Disc Review

WHO ASKED? / DOMi & JD BECK (APESHIT/Blue Note)

フー・アスクド?/ドミ&JDベック

まあ、もちろんぼくにとって『SMiLE』というのはビーチ・ボーイズの伝説のアルバム・タイトルであって。“i”は小文字でなければならず。PCの日本語変換でも“すまいる”と打てば“SMiLE”と変換されるように単語登録しているわけですが(笑)。

この子たちにも「SMiLE」って曲があるんだよなぁ。フランス生まれのキーボード奏者、ドミちゃんと、米テキサス出身のドラマー、JDくんとのデュオ。2022年のファースト・アルバムの曲目クレジットを見たとき驚いた。「SMiLE」って曲が入っていたから。ビーチ・ボーイズ・ファンなのかと思ったのだけど。どうもそういうことではなさそうで(当たり前か…)。アルバムのタイトルも『NOT TiGHT』。他にも「BOWLiNG」とか「TWO SHRiMPS」とか「PiLOT」とか、そういう曲名表記があって。しかもアーティスト名の表記も“DOMi & JD BECK”。

どうやらすべての表記を大文字で統一しつつ、“i” だけを小文字にするという独自のルールがあるみたいで。どうやらドミちゃんがバークリーに通っていたころ、友達との間で流行った表記方法らしく。

そういえば、かつて iMac とか iPod が出てきたとき、おー、“i”が小文字じゃん! と喜んだ覚えが…(笑)。懐かしい。

まあ、それはとりあえず。そんなこんなでドミ&JDの存在を知って。そのあとタイニー・デスクとかで演奏ぶりを見て。ぶっとんで。来日公演は見に行ってないのだけど、テレビではちらっと見て。とにかく今どきの若い子たちの、なんでもかんでも軽々とこなしてしまう柔軟な感覚とか超絶な技巧とかに、なんだか楽しくなっちゃったりもしていたのですが。

新作、出ました。超絶な演奏ぶりで聞き手を圧倒するインストゥルメンタル・デュオ的なイメージのふたり。前回もちょこっとだけヴォーカルが入っていたけれど。でも今回は歌もの、けっこう多し。もちろんヴォーカルといっても、かなり器楽的な使い方で、不思議な音の積みになっていたり。こっちの面でも刺激的かな。ただ、デビュー前にシルク・ソニックと曲を共作したりしていたこともあって、実はけっこうキャッチーなメロディ作りもいけます…的な? そういう個性もちらっと披露されていたり。

ふたりがこの新作に関するインタビューを受けている映像をYouTubeで見たら。本作のことを“ケイオス・オヴ・ノーツ〜音の混沌”と表現していて。その傾向が特に強いのが、3曲収められているオーケストラとの共演曲。楽器を使わず、ふたりで楽譜作成ソフトウェア“シベリウス”にがんがん入力していって、それをあとから生身の演奏者に弾いてもらった…という工程だとか。

最初はチューバの音源を使ってコードを決定して、そこに後からさらに管弦楽器を加えていったのだとか。ライヒやストラヴィンスキーからの影響をたたえているようで、オーケストラの奏者からは、今まで弾いた中で最も難しい音楽のひとつだと言われたみたい(笑)。

そのあたりの曲も含め、スリリングな変拍子とか、いかした転調とか、斬新なコード展開とかを満載した仕上がりながら、インプロ系ではなく、あくまでもあらかじめ緻密に構築された音宇宙を、基本的にはそのまま、でも演奏するその瞬間の息吹きの下で躍動させるタイプのソングライティング〜パフォーマンスであることがよくわかる。ファースト・アルバムでは1曲ごとにかなり細かく編集で演奏をつないでいたようだけど、今回は1曲まるごとスルーで演奏したものが多いようで。テイクはかなり重ねたみたい。

この人たちの曲って、コード進行がかなり入り組んでいるので、リヴァーブが長いと音がにごるから、その辺、ごまかしが効きにくいというか(笑)。ほんと、大変だろうな、とか。お古い世代の音楽ファンとしては思ってしまうのだけれど。そんなこと、新世代はまったく気にもしていないのかな。すごいね。しびれる。

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