Disc Review

In a Roomful of Blues / Roomful of Blues (Alligator)

イン・ア・ルームフル・オヴ・ブルース/ルームフル・オヴ・ブルース

ちょっと前まで、よく近田春夫さんとお仕事でご一緒する機会が多くて。そういうときは、いつも空き時間にあれこれお話を聞かせていただいた。なにせ近田さんだから。発想も新鮮だし、切り口も面白いし、話もスピーディだし。楽しかった。けど、毎回、絶対にお互い意見が合わない話題ってのもあって。そのひとつが、“ポップ音楽は新しくあらねばならないのか”という命題。

まあ、子細に説明するのも大変なので、細かいニュアンスはすっとばして超大雑把にまとめちゃうと。近田さんは、音楽というのは「車」と同じで、常に最新のものに乗るべきなんだ、と。クラシック・カーとかに乗るというのも風流な趣味としては成立するだろうけど、基本的には新しいものでなければダメだ、意味がない、と主張なさっていて。

多少こちらを挑発して楽しんでいらっしゃるところもあるのかなとは思いつつ、なるほど、近田さんらしいなと感心させられたものだ。

ただ、ぼくにとって音楽は、近田さんがおっしゃるような車とかじゃなくて、んー、どっちかと言うと「ご飯」みたいなものだから。目新しいレシピとか、調理法とかにも興味がないわけじゃないけれど、基本的には、やっぱ白飯と味噌汁だよなぁ、みたいな(笑)。これはどうしたって平行線。どっちの考え方もありだとぼくは思うのだけれど。

そんなぼくにとって、白飯と味噌汁みたいなバンドのひとつがこの人たち、ルームフル・オヴ・ブルースだ。去年、本ブログでも新作ソロ・アルバムを紹介したデューク・ロビラードが言い出しっぺとなり、地元ロード・アイランドで1967年に結成。レコード・デビューまでは10年かかってしまったけれど、1977年にファースト・アルバムをリリースして以降は着実なペースで作品を重ねてきたベテラン白人ブルース・バンドだ。

ぼくが把握している限りでは、2013年にライヴ盤を出したのを最後にニュー・リリースが途絶えていて。ちょっと寂しい思いをしていたのだけれど。出ました。通算19作目。アリゲーター・レコードに移籍してからは6作目。スタジオ作としては2011年の『フック、ライン&シンカー』以来、久々の1枚の登場だ。やー、これはうれしい。何よりも、何ひとつ変わっていないところが心からうれしい。

現在は1990年に加入したギタリスト、クリス・ヴァションを中心に、ヴォーカルのフィル・ペンバートン、キーボードのラスティ・スコット、ベースのジョン・ターナー、ドラムのクリス・アンザローン、トランペットのカール・バーハード、バリトン・サックスのアレック・ラズダン、そして今や唯一の古株メンバー、このバンドにホーン・セクションが加わった1970年から参加し続けているテナー・サックスのリッチ・ラタイル…というラインアップ。

この数年、アルバム・リリースは途絶えていたとはいえ、ライヴ活動はもちろん頻繁に行なってきた。かのカウント・ベイシーまでもが“私が聞いた中で最高にホットなブルース・バンドだ”と激賞したというルームフル・オヴ・ブルースならではのごきげんなグルーヴはそのまま、まったく衰え知らずだ。かっこいい。50年超のキャリアは伊達じゃない。

今回もノッケから最高潮だ。オープニング・チューンの「ホワット・キャン・アイ・ドゥ?」はテキサス・ブルースのレジェンド、バディ・エイスによる1962年のシングル曲のカヴァー。カヴァーものはこの曲を入れて3曲あって。あとの2曲は、今なおしぶとく古き良きブルース/ロックンロールを追求する仲間、シンクレア&ザ・ソウルメイツのオリジナル・ザディコ・ブルース「ハヴ・ユー・ハード」と、偉大なソングライターとしてもおなじみ、ドク・ポウマスが1940年代に自らリリースしたジャンプ・ブルース「トゥー・マッチ・ブギー」。

残る10曲はクリス・ヴァションらメンバーによるオリジナル曲だ。オリジナル含有率は過去最多かも。ロックンロール調あり、ファンキーなR&B調あり、ノヴェルティ系あり、ジャジーなバラードあり、ラテン交じりあり、正統派スロー・ブルースあり…。けっして全米的、全世界的に注目を集めるバンドではないけれど、ロード・アイランドきっての最強ローカル・バー・バンド。その心意気がたまらない。

最高だ。どっこも、ひとっつも、新しくないけど、ね…(笑)。

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