Disc Review

Hey Panda / The High Llamas (Drag City)

ヘイ・パンダ/ザ・ハイ・ラマズ

『SMiLE』から『フレンズ』にかけて、1967年から68年あたりの時期のビーチ・ボーイズっぽいムードを存分にたたえた珠玉の管弦オーケストレーションで、1990年代からぼくたちをしびれさせ続けてきたハイ・ラマズですが。

中心メンバーのショーン・オヘイガン、実は21世紀に入ったばかりのころ、今は亡き伝説のヒップホップ・プロデューサー、J.ディラの仕事ぶりに接して、これだ! と。そのリズムに対するアプローチとか、曲の構造とか、J.ディラこそ現代ポップ・ミュージックのテンプレートを書き換える偉大な存在だと確信したのだとか。

でも、いきなりその手法を自分の音楽に採り入れるのはちょっと怖かったし、実際それだけのノウハウもなかったし。てことで、従来の自分たちの音作りの感触をあくまでも基調に、ちょっとずつJ.ディラからの影響をまぶす、みたいな。そんなやり口で活動を継続していたものの。

前作『ヒア・カム・ザ・ラトリング・トゥリーズ』(2016年)以来、8年ぶりに届けられた新作『ヘイ・パンダ』は、一気にその辺の思いを全開にした感じの仕上がりだ。まあ、これまでもハイ・ラマズの音作りにはエレクトロニック的な要素が欠かせなかったわけだけれど。アナログとデジタルの割合が今回は大きく逆転しているような。

浮遊感に満ちた独特の曲作りのテイストはそのまま、新たなサウンド・メイキングのレンズを通して光を新鮮に屈折させてみた…といったところかも。SZAやスティーヴ・レイシーからも大いにインスパイアされたのだとか。2019年にショーン・オヘイガンがソロ名義でリリースした『レイダム・コールズ、レイダム・コールズ』の世界観をさらにヒップホップ寄りの視点から再構築した感じか。

『レイダム・コールズ…』で久々に共演したマイクロディズニー時代のヴォーカル・パートナー、カハル・コフランが数年前に亡くなったことも大きかったのかな。ショーン・オヘイガンもすでに60歳代半ばだし。やりたいことはやれるうちに…的な?

英シンガー・ソングライターのレイ・モリス、彼女の夫でもあるフライヤーズことベン・ギャレット、ボニー・"プリンス"・ビリー、そしてショーンの娘さんのリヴィーらがゲスト参加。ボニー・"プリンス"・ビリーは歌詞も曲も共作。フライヤーズはミックスも手伝っている。

タイトル・チューンはパンデミック中にTikTokで見た巨大ニンジンを食べるパンダに触発されたものだとか。ショーンさんらしいね。レイ・モリスがメインで歌う「シスターズ・フレンズ」って曲は、ホームレスの主人公が愛犬を連れて大阪で作られた尺八でストリート・パフォーマンスをしているストーリーなのだけれど、オートチューンかましたショーンさんのコーラスとかに、なんとも不思議に敬虔な感触が漂っていたりして。素敵にイマジネイティヴ。

ハイ・ラマズ、やっぱりすごいな、あなどれないな…という思いを新たにしましたよ。

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