Disc Review

Mind If We Make Love To You / Wondermints (Smile)

恋する気持ち/ワンダーミンツ

もともとは冗談でスタートした健一&健太。ご存じでしょうか。黒沢健一が歌って、ぼくが生ギターを弾く、というカヴァー曲専門ユニットなんだけど(笑)。去年のCRTの“ポール・マッカートニー&ウィングス Night”のとき、ぼくの生ギター演奏で健一が「マイ・ラヴ」を歌ったのが最初かな。そのあと、“ビーチ・ボーイズ Night”のときかなんかに、軽く「サーフズ・アップ」とか「ティル・アイ・ダイ」とかのサワリを演奏したこともあった。で、それをきっかけに、今年の夏、本格的に活動開始。東京・大阪で計4回、ビーチ・ボーイズ関連のイベントやFM/TV番組に出演して、ブライアン・ウィルソン作品の弾き語りカヴァーをさせてもらって。

で、この秋は来日迫るポール・マッカートニー作品のカヴァーでまたまたあちこちに出演させてもらってます。10月13日の深夜、讀賣テレビとFM802が共同で生放送したポール来日記念特番を皮切りに、16日にはCRT“ポール・マッカートニー Night”……と順調にライヴをこなしております。この勢いで、11月1日にはわれわれ健一&健太の本格的デビューの場ともなったお台場のライヴハウス“JIMMY'S EAT & BEAT”にも出演します。今度はワンマンです(笑)。これもポール・マッカートニー来日記念のトリビュート・イベント。ポールの魅力を語りまくりつつ、演奏もさせてもらいます。詳しくは左側のインフォメーション・バーを見てください。

もちろん、いまだ冗談半分というか、あくまでもサイドプロジェクト的なユニットであることは確かなのだけれど、健一もぼくも実際に演奏する際には、かなり本気モードに突入してます。まあ、ライヴをやる際、ぼくのこと見に来る人ってのはまずいないと思うわけですが(笑)、ソロ・アーティストとしての黒沢健一の別の面というか、ポップ・ミュージックを心底愛する者ならではの豊かな底力というか、柔軟さというか、そういうものを楽しむには絶好のユニットなんじゃないかなぁ……と、自画自賛っぽくなりますが、思いますです。ピアノではなく、指弾きのアコースティック・ギター1本で健一の歌……ってのは、なかなかいいっすよ、まじに。

で、ぼくのほうの近々のイベント出演関連情報ですが。ものすごく近いところでは、明日、10月20日(日)の午後2時から新宿ロフトプラスワンで催される“コピーコントロールCD反対集会”みたいなのに出ます。詳しくはこちらを。あと、同じく新宿ロフトプラスワンで10月24日(木)、午後7時半から行なわれる“日本一祈願・讀賣ジャイアンツ・ナイト”ってのもあります(笑)。リリー・フランキーさんをメインに、G党が結集して、ビデオを見たり、曲を聞いたりしながらあーだこーだ盛り上がる狂熱の一夜です。ジャイアンツ・ファンでなくてもむちゃくちゃ楽しめると思いますので、ぜひご参加くださいませ。こちらも詳しくは左側を。

と、すっかり告知ばかりで申し訳ない。最近はなかなか時間が作れずホームページの更新もできない状態なのですが。更新できないときは無理しないって方針で、細々いかせてもらいます。とりあえず今回のピック・アルバムはワンダーミンツ。ブライアン・ウィルソンのライヴの際、メンバーのダリアンやニッキーから「今、作っているアルバムはオーガニックなものになると思うよ」と聞かされていた。実際、仕上がったアルバムを聞いてみて、なるほど、うまい言い方するもんだな、と感心。要するに、これまでエレクトリック楽器中心の編成で、時にはマニアックなギミックも盛り込みつつパワー・ポップっぽかったりプログレっぽかったりする音世界を構築することが多かったワンダーミンツが、今回はよりアコースティックな手触りの世界を作り上げている、と。そういうことなわけだが。

とはいえ、いわゆる“アンプラグド”的な、生ギターじゃんじゃん系のアコースティック風味ではなく、60年代半ばのブライアン・ウィルソンとか、ジミー・ウェッブとか、カート・ベッチャーとか、アソシエーションとか、ブレッドとか、そういう連中が試行錯誤していたようなタイプの、より深い奥行きを感じさせるナチュラルなアンサンブルみたいな。そういうものを目指した一枚って感じだ。当然、ブライアン・ウィルソンのバック・バンドに参加して得た様々なノウハウを存分に活かした仕上がりになっている。そのブライアン親分とイーヴィ・サンズのゲスト参加も話題だ。

もちろん、すべての楽曲がそういったタイプの、奥行きが深い音像に貫かれているわけではなく、ゾンビーズっぽいアプローチが聞かれたり、従来のパワー・ポップものっぽい展開が聞かれたりもするので、従来のファンも一安心。いつもながらバラエティ豊かな曲調が取りそろえられているものの、ダリアンとニッキーを中心に粒ぞろいのメロディを紡ぎ上げており、全編が見事なワンダーミンツ色で染め上げられている。バランスもいいし、曲もいい。才能あるバンドだなぁ。まじ、あとは本格的ブレイクを待つだけなのだけれど、うーむ、ブレイクするために何が足りないんだ? わからん。ルックスか?

