Disc Review

Back In The U.S. / Paul McCartney (Capitol)

バック・イン・ザ・US/ポール・マッカートニー

松井の今後が気になる。ペタ入りのジャイアンツってどんなものなのか未だに実感できない。星野がまるでフロント気取りで吠えてるし、ナベツネはバカなことばっかり言ってるし、ついでにビクターやソニーまで矛盾だらけの新方式とやらでコピー・プロテクテッド導入を宣言しやがるし……。なんだかなぁ、の昨今、ぼくにほんのひとときでも痛快な気分をプレゼントしてくれたのが、そう、ポール・マッカートニーの来日公演だった。

だいぶ時が経ったので、今さらながらの話題ではありますが。でも、ポール。よかった。「カリコ・スカイズ」が1曲多く演奏されたという大阪公演には行けなかったものの、東京公演3日間通い詰めて。泣いた。震えた。なもんで、今回のピック・アルバムはベタにこれにしました。こないだ出たレココレでの宇田さんみたいに、このライヴ盤に否定的な人もいるようですが。いやいや。これは素晴らしいライヴ盤です。ポールのライヴ盤はいろいろ出ているものの、今回の2枚組は『ウィングス・オーヴァー・アメリカ』に次ぐ傑作でしょう。

ポールが先日の日本公演に先駆けて北米で行なった最新ツアーの模様を丸ごと収めたCD。まず、日本公演でも思い知った通り、バンドがいい。90年のツアーのときの、リンダとかヘイミッシュ・スチュワートとかを含むバンドもなかなか見事な仕事を聞かせてくれていたけれど、そのラインアップからはキーボードのウィックスだけ残してロサンゼルス系の若者に総入れ替えした今回のバンドは、まじごきげん。ビートルズ・ナンバー、ウィングス・ナンバー、ソロ・ナンバー、それぞれのオリジナル・フレーズを最大限に尊重しつつ、きっちり今のグルーヴと音圧を具現してみせる手腕に惚れた。

しかし、前のツアー・バンドのときも思ったことだけれど、ポールはほんとにバンドが……というか、バンド形態が好きなんだなぁ、と。だから5人編成ならば、その5人以上には絶対増やさない。サポート・ミュージシャンとかは入れず、すべてを5人なら5人で表現しちゃう。

たとえばローリング・ストーンズあたりだと、バンドとしての強固なコンビネーションを前提に、そこにホーンをかぶせたり、コーラス隊を引き入れたり、キーボードを差したり、新しいグルーヴに積極的にアプローチしたりしながら、かつての作品を今の時代のものへと昇華させ、同時に自分たちの健在を示してみせる。対してポールは、最新アルバムからの曲も含め、自分がかつて作り上げた完成型としての作品を、ほぼそのままの形でぼくたちに提示し、そのメロディやアレンジ、構成、サウンドのスタイルなどが今も全く有効性を失っていないという事実を堂々と証明してみせる。それも、バンドという形態にこだわりながら、だ。やり方は全く正反対かもしれない。けれど、この両者がぼくに思い知らせてくれるのは同じ感動だ。彼らが過去を捨て去ることもせず、全てを呑み込んだ上で、今の時代に確実に呼吸しているアーティストなのだという事実に対する感動。これを単に“懐かしい”だの“青春がよみがえった”だの。そのテのノスタルジアだけで評価するのは失礼だと思う。

だってさ。来日公演でも思ったけど。このライヴ盤でも、ポールは全くキーを変えずに往年の名曲群を演奏しているわけで。普通、トシとったら高い声とか出なくなるので、キーを下げて演奏したりするでしょ。許すよ、聞き手側も。なのに、ポールは若いころめいっぱい高い声を張り上げて歌っていた曲を、今なおそのままのキーでシャウトしている。もちろん、さすがは60歳のおじいちゃん。時おり高音部で声がかすれたり、ひっくり返ったりするものの、それでもポールはあくまで自作曲をオリジナル・キーで演奏する。すべての曲を、作られた時点でのフォーマットのままぼくたち聞き手に提供する。つまり、この最新ツアーでポールがぼくたちに見せてくれたのは、今60歳のポール・マッカートニーというパフォーマー自体ではなく、あくまでも彼が40年に及ぶキャリアの中で生み出してきた、そして今なお色あせることなく通用する楽曲そのものだってことだ。

ポップス・ファンとしては、この姿勢、かなりウルウルものだったりする。ポール・マッカートニーというアーティストが何を大切に思い、何を守りながら曲を作り、歌い続けてきたのか、再確認させてくれる素晴らしいライヴ盤です。ここで聞ける「ヴァニラ・スカイ」とか、生でも聞きたかったな。

