Disc Review

Ear Worms / The Duke Robillard Band (Stony Plain)

DREarWorms

イヤー・ワームス/デューク・ロビラード

1977年だったか、78年だったか。ロード・アイランド本拠の白人R&Bバンド、ルームフル・オヴ・ブルースがアイランド・レコードからリリースしたデビュー盤を、たまたま、何かの拍子に、勢いあまって買ってしまったのだけれど。その中心メンバーとしてごきげんなギターと、そこそこのヴォーカルを聞かせていたのがこの人、デューク・ロビラードだった。

80年にバンドを脱退して、ソロ名義で、あるいは都度都度の即席バンド名義で、レコードも出し続けていて。そのあたりも、付かず離れずという感じで聞き続けてきた。ブルース、ジャズ、ロックンロール、カントリー、R&Bなど、実に幅広い音楽性を発揮しつつの飄々とした活動。ボブ・ディランのバックをつとめたこともあったし、ジミー・ヴォーン脱退後にファビュラス・サンダーバーズのメンバーになったこともあったし。その辺も含め、まあ、何というか、腐れ縁じゃないけど、ずいぶんと長い付き合いになります。

と、そんなロビラードさんの新作。2017年の『デューク・ロビラード&ヒズ・デイムズ・オヴ・リズム』は多彩な女性ヴォーカリスト陣をゲストに迎えたレトロ・ジャズ集だったけれど、今回は一転、ロックンロール/R&B系のカヴァー集だ。やはり多数の男女ヴォーカリストを迎えて録音されている。

とにかく、選曲だけで泣ける。ある種、“出落ち”みたいな1枚で。収録曲を眺めただけで、もう悪かろうはずがない。

オープニングの「ドント・バザー・トライング・トゥ・スティール・ハー・ラヴ」だけはデューク・ロビラードの自作曲なのだが、とはいえ、これもドクター・ジョンらをゲストに迎えて制作された1988年のアルバム『ユー・ガット・ミー』でロビラード自身が歌っていた曲のセルフ・カヴァー。今回は本人歌唱ではなく、2010年までルームフル・オヴ・ブルースの何代目かのリード・ヴォーカルとして活動していた後輩、デイヴ・ハワードが歌っている。

続く、「オン・ジス・サイド・オヴ・グッドバイ」はライチャス・ブラザーズが1966年に小ヒットさせたジェリー・ゴフィン&キャロル・キング作品。この曲のみ、ロビラード自身のリード・ヴォーカルが聞ける。まあ、相変わらずそこそこですが(笑)。でも、味があって、けっこういい感じ。嫌いじゃない。もうちょい歌ってくれてもいいのに。

トレイシー・ネルソンが在籍していたことでもおなじみ、マザー・アースが1968年にリリースしたデビュー・アルバムのタイトル・チューン「リヴィング・ウィズ・ジ・アニマルズ」は、ボストンを拠点に活動するアッパー・クラストとかジャイアント・キングズのメンバーでもあるクリス・コートのヴォーカルで。

ベッシー・スミスからピート・シーガーまで、幅広いジャンルで歌い継がれるトラディショナル「ケアレス・ラヴ」は、ロビラードのギターで綴る切々たるインストに仕上げられている。

次の「エヴリデイ・アイ・ハフ・トゥ・クライ・サム」は、スティーヴ・アライモが1962年にヒットさせたアーサー・アレクサンダー作品。これは、なんと64年に自らこの曲をカヴァーしてシングル・リリースしたこともあるUKのベテラン女性シンガー、ジュリー・グラントと、この10年ほどロビラードとよく一緒に活動しているサニー&ハー・ジョイ・ボーイズのサニー・クラウンオーヴァーとの掛け合いで。

かつてロビラードがバックアップしていたこともある親分、ボブ・ディランの「アイ・アム・ア・ロンサム・ホーボー」もカヴァーしているのだけれど、ヴォーカルに迎えているのはスキーマーズ、レインドッグズなどで活躍していたマーク・カットラー。カットラーはレインドッグズ時代、やはりディランのオープニング・アクトをつとめている。

ブレンダ・リーが1959年にヒットさせたロニー・セルフ作「スウィート・ナッシンズ」は再びサニー・クラウンオーヴァーのヴォーカルで。アーサー・アレクサンダーの代表曲のひとつ、1962年の「ソルジャー・オヴ・ラヴ」はロビラードのギターでインスト化。

そして、ぼくが個人的にいちばん驚いた選曲なのだけれど、チャック・ベリーが1965年、『イン・ロンドン』で発表した「ディア・ダッド」。いいところを突いてくる。リード・ヴォーカルに起用したのも、元ロード・マネージャーだったという縁から再結成NRBQでサックス吹いたりしていたクレム・クリメックという渋い人選だ。

アラン・トゥーサンの代表曲のひとつ「イエス・ウィー・キャン・キャン」は、バック・バンドのキーボード奏者、ブルース・ベアーズがリード・ヴォーカルを担当。さらに、ドラムのマーク・テイクセイラも、ネヴィル・ブラザーズの「イエロー・ムーン」でヴォーカルをとっている。

残るラスト2曲、リンク・レイの凶悪インスト「ローハイド」と美しいポピュラー・スタンダード「ユー・ビロング・トゥ・ミー」は、ロビラードがその幅広いセンスを存分に発揮しながらギター・インストとして聞かせる。

ロビラードさんも去年70歳になったそうで。でも、現役感みっちり。楽しく自由な高齢ライフですねー。6月下旬には日本盤も出るそうです。

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