Disc Review

Mr. Joe Jackson Presents Max Champion in ‘What a Racket!’ / Joe Jackson (earMUSIC)

ミスター・ジョー・ジャクソン・プレゼンツ・マックス・チャンピオン・イン『ホワット・ア・ラケット!』/ジョー・ジャクソン

その昔、1980年代半ば、アルバム『ボディ・アンド・ソウル』をリリースした直後のジョー・ジャクソンに、ニューヨークでインタビューしたことがあったっけ。懐かしい。

この人、本当になんでもかんでも、興味を抱いたおいしい音楽要素を次々とスポンジのように吸収してヴァラエティ豊かなアルバムを作り上げることでおなじみ。ジャンプ・ブルースに急接近したり、ドゥーワップに挑戦したり、ジャズに向かったり、サルサにハマったり、クラシック方面に寄っていったり…。ニューヨークで話を聞いたときも、ものすごくオタクな音楽研究家的なたたずまいで。ちょっと気難しそうではあったけれど、とても楽しかったことを覚えている。

そんな彼の最新作はなんと“ミュージック・ホール”もの。往年の英国で歌や踊りや手品や寸劇を披露していた大衆芸能劇場に溢れていたような、ノスタルジックな音世界にどっぷり浸った1枚を届けてくれた。ボール・マッカートニーとかもお得意にしている例の路線ね。

いちおう形としては、第一次世界大戦前のロンドンのイースト・エンドで活躍しながらも歴史から忘れ去られたマックス・チャンピオンなるエンタテイナーの作品集。最近、マルタとかベルギーとか英国とかで発掘された彼の楽譜を使って演奏された…と注釈されている。で、このマックス・チャンピオンさん、ミュージック・ホール全盛時代に実在していた人気作曲家/シンガー/コメディアンのハリー・チャンピオンの親戚、という設定ではあるのだけれど…。

いくらググってもマックス・チャンピオンなんて人は出てこないし(笑)。まあ、ぼくはその