Disc Review

Sam Doores / Sam Doores (New West Records)

サム・ドアーズ/サム・ドアーズ

ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフやデズロンズなど、ニューオーリンズ系バンドでの活動でおなじみ、サム・ドアーズのファースト・ソロ・アルバムだ。

デズロンズともども、放っておくとシンプルに“アメリカーナ”としてくくられがちな人脈ではあるのだけれど。デズロンズ同様、音楽性はけっこう複雑に、豊かに絡まり合っていて。ニューオーリンズR&Bとフォーク/カントリーを基調に、ジャズ、ソウル、ラテン、ブルース、ロックンロールなどが魅惑的に交錯。フックの効いたメロディ。イマジネイティヴな音景。ちょっとクセになる世界観がここにある。

デズロンズの欧州ツアーの際に知り合ったというデンマークのミュージシャン/プロデューサー、アナス“オーメン”クリストファーソンが共同プロデュース。クリストファーソンがこのところ本拠地にしているベルリンのスタジオで基本的なレコーディング作業が行なわれた。バンドのツアーでベルリンを訪れるたび、少しずつ少しずつレコーディングを重ねていったのだとか。一部のダビングはニューオーリンズ、仕上げはナッシュヴィルで。そんな、壮大なんだか、地道なんだか、よくわからない作業がようやく完成に至ったわけだ。めでたい。

オープニングを飾る「テンペルホーファー・ドーン」はピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラで綴られたノスタルジックなインストゥルメンタルの小品。続く「レット・イット・ロール」は、ちょっとローファイでトゥワンギーな残響感をともなったロカバラード。リード・ヴォーカルを背後で支える4声コーラスがどことなくゴスペルっぽいムードを演出していて面白い。

「アザー・サイド・オヴ・タウン」はハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフのフロント・ウーマン、アリンダ・セガーラがデュエット・パートナーをつとめるオールディーズ風味のポップR&B。「カンボジアン・ロックンロール」は、ブライアン・ウィルソンふうのベースラインをともなった暗めの「チャペル・オヴ・ラヴ」というか…(笑)。間奏のトロンボーン・ソロがナイスです。

「ウィッシュ・ユー・ウェル」は2ビートのカントリーっぽいような、いや、途中に登場するホーン・アンサンブルも含めてシャッフル系のビートルズっぽい曲のような、いやいやバック・コーラスは1960年代モータウン調のような…という、なんとも刺激的にイメージが交錯する1曲。かと思うと、「ウィンドミルズ」ではアコースティック・ギターとハーモニカをバックに、一日中、ひたすら他の誰かのために働き続ける風車に思いを重ねて、往年のグリニッジ・ヴィレッジっぽいムードを漂わせたり。

「ハッド・ア・ドリーム」では、ホーンやストリングスを交えながら、効果的なリズム・チェンジなども盛り込みつつ、次々と楽想を変化させてランディ・ニューマンのような、ヴァン・ダイク・パークスのような、ジョー・ヘンリーのような、魅惑的な音宇宙を構築してみせる。と、まあ、ここまででだいたいアルバム半分。以降も胸高鳴るアイデア満載の楽曲が続くのだけれど、このまま続けると長くなりそうなので…(笑)。

以降も、聞きながらトム・ウェイツ、J.J.ケイル、ジム・モリソン、ハリー・ニルソン、ドクター・ジョン、ロス・ロボスなどさまざまな先達アーティストの名前が脳裏をよぎるものの、かといってそのどれとも違うサム・ドアーズならではのふわふわした感触に貫かれていて。魅力的。

ニューヨーク生まれながら近年はアナス・クリストファーソンとタッグを組んで欧州で活動しているギタリストのマイカ・ブレイクマンや、アルゼンチンのベーシストであるアンドレス・バーレシ、スペインのキーボード奏者のカルロス“ディアブロ”サンタナ(いや、ややこしいけど、あの人じゃないです)、フランスのヴァイオリン奏者のマノン・パランらが参加。曲作りやプロデュース・ワークにも名を連ねている。

そんなボーダーレスな顔ぶれが、それぞれのルーツ・ミュージック観を持ち寄りながら編み上げたなかなかの傑作アルバムです。

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