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Disc Review

The Music of Wayne Shorter / Jazz at Lincoln Center Orchestra with Wynton Marsalis (Blue Engine Records)

ザ・ミュージック・オヴ・ウェイン・ショーター/ジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラ・ウィズ・ウィントン・マルサリス

今朝もまたウォーキング。近所をうろついていたら、まあ、ここ数日よく見かける光景ではあるのだけれど、いくつかのドラッグストアの前に開店前から長い行列ができていて。マスクが少量ではあるが入荷しました、おひとり様1個まで…と。まだ供給が安定していないみたい。花粉の季節も早くも到来しているようだし。いろいろと切実。なんか、普段より保育士さんに連れられた子供たちのお散歩に出くわすことも少ない気がするし。

早くこのコロナウィルスをめぐる混乱が収束することを心から願います。ぼく、メガネかけてるから、マスクするとレンズが曇って歩きにくいんだよなぁ(笑)。それだけでも大変。でも、めげずに今朝もせっせと歩いてまいりました。BGMはウェイン・ショーター!

世代的に、かもしれないけれど、この人に対してはどうにも抗いがたいものがある。まあ、宗教的な側面に関してはいろいろあるにはあるのだろうけれど。とにかく音楽的には絶対的な存在だ。ハービー・ハンコック、フレディ・ハバード、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスとともに最強ジャズ・ユニット“V.S.O.P.”を組んで活躍していたころ。1979年の野外ジャズ・イベント“ライヴ・アンダー・ザ・スカイ”のために来日して、その2日目、豪雨の田園コロシアムで行なわれた伝説のパフォーマンスの印象とか、本当に強烈で。

嘘みたいな話だけれど、天気も開演まではなんとか降らずにもっていたものの、演奏が始まるとほぼ同時に激しい雷雨が襲来。ステージが見えなくなるので傘がさせない客席はもちろん、確か屋根があったはずのステージも横殴りの雨にやられたか、思いきり冠水していたっけ。けれども、それがとてつもない熱気を呼び覚まし、ショーターも濡れながら凄まじいプレイを連発。その熱が豪雨を切り裂いてずぶ濡れの観客たちにも届いて。興奮の極致。あの光景、忘れられない方も少なくないと思う。

その前年、ウェザー・リポートの一員としてやってきたときの演奏もすごかった。さらにさかのぼれば、1961年、これはさすがにぼくは子供すぎて見ていないのだけれど、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズのメンバーとして初来日。このときのメッセンジャーズはブレイキー、ショーターのほか、リー・モーガン、ボビー・ティモンズ、ジミー・メリットという顔ぶれ。モダン・ジャズ・グループとして初の来日公演だったこともあり、日本人ファンの熱狂的な歓迎ぶりはいまだ伝説として語り継がれている。

東京・サンケイホールで収録されたライヴ盤も大ヒット。このとき、メッセンジャーズはさらに日本の若きジャズ演奏家たちとも積極的に交流。当時の日本では誰ひとり理解していなかったモード奏法をはじめジャズ界の新潮流を日本へダイレクトにもたらしたのもジャズ・メッセンジャーズ、特にウェイン・ショーターだったそうだ。やはり日本人として、この人、ショーターには足を向けて寝られないのだ。

もちろんダメダメなときは思いきりダメ。あれはいつだったか、10何年か前、ハンコック、カーター、ジャック・デジョネットとともに来日して、有楽町の東京国際フォーラムAでコンサートしたとき。まあ、人それぞれ様々な感想があるとは思うけれど、ぼく的にはアウト。あの夜のショーターはひどかったと思う。やる気なしというか、聞くべきところ、まるでなし。そういうときもある。で、それもまた正直でいいのかな、みたいな。

そんな日本のジャズ・ファンにとって恩人のようなウェイン・ショーターも、すでに86歳。で、今から5年前、81歳だった2015年に、ウィントン・マルサリス率いるジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラとの共演で3夜にわたって行なわれたスペシャル・コンサートの模様を収めたCD2枚組ライヴ・アルバムが出た。アーティスト名はジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラ名義だけれど、主役はウェイン・ショーター。当夜の模様はYouTubeでもすでに数年前に公開ずみなので、ご覧になった方も多いことだろう。でもやっぱり、こうして盤としてリリースされるとうれしいです。

オープニングは「イエス・オア・ノー」だ。1964年、ジャズ・メッセンジャーズを離脱したショーターがブルーノート・レコードに残した2作目のリーダー・アルバム『ジュジュ』の収録曲。マッコイ・ターナー、エルヴィ・ジョーンズらをバックに回したワン・ホーン・アルバムということもあって、ジョン・コルトレーンとの相似性が取りざたされがちな1枚ではあるが、そこでショーターはけっしてひるむことなく、むしろコルトレーンと自分との違いを思い知らせるかのような演奏を展開してみせていた。この曲でも、高速テンポでスウィングしながら、荒々しく、推進力たっぷりのフレーズを独自の音色で休みなく振り絞り続ける姿が印象的だった。

と、そんな名曲をここではサックス・セクション5人、マルサリスを含むトランペット4人、トロンボーン3人、ピアノ、ベース、ドラムという編成のジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラを従えて、見事にビッグ・バンド・ジャズへとリアレンジ。ショーター自身、けっこう“攻め”のプレイを冒頭から繰り出し、他のメンバーを煽っている感じ。気持ちいい。マルサリスのトランペット・ソロもいいし、ダン・ニマーのピアノもごきげんだ。

さらに、日本でも大ヒットした1974年の『ネイティヴ・ダンサー』からの「ダイアナ」、ジャズ・メッセンジャーズ時代のレパートリー「ハマー・ヘッド」や「コンテンプレイション」、ブルーノートからの初リーダー作『ナイト・ドリーマー』からの「アルマゲドン」、マイルス・デイヴィス・クインテットに加入したことで備わった自信をいい形で反映した『アダムス・アップル』からの「テル」(マルサリス編曲による名演!)、ウェザー・リポート解散直前、久々にリリースしたソロ作『アトランティス』からの「インデンジャード・スピーシーズ」や「ザ・スリー・マリアズ」など、おなじみどころの楽曲を、オリジナルへの敬意と適度な斬新さを絶妙に交錯させたビッグ・バンド・アレンジで聞かせてくれる。

老いてなお刺激的なフレージングもすごいけれど、やっぱ、一音聞けばウェイン・ショーターだってわかる、その音色に圧倒される1枚です。

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© 2020 Kenta Hagiwara