Disc Review

Songs from Robin Hood Lane / Alex Chilton (Bar/None Records)

投稿日:2019.02.25 更新日:

Songs from Robin Hood Lane / Alex Chilton

アレックス・チルトンというと、60年代はボックス・トップスの若き中心メンバーとして地元メンフィスならではのブルー・アイド・ソウルで大当たりをとって、70年代にはビッグ・スターで独自のパワー・ポップ・サウンドをきわめて、ソロになってからはパンクのプロトタイプとでも言うべき刺激的な方向性を提示して、やがて80年代、ニューオーリンズに拠点を移してからはファンキーかつポップなR&B路線へと突進して…。2010年に他界するまで、時代ごとにさまざまな表情をぼくたちに届けてくれた偉大なアーティストだったわけだけれど。

彼の持ち味のうち、もうひとつ、絶対に忘れてはならないのが、いわゆる“グレイト・アメリカン・ソングブック”と呼ばれる米国のポピュラー・スタンダード・チューンをささやくように歌うクルーナーとしての一面。父親がジャズ・トランペッター/ピアニストだったこともあって、子供のころからその種の音楽に密に接しながら育ったおかげで確立した個性なのだろう。チルトン自身、事あるごとにフェイヴァリット・アルバムとしてチェット・ベイカーのヴォーカル盤『チェット・ベイカー・シングズ』を挙げていた。

というわけで、そうしたクルーナー路線のカヴァー楽曲ばかりをコンパイルしたのが『ソングズ・フロム・ロビン・フッド・レーン』。ロビン・フッド・レーンというのは、チルトンが子供時代を過ごしたメンフィスの通りの名前だ。子供時代に親しんでいた曲集、という意味か。1991年、ニューヨークのノー・ウェイヴ系ベーシスト/プロデューサー、ロン・ミラーが自らのバンド“ミディアム・クール”名義で制作した『イマジネイション』というアルバムにチルトンがフィーチャード・シンガーとして参加した際の音源と、1994年にギターの弾き語りで録音したスタンダード集『クリシェ』のセッションからの音源からのセレクションだ。このあたりのオリジナル盤は廃盤になって久しいので、買い逃していた方には絶好の再発かも。

未発表テイクも4曲。『クリシェ』でも取り上げていた「タイム・アフター・タイム」「セイヴ・ユア・ラヴ・フォー・ミー」「ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー」などはバンド入りの別ヴァージョンで収められている。油断できない。まあ、ジャズ・コンボを従えた音源の演奏そのものは、あまり、こう、刺激のない、ごくごくありきたりのものではある。チルトンのギター弾き語りにしても、演奏的にはそこそこの仕上がりというか…。でも、そうした演奏面の不満など軽く粉砕して突き抜けるだけの魔力が本盤にはたっぷり詰まっている。

へなちょこ一歩手前のチルトンのジャズ・ヴォーカル。これがやばい。クセになる。チェット・ベイカーやモーズ・アリソンあたりに共通する、なんともたまらない“あの”感じ。この感じがあってこその、ブルー・アイド・ソウル感覚であり、パワー・ポップ感覚なのだ。EPも含む80年代の諸作から15曲をピックアップした『フロム・メンフィス・トゥ・ニューオーリンズ』というアンソロジーも、『ソングズ・フロム…』に少しだけ先駆けて出た。こちらにはオリジナル曲も含まれているが、中心はやはりカーラ・トーマス、ウィリー・ティー、グラウンドホッグ、スキーター・デイヴィス、ロウエル・フルソム、ダン・ペン、ロニー&ザ・デイトナズ、チャーリー・リッチらのレパートリーのカヴァーだ。この2枚で改めてアレックス・チルトンのマジカルなポップ感覚の底辺に潜む秘密を感知しよう。


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