Disc Review

Highwayman: The Greatest Hits / Jimmy Webb (Warner Music Group/X5 Music Group)

Highwayman

ハイウェイマン〜ザ・グレイテスト・ヒッツ/ジミー・ウェッブ

アメリカを感じさせる音。そう言ったときにイメージするのはどんな音楽だろう。

ロックンロールの王者、エルヴィス・プレスリーの躍動か。カントリーの首領、ジョニー・キャッシュの凶悪な低音ヴォーカルか。アメリカ南部に眠る音の遺産を的確に甦らせたザ・バンドのルーツ・ロックか。東海岸の街角を賑わしたドゥーワップか。西海岸の抜けるような青空を思わせる初期イーグルスのコーラス・ハーモニーか…。人それぞれ、様々な音を思い浮かべるに違いない。ぼくもその時その時によって違うイメージを想起するのだけれど。

たとえばこの人、ジミー・ウェッブ。彼が紡ぎ出す楽曲、そして歌声。これもまたどうしようもなくアメリカだなと思う。

と、これはぼくが編集長をつとめる無料のオンライン音楽雑誌「エリス」23号のために書いた原稿の一部だ。ぼくが毎号連載している“ソングライター・ファイル”のジミー・ウェッブの回。詳しいことは、ぜひこちらでメールアドレスを登録して「エリス」を読んでいただきたい。なにせ無料なんだもの。ね?(笑)

そんなジミー・ウェッブがワーナー系のレコード・レーベルに在籍していた70年代の音源によって編まれた最新ベストが配信開始になった。

この人の場合、基本的にはソングライターとして有名だろう。「恋はフェニックス(By the Time I Get to Phoenix)」(67年、グレン・キャンベルの歌唱で全米26位)、「ビートでジャンプ(Up, Up and Away)」(67年、フィフス・ディメンション、全米7位)、「マッカーサー・パーク(MacArthur Park)」(68年、リチャード・ハリス、全米2位)、「ウイチタ・ラインマン」(68年、グレン・キャンベル、全米3位)、「ディドント・ウィー」(69年、リチャード・ハリス、全米63位)、「月はいじわる(The Moon Is a Harsh Mistress)」(74年、ジョー・コッカー)、「ハイウェイマン」(85年、ジョニー・キャッシュ+ウィリー・ネルソン+ウェイロン・ジェニングス+クリス・クリストオファソン、全米カントリー・チャート1位)など、多くのシンガーたちがウェッブ作の楽曲をこぞって取り上げヒットに結びつけてきた。

そうしたおなじみのヒット曲群を自ら歌ったヴァージョンと、シンガー・ソングライターとしてあくまでも自分のためだけに作った曲たちとを混在させた代表曲集。かつてライノ・レコードがボックス・セットを編纂した際、初お目見えとなった未発表ライヴ・アルバムからの音源も一部含まれている。ボックス・セットのほうが今や廃盤で高値取引されていることを思うと、これはありがたい配信開始かも。

この人の場合、たとえばバート・バカラックのような鉄壁の職業作曲家とは違う。確かに、特に活動初期の60年代、他人のために次々とヒット曲を量産していた時期もあったとはいえ、その時点からすでに彼の持ち味はひたすらシンガー・ソングライター的だった。職業作曲家が歌詞は作詞家にまかせメロディしか作らないことが多いのに対し、ウェッブは歌詞も自らほぼ一人で書き下ろしてきたせいだろうか。他人に提供した曲であっても、彼が歌えばすべて彼自身の“物語”になってしまう。他の歌手が歌ったときにはより一般的に、よりポップに聞こえていた作品も、まるで違う“深さ”と“内省的な手触り”をたたえてぼくたち聞き手の胸に忍び込んでくる。

彼が紡ぎだす洗練された美しいメロディの背後に、広漠たるアメリカならではの荒涼感が漂っていることも聞き逃せない魅力だ。そのあたりの魅力を、ぜひ「エリス」を読みつつ(笑)、ストリーミングで再確認してみてください。ついでに、その「エリス」の記事のために作成したSpotifyのプレイリストへのリンクも下のほうに貼っておきます。ジミー・ウェッブが他シンガーに提供した代表曲集です。そちらもお楽しみいただければ、と。

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Songs written by Jimmy Webb

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