢なセッティングを背負い、しかしまるでリハ中みたいにラフなTシャツをダボっとしたジーパンにインしたお姿で、淡々とギターを奏で、歌うギルモアが印象的。“光と音の大スペクタクル・ショー”と賞賛されたその空間で、自分は純粋に音楽だけ担当しているんだというストイックな感触が、まじかっこいい。ギルモアのヴィブラートとかアームの使い方とか、今さらながらではありますが、やっぱり魅力的だなぁ。

ディスク2のほうは『ザ・レイター・イヤーズ』ボックスのディスク10というか、ミュージック・ビデオや、未発表ライヴ映像、リハーサル映像、ライヴの背景に流されるスクリーン・フィルムなどを収めたブルーレイ5から、このツアー関連のものだけ抜粋したボーナス映像集。

ライヴ写真満載の60ページのオリジナル・ブックレットに加え、日本盤には独自の44ページ別冊ブックレットも付いてます。映像見るのが精一杯で、まだ読んでませんが(笑)。

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