Disc Review

The Juice / G. Love & Special Sauce (Philadelphonic)

ザ・ジュース/G.ラヴ&スペシャル・ソース

初めてこの人のアルバムを聞いたときのショックは忘れられない。

1994年のことだ。ある時期、旧譜音源の再発だけで細々と生きながらえていたブルース/R&Bの名門レーベル、オーケー・レコードが、再起をかけて新譜をリリースすることになって。その第一弾として登場したのが、当時22歳の若者だったG.ラヴくんが自らのバンド、スペシャル・ソースを率いて録音した『G.ラヴ&スペシャル・ソース』で。伝統的なシカゴ・ブルースの味をベースに、大胆にヒップホップ的な方法論とか、ファンキーなグルーヴとか、オルタナなエッジ感とかを導入した逸品。しびれた。

翌年に実現した来日公演もやばかった。かっこよかった。常にファンキーにバウンドし続ける現代的なグルーヴと、まさにブルースとしか表現できない“枯れ”と。熱さとクールさ、と言い換えてもいい。あるいは、伝統への敬愛と現代への目配り、とか。とにかく、そうした様々に刺激的なパラドックスがうねうねと渦巻くステージは圧倒的だった。

過去の音楽の要素を現代的な感覚で再構築するという方法論自体、たいして目新しいものではないけれど。しかし、G.ラヴは過去のおいしいところを無責任にかすめ取るという安易なやり口ではなく、間違いなく伝統をきっちり身体にたたき込んだうえで現代に生きている。そんな手応えが実に爽快だった。番組に来てもらって生演奏してもらったり、雑誌でインタビューさせてもらったり。ほんと、楽しかった。

あれからもう25年かぁ…。スペシャル・ソース名義、ソロ名義、取り混ぜつつたくさんのアルバムをリリースしてきて。2011年、エイヴェット・ブラザーズと組んでブッカ・ホワイトをカヴァーしたりしていたアルバム『フィクシン・トゥ・ダイ』も相変わらずかっこよかった。

で、2015年、スペシャル・ソース名義で出した『ラヴ・セイヴズ・ザ・デイ』以来の新作が届いた。それが本作『ザ・ジュース』。もちろん音作りの基本構造は変わらず。ブルージーでファンキーでグルーヴィ。まあ、今やG.ラヴくんも47歳で。デビュー当時のようなやばい空気感はさすがになくなったけれど、ルーツ・ミュージックへの敬愛はさらに深まり、広まり、一方、現代的ビートの取り入れ方のほうもより洗練され、なかなか昨日今日では実現しえない世界観に至っている。

ケブ・モがプロデュース。マーカス・キング、ロバート・ランドルフ、ルーズヴェルト・コリアー、ロン・アーティスⅡらがゲスト参加。G.ラヴならではのリゾネイター・ギターが醸し出すカントリー・ブルース味を核に、ケブ・モのエレクトリック・ギターやアコースティック・ギター、ロバート・ランドルフのペダル・スティールなどが絡み合って、多彩かつ柔軟な音世界を演出する。

往年の傑作曲「コールド・ビヴァレッジ」から連なる感じの「ゴー・クレイジー」とか、ボブ・ディランの“サブタレ”に80年代ポップ・ファンク風味をまぶしながら元歌であるチャック・ベリーの「トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス」方面へ引き戻したみたいな「シェイク・ユア・ヘア」とか、ノスタルジックな「シャイン・オン・ムーン」とか、ロバート・ランドルフをフィーチャーしたポップでキャッチーなカントリー・ゴスペルみたいな「バーミングハム」とか、ニューオーリンズ風味が楽しい「ドリンキン・ワイン」とか…。

相変わらず陽性な若々しさと、ある種の成熟とがいい形で絡み合った快作です。ボーナス収録のライヴ音源も楽しい。

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