Disc Review

30 / Adele (Columbia/Melted Stone)

30/アデル

すでに各所で大いに話題を巻き起こしているので、今さら本ブログで紹介するまでもないわけですが。アデル。やっぱりこの人、すっげえいいので、ここ数日の愛聴盤のひとつとして取り上げておきます。

2015年の『25』以来となる6年ぶりの新作ということで。どんなアルバムになるのかな、きっとアデルならではの充実の1枚になるんだろうな、アルバム出すごとに新たな最高傑作を生み出してきているわけだから、きっと今回もまた最高傑作ってことになるんだろうな…とか、無責任にわくわくを募らせていた。

先月先行リリースされたとたん各所で記録を次々打ち立てた強力な新曲「イージー・オン・ミー」も期待を大いに高めてくれた。グレッグ・カースティンのピアノを中心に据えたシンプルなバッキングの下、アデルが堂々たる安定感と触れたら儚く壊れそうな繊細さとが魅惑的に共存する持ち前の歌声をのびのび聞かせる1曲。新作アルバムの仕上がりにわくわくするなというほうが無理ってものだ。

もちろん、そのわくわく感は的中。『30』と題された6年ぶりの新作アルバムは、前作までの彼女の魅力もきっちり受け継ぎつつ、同時に無理なく新たな方向性をも感じさせる手応えたっぷりの1枚だった。すごいね、この人。やっぱり。

前述したグレッグ・カースティンを中心に、マックス・マーティン、シェルバック、トバイアス・ジェッソ・ジュニア、インフロー、ルドウィグ・ゴランソンらが曲ごとに的確にプロデュース。

アルバムのオープニングを飾るのはルドウィグ・ゴランソンならではのアンサンブルに包まれた美しいメロディに乗せて“私は心のお墓に花を持っていく/現在と過去の恋人たちのために…”とか歌い出す「ストレンジャーズ・バイ・ネイチャー」。いきなりドアタマから“cemetery”なんて単語を耳にするとは思わなかった。そこで一気に惹きつけられて。で、先述「イージー・オン・ミー」を挟んで、深いゴスペル調コーラスを従え、息子アンジェロとの会話なども交えながら綴ったネオ・ソウル「マイ・リトル・ラヴ」へ。

レゲエ・グルーヴをジャズ・コンボ的アプローチでユニークに解釈/再構築した「クライ・ユア・ハート・アウト」。キックがぐいぐい牽引するダンス・ポップ「オー・マイ・ゴッド」。シェルバックによるアコースティック・ギターの切れのいいカッティングが印象的な「キャン・アイ・ゲット・イット」。熱いコーラスに後押しされながら“なぜ私は自分でコントロールできないことばかり考えているんだろう?/なぜ私は知りもしない人たちに受け入れてもらおうとしているんだろう?”と胸の内をさらけ出す「アイ・ドリンク・ワイン」と、アルバム前半が流れていって。

で、真ん中あたり。8曲目。エロール・ガーナーの「ノー・モア・シャドウズ」のサンプリングに合わせて甘くジャジーに歌われる「オール・マイト・パーキング」ってインタールードが入っていて。これがなんだか、すごくいい。個人的に、前作ではブルーノ・マーズが曲作りに絡んだ「オール・アイ・アスク」ばっかりヘビロテしていたけど、今回はこの曲かな。ちょっと短くて物足りなくはありますが。

ご存じの通り、アデルのアルバムはいわば私小説。2008年、19歳のときにレコーディングしたアルバム『19』で衝撃のデビューを飾って。以来、一気に注目度を上げる中で当時の恋人と別れなくてはならなくなった悲しみを2011年のセカンド・アルバム『21』に託して。一時は音楽活動から身を引こうとも思っていたようだが、2012年に新恋人との間に子供が生まれ、それに元気づけられて活動を再開。湧き上がる母性をテーマに2015年、サード・アルバム『25』を出して。

そして、今。今度は離婚を経験して、再び“別れ”のイメージが全体を覆う本作『30』を制作。ただ、件の「オール・ナイト・パーキング」だけは、なにやら新たな愛を描いているような内容で。新恋人の存在も明かされているようだし、その辺が反映されたか、あるいは前夫と良好な関係を保ちつつの育児を通して芽生えた感情が活かされているのか。こういう曲には、ほっとできます。

で、アルバムは後半に入っていくわけだけれど。今朝、このまま書き続けていたら『くにまるジャパン極』の生放送に遅刻しちゃいそうだから(笑)、たいがいにしておきます。

こう、音程を一気に飛躍させる瞬間のスリルとか、時に突っ込み気味にフレーズをたたみかけてくる瞬間のアタック感とか、ていねいな発声とワイルドな発声を巧みに…いや、というか、意図的にではなく、ほぼ無意識のうちにだとは思うのだけれど、実に効果的に行き来してみせる天性のセンスとか、そうしたアデルの歌唱の魅力を今回も存分に堪能できるアルバムです。

個人的な好みを全開にして言えば、前作でブルーノ・マーズが曲作りに絡んだ超名曲「オール・アイ・アスク」を超える楽曲はさすがにないように思えるものの、アルバム全体の手応えはこちらのほうが強力かも。メンタル的な脆さすら赤裸々に表出してしまう真っ正直さも含め、ソングライターとして、あるいはストーリーテラーとしての力を改めて感じさせてくれる新作です。

30
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