とにかく、これだけ趣味性の高い世界を作り出すバンドだから。こういう連中って、趣味性高い音楽に好意を寄せやすいわれわれ日本の音楽ファンこそがサポートしてあげないと。国内盤のリリースは未定のようだけれど、サポートしましょう、力いっぱい。


さて、長いこと更新しなかったので、その他、最近お気に入りのアルバムを軽く並べ立てておきましょう。 

Sea Change / Beck (DCC/Geffen)

シンガー・ソングライター・モード全開で作られた新作。いいね。ロッキンオン/スヌーザー的な視点からベックを楽しんでいる人たちよりも、ルーツ・ロック的な視点でベックを眺めている人のほうがその真価をまっすぐ感知できるであろう名盤です。ちなみに、ぼくは水色っぽいジャケットのやつ買いました。ここに写真を載せたピンクが通常盤? 

The Naked Ride Home / Jackson Browne (Elektra)

青春を表現するのに最適の声、ってやつがあるとすれば、それはこの人の歌声だろう。6年ぶり、通算12枚目。懐かしの傑作『レイト・フォー・ザ・スカイ』からすでに30年近い歳月が流れて。ベテランらしい余裕と貫禄が随所に感じられるのは当然だけれども、彼ならではの歌声の手触りだけは今も変わらない。世の中の矛盾を純粋に嘆き、行く末を憂い、ひたすら繊細に、内省的に悩み続け、そんなふうでいながらも、しかしどこか希望と楽観を漂わせたこの人歌声は健在だ。アルバム後半に向かうに従ってぐんぐんシミてきます。

Cobblestone Runway / Ron Sexsmith (Nettwerk)

通算5枚目。プロデューサーがマーティン・テレフェに変わって、サウンドのほうはエレクトロニカ風味も交えたポップ寄りのものへと少しだけシフトチェンジしているのだけれど。でも、それにしたってロン・セクスミスだ。歌の本質までが変質することはありえない。内省的で、叙情的で、どこか達観したような、しかし瑞々しさと無垢さをけっして失わないロン・セクスミスのまなざしはそのまま。自分の心に向かってつぶやくように自問を繰り返す歌詞も、壊れそうに切なく美しいメロディも変わらず素晴らしい。泣けます。

The Last DJ / Tom Petty & The Heartbreakers (Warner)

孤高であることの自由さと、悲しさとをたたえながら、鉄壁のルーツ・ロック・サウンドに乗せて常に等身大の自分自身を歌い続けるトム・ペティの通算13枚目。そんな持ち味はそのまま、今回は少しだけポップに、メロディックに……。完璧ですよ。

Jerusalem / Steve Earle (Artemis)

先日、禁固20年の判決が言い渡されたアメリカ人タリバン兵、ジョン・ウォーカー・リンドの立場に立って一人称で歌われた楽曲を含んでいることから、リリース以前からかなり激しい論議が巻き起こっていたスティーヴ・アールの新作。世界貿易センターが倒壊したあの悪夢の瞬間をある種の象徴的テーマとして中心に据え、現在のアメリカが直面している様々な病巣、問題点へと視線を向けた仕上がりだ。ダークなトワンギー・サウンドでトーキング調に展開する曲とか、いかにも近年のスティーヴ・アールのトレードマークといった感じのハード・アコースティック・ロックとか、国境付近の牧歌的な魅力をたたえた曲とか、軽快なテックス・メックス・サウンドとか、エミルー・ハリスとの切ないデュエットとか、フォーク・ロック調の曲とか、音のほうだけでも耳を引きつけるポイントはいろいろあるのだけれど。歌詞が重いらしいぞ…という先入観を抜きにしても、どことなく音の背後に陰鬱なムードが感知できて。その辺は、ほぼ全曲自宅スタジオでのレコーディングというパーソナルな環境によるものだろうか。単純にかっこいいアメリカン・ルーツ・ロック・アルバムとして、歌詞から目を逸らしつつ脳天気に楽しむのはなかなかむずかしいかも。

Dressed In Black: A Tribute To Johnny Cash / Various Artists (Dualtone)

Kindred Spirits: A Tribute To The Songs Of Johnny Cash / Various Artists (Lucky Dog/Sony)

『ドレスト・イン…』のほうはハンク・ウィリアムスⅢ、ロビー・ファルクス、ロドニー・クロウェル、ラウル・マロ、ビリー・バーネット、ブルース・ロビソン、ケリー・ウィリス、クリス・ナイトら、『キンドレッド…』のほうはプロデュースも手がけるマーティ・スチュアートをはじめ、ドワイト・ヨーカム、ロザンヌ・キャッシュ、ボブ・ディラン、リトル・リチャード、ケブ・モー、トラヴィス・トリット、ハンク・ウィリアムス・ジュニア、ブルース・スプリングスティーン、エミルー・ハリス、シェリル・クロウ、スティーヴ・アールらが勢揃いしてジョニー・キャッシュの名曲群をカヴァーしまくったもの。両盤ともに人選もいいし、選曲もいいし。ジョニー・キャッシュ再評価の突破口としては絶好かも。

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