そうだ。あと、これはすでにレココレのほうに訂正文を送ったので、来月号に載ると思いますが。レココレのポール・マッカートニー特集中、54ページの「恋を抱きしめよう」に関して。“サビで2小節まるまる2拍3連になる部分はジョージ・マーティンのアイデア”と書いちゃってますが、これはマーティンではなくハリスンの間違いでした。寝ぼけ眼で原稿書いちゃいけませんね。指が勝手にマーティンって動いちゃったのでした。いかん。申し訳ない。反省してます。


さて、ついでですが、東芝EMIのファミリークラブ系ボックス・セット『ミリオン・ヒッツ・コレクション』ってのを選曲・監修させてもらいました。ここにとりあえずの情報が載っているけど、あまり収録曲に関して詳しく書かれていないので、少し補足しておくと。

 Million Hits Collection / Various Artists (Toshiba EMI)

  • ブルー・スウェード「ウガチャカ」
  • ジェリー・ウォーレス「男の世界」
  • ジョニー・ディアフィールド「悲しき少年兵」
  • ロリー・ロンドン「ヒーズ・ガット・ザ・ホウル・ワールド・イン・ヒズ・ハンズ」
  • ダニー・ウィリアムス「ホワイト・オン・ホワイト」
  • ボブ・リンド「夢の蝶々」
  • ラヴ・ジェネレーション「二人のサマータイム」
  • ザ・キャッツ「ひとりぼっちの野原」
  • ハリケーン・スミス「オー・ベイブ」
  • エドワード・ベア「ラスト・ソング」
  • ジェシ・コルター「アイム・ノット・リサ」
  • クリスティ「イエロー・リバー」
  • リン・アンダーソン「ローズ・ガーデン」
  • チッコリー「恋の玉手箱」
  • オーシャン「サインはピース」
  • メリリー・ラッシュ「朝の天使」
  • ミドル・オブ・ザ・ロード「チピチピ天国」
  • リユニオン「ライフ・イズ・ア・ロック(ロックは恋人)」
  • ロジャー・ウィテイカー「ラスト・フェアウェル」
  • シルヴァー「恋のバンシャガラン」
  • バカラ「誘惑のブギー」
  • P・F・スローン「孤独の世界」
  • メッセンジャーズ「気になる女の子」
  • フリー・ムーヴメント「愛の影」
  • ピンキーとフェラス「マンチェスターとリヴァプール」
  • ヒットメイカーズ「ストップ・ザ・ミュージック」
  • ミッシェル・デルペッシュ「ワイト・イズ・ワイト」
  • ザ・ベルズ「恋はつかのま」
  • イングランド・ダンとジョン・フォード「シーモンの涙」
  • レス・クレイン「デジデラータ」
  • ジェイムスタウン・マサカ「遙かなる夏の陽」

などなど、まあ、これはほんの一部ですが。そういう曲をいろいろぶちこませていただきました。ぼくのNHK-FMの番組ですでにかかった曲ばかり……って感じもありますが(笑)。もしよかったらチェックしてみてください。 

Happy X'mas Box / Various Artists (Toshiba EMI)

あと、この季節なんで。何年か前にぼくが選曲・監修した自信作、これも改めてよろしく。オーソドックスな定番クリスマス・ソングから、ロックンロール・ファンが大喜びしてくれるであろうレアなクリスマス・シングルまで、ぐしゃーっと詰め込んであります。年末のお供に、ぜひ。

 告知ついでにCRTのお知らせもしておこうかな。左のバーを見ていただければわかりますが、次回の“レココレ&CRTプレゼンツ”イベントは12月10日。テラさんは相変わらず骨折欠席ですが、湯浅学、和久井光司ほか、CRTレギュラー陣をお迎えしての大忘年会です。今年もいろいろなテーマを立てながら毎月開催してきましたが、そのテーマにそぐわないために披露できなかったコマネタ研究発表とか、今年の年間ベスト発表とか、ブライアンのハワイ公演速報レポート(予定)とか、我が家からあぶれたCD(もちろん全部正規購入盤。サンプル盤はないです)大放出1枚200円出血フリーマーケットとか、最新再発盤/ブート情報とか、興が乗ったら伝説のテラさん転倒シーンの衝撃映像検証とか、ここでは書けないようなヤバイことも含め、やれそうなことは全部やる忘年イベントです。盛り上がりましょう!

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