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Disc Review

Alicia / Alicia Keys (RCA)

アリシア/アリシア・キーズ

恐縮ながら、またまたちょっと懐かしい話から始めますが。

忘れもしない2003年の暮れ。アリシア・キーズのニュー・シングル「ユー・ドント・ノウ・マイ・ネーム」を手に入れて聞いたときのショックは今なお鮮明に思い出せる。多くの方と同じだと思うけれど、イントロの短いピックアップ・フレーズに続いて彼女が“♪ベビベビベ~イベー…”と歌い出した瞬間に、もう一発でヤラれた。震えた。

もちろん、2001年に出たデビュー・アルバム『ソングス・イン・Aマイナー』もそれなりに楽しく聞いてはいた。R&Bを基調に、クラシック、ジャズ、ブルース、レゲエ、ロックなど多彩な音楽要素を融合した豊かな音像と、充実した歌唱力は魅力的だな…程度には思っていた。が、ぼくが彼女本来の持ち味を最初に実感したのは、その年の9月11日、あの惨事を受けて生放送されたテレビ特別番組『トリビュート・トゥ・ヒーローズ』で、ダニー・ハザウェイの「いつか自由に(Someday We'll All Be Free)」をピアノの弾き語りでカヴァーして聞かせた瞬間だった。

あ、ニュー・ソウルか、と。音楽的にも、精神的にも、そのスジを受け継ぐ人だったのか、と。気づいた。翌2002年のグラミー賞では歴代新人タイ記録となる5部門を制覇。その年の5月には初来日もあった。間もなくライヴハウスとしての歴史に終止符を打つらしい赤坂ブリッツで、ぼくも彼女のスペシャル・ライヴを体験した。時にはジャネット・ジャクソンばりにステージ前方でファンキーにステップを踏みながらパフォーマンスしていたけれど、やはり深く印象に残ったのは舞台中央に置かれたキーボードを弾きこなしながら、当時まだ21歳という若さに似合わぬ幅広い表現力を披露したときだった。

そこには1970年代初頭、白人・黒人の壁を乗り越え、より人間の内面に分け入った歌詞とサウンドで当時のシーンに大いに影響を与えたカーティス・メイフィールド、スティーヴィー・ワンダー、ロバータ・フラック、そして前述ダニー・ハザウェイらニュー・ソウル系黒人シンガー・ソングライターたちに相通ずる手触りがあった。ときおりローラ・ニーロやキャロル・キングのような、黒人音楽に影響を受け独自のソウル感覚を発揮した往年の白人女性シンガー・ソングライターに共通する感触も聞き取れた。で、ハマった。

そして翌2003年、「ユー・ドント・ノウ・マイ・ネーム」だ。続くシングル「イフ・アイ・エイント・ガット・ユー」もやばかった。それらを含むセカンド・アルバム『ザ・ダイアリー・オヴ・アリシア・キーズ』も最高だった。以降はもう、アリシアさま、全肯定で受け止めております(笑)。すでにグラミー15冠、トータル・アルバム・セールス6500万枚、累計楽曲再生回数65億回以上。女優として、監督として、司会者として、など、多彩な分野での活動も楽しませてもらっている。辛辣な社会的/政治的メッセージを臆さず放ち続け、慈善活動にも積極的に関わるアクティヴィストとしての姿勢も素敵だと思う。

そんな彼女が3年半ぶりに放つ通算7作目のアルバム。新型コロナウイルス禍のあおりで半年ほど発売が延期されていた待望の一作が、ようやく出た。ずばり『アリシア』とタイトルを付けたことからも、そうとうの自信作、意欲作なのだろう。ミゲルをフィーチャーして昨年リリースされた「ショウ・ミー・ラヴ」や、やはり昨年暮れに出たちょいレトロなダンス・チューン「タイム・マシーン」、今年1月に出たエド・シーランとの共作曲「アンダードッグ」、つい先月リリースされたカリードとのコラボ曲「ソー・ダン」などはもちろん収められている。

個人的には「ジル・スコット」って曲が今のところいちばんのお気に入り。実はアリシアの旦那さま、スウィズ・ビーツがティンバランドとともに制作しているパンデミック下ならではのウェブキャスト番組『Verzuz』というのがあって。これは毎回、ライバル的なアーティストが2組登場。お互いの曲をDJバトル形式で対決させるプログラム。これまでテディ・ライリー対ベビーフェイスとか、ブランディ対モニカとか、リュダクリス対ネリーとか、いろいろな名勝負が展開しているのだけれど。5月に行なわれたジル・スコット対エリカ・バドゥの回にアリシアはいたく感動したのだとか。

で、ジル・スコットに思いきり触発された曲を書いて、ジルの真似をして吹き込み、ジル本人に許可をもらおうと音源を送って聞いてもらったら、ジルもそれを気に入り、私も歌おうかと言われて、まじ? ぜひぜひ! みたいなことになって、音源をやりとりしながら完成に至った、と。Beats1でぼんやり聞いたインタビューからの情報をうろ覚えで書いているので、なんか経過が間違っているかもしれないけれど、ざっくりとそういうことだったと思う。

「ジル・スコット(フィーチャリング・ジル・スコット)」…って。なんだ、それ(笑)。この曲のエンディング、短い弦楽アンサンブルを挟んで、アルバムのラスト2曲へ。“ブラック・ライヴズ・マター”ムーヴメントへのメッセージをこめた「パーフェクト・ウェイ・トゥ・ダイ」と、最前線で闘う“影のヒーローたち”に捧げた「グッド・ジョブ」。この2曲の弾き語り基調のパフォーマンスもまた胸にぐっと迫る。このあたりはむしろアルバム発売が延期されたことで、それ以降の出来事に触発されながら生まれた楽曲たちということになりそうで。いろいろな障壁をもすべてポジティヴに解釈し展開していくアリシアならでは、という感じか。

ちなみに、ワンリパブリックのライアン・テダーと共作した最新シングル「ラヴ・ルックス・ベター」も収録されているけれど。この曲は、つい先日、NFLの開幕を祝うキックオフ・コンサートでもライヴで披露されていた。忙しい日々の中、私たちは互いを見つめ合い、互いの言葉に耳を傾け合うことを忘れてしまっている…とメッセージしてから歌い始めていた。尊敬するアレサ・フランクリンに、まあ、体型的にもちょっと近くなってきたみたいな感じで。貫禄もついて、頼もしい限りです。

NFLと手を組んで、黒人コミュニティや黒人ビジネスをサポートするために10億ドルの基金を立ち上げたことも発表された。そして、曲を歌い終えたところで舞台後方のスクリーンに大きく“Vote”の文字。相変わらずかっこいいね。

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© 2020 Kenta Hagiwara