Disc Review

The Moon and Stars: Prescriptions for Dreamers / Valerie June (Fantasy Records)

ザ・ムーン・アンド・スターズ:プリスクリプション・フォー・ドリーマーズ/ヴァレリー・ジューン

ミシェル&バラク・オバマ夫妻のお気に入りとしてもおなじみ、ヴァレリー・ジューン。4年ぶりのアルバム、出ました。通算だと5枚目? 6枚目? 注目度を一気に上げた2013年のメジャー・デビュー盤『プッシン・アゲインスト・ア・ストーン』を始点とするならば、これがサード・アルバムということになる。

過去、オールド・クロウ・メディシン・ショーとコラボしたり、ダン・オーバックにプロデュースされたり、ボブ・ディランに褒められたり…。アコースティック・ギターやバンジョーを抱えたテネシー生まれのアーシーでアメリカーナなルーツ系シンガー・ソングライター的なイメージが強いのだけれど。

しかし、今回は一転。ジェニファー・ハドソン、シーロー・グリーン、アンソニー・ハミルトン、ボビー・コールドウェル、ケンドリック・ラマー、アリシア・キーズ、ジョン・レジェンドらとの仕事で知られる売れっ子、ジャック・スプラッシュを共同プロデューサーに迎え、彼女にしてみればかなり斬新な切り口を取り入れた新作を作り上げてみせた。

といっても、この人の場合、これまでもルーツっぽいアレンジメントの中に、浮遊感に満ちたアフロ感覚とか、コズミックなゴスペル感覚とか、アシッドなカントリー感覚とか、ポップなR&B感覚とか、サイケなロック感覚とか、様々な“異物”感がそこはかとなく、魅力的に漂っていたわけで。そういう意味では、今回、スプラッシュの助けを借りながら、そのあたりの感触を一気に、明解に、刺激的に引き出してみせた感じかも。

ジューンとスプラッシュは、フェラ・クティのアフロビートから、サン・ラふうのシュールな詩、トニー・ヴィスコンティのストリングス・アレンジまで、多彩な影響を積極的に取り入れたとのことで。なかなかの振り幅。スタジオにコンボ・バンドと入って一発録り…的な従来のやり方ではなく、曲によって20人編成の大がかりなバックトラックが聞かれたり、サンプリングが導入されていたり、かと思えば完全にジューンさんひとりのトラックがあったり。曲ごとにアプローチは柔軟だ。アイザック・ヘイズやアル・グリーンらをバックアップしてきた往年のスタックスのセッション・キーボード・プレイヤー/アレンジャーとして知られるレスター・スネルの参加も光る。

でも、何を持ち込もうが、やはりこの人ならではの、南部っぽさをけっして失わない、力を抜いて発してもまったく説得力が減衰しない稀有な歌声と歌心がすべてをヴァレリー・ジューン色へと融合してしまう。そのあたりの魅力が逆説的に証明されているようで、面白い。

先行シングルとして公開された「コール・ミー・ア・フール」でゲストに迎えた大先輩、カーラ・トーマスの存在感も物を言っている感じだ。アフリカの諺みたいなものを朗読するカーラさんの声に続いてスタートするメンフィス・ソウル・バラード。曲順的にもアルバムのど真ん中にこの曲か位置していて。精神的な意味でもこの曲がコアな部分にあって。だからこそどんな異物を取り込もうが、それらに引きずられることも、惑わされることもなく、すべてをいきいき躍動させることができる、みたいな。

危うい状況や心象の吐露もあるけれど、それも含めて、夢を見るには、そしてそれを現実のものとするには…という、今どきちょっと珍しいポジティヴな思いに貫かれた1枚。この不安な時代に味わうには絶好かも。しびれました。

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