Disc Review

And in the Darkness, Hearts Aglow / Weyes Blood (Sub Pop)

アンド・イン・ザ・ダークネス、ハーツ・アグロウ

各所で絶大なる評価を得た前作『タイタニック・ライジング』がもう3年半前かぁ…。ずいぶんと待たされました。“ワイズ・ブラッド”ことナタリー・メーリングの新作。待ったかいのある素敵な仕上がりです。うれしい。

今回も収録された全10曲中9曲をフォクシジェンのジョナサン・ラドーがプロデュース。ラストに収められた「ア・ギヴン・シング」だけジ・エックス・エックスなどとの仕事で知られるロディ・マクドナルドとナタリーさんが共同プロデュースを手がけている。もちろん全曲ナタリーさんの書き下ろし。ハンド・ハビッツことメグ・ダフィー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティン、アンビエント・ハープの才媛、メアリー・ラティモアらがゲスト参加している。

なんでも、前作『タイタニック・ライジング』はスペシャルな三部作の1作目だったらしく。目前に迫った破滅の運命への予感を丹念に綴ったもので。それに続く本作は、その次。まさに只中の1枚。不安定で、細分化されたいくつもの価値観が渾然と渦巻く、取り返しのつかない、カオスに満ちたこの時代に生きる意味を、闇の中で手探りするように求め続けるさまを描いているみたいな。そんな感じか。

確かに、オープニングを飾る「イッツ・ノット・ジャスト・ミー、イッツ・エヴリバディ」からしていきなり、誰もが否応なく体験せざるを得なかった未曾有のパンデミックの中でこそ生まれた作品っぽく。“人々が傷ついているってことが/これほど明らかになった時代が他にあった?/私だけじゃない/きっとみんな同じ/そう、私たちはみんな同じように血を流しているの”とか歌っているし。

きっと歌詞が面白いんだろうなぁ…と思って、この新作に関するご本人のコメントを眺めては見たものの、頭良さそうすぎて何言ってるのかよくわからなかったというか(笑)。いろいろ難しいボキャブラリー連発で。かつて火のあったはずのところで残り火を探すだの、アルゴリズムと繰り返されるループの運命からの解放を求めるだの、溢れかえる情報は常に抽象的で何ひとつ具体的な行動を喚起してくれないだの、生と死の自然のサイクルをもう一度理解するための旅の始まりだの。英語力不足のぼくには基本ちんぷんかんぷんだったわけですが。

とにかく、この不安と空虚さと孤独感とが渦巻く時代に、ナタリーさんはこのアルバムを通して彼女なりのやり方で多くの疑問を投げかけてみせているのだった。たぶん(笑)。テクノロジーが今の人々のイマジネーションを奪い、互いの心を遠ざけているのだという彼女の主張を反映してか、サウンドは前作同様、思い切りアコースティックな手触りに満ちた深く豊かなオーケスレーションを核に据えた仕上がり。随所にシンセサイザーも効果的に使われてはいるものの、感触はとことんアナログでふくよかだ。素晴らしい。

ジミー・ウェッブ的だったり、ヴァン・ダイク・パークス的だったり、バート・バカラック的だったりするアンサンブルは前作から引き続きの感触。今回、どこかクラトゥを想起させる局面も。そうしたある種タイムレスなサウンドに乗せて、今の時代ならではの不安と孤立感を描く歌詞が舞う。2曲目の「チルドレン・オヴ・ジ・エンパイア」では、1960年代サンシャイン・ポップ系のシャフル・ビートの下、亡国の最後の日々が綴られていたり。なんか、すごい。

つーか、繰り返しますが、歌詞に関してはまだ手探り状態。本当のところは味わえていないので、もっとちゃんとチェックしないとなぁ。国内盤には訳詞付いてるみたいだから、そっち買えばよかったなぁ。

「ハーツ・アグロウ」って曲でナタリーさんは淡々と“私たちはどこに行こうとしているの? わからない…”と繰り返す。その答えが三部作のラストとなるはずの次作にあるのか。ないのか。それが届くのも心待ちにしてます。また3年かかっちゃうのはつらいので、なるはやでひとつ。ね?

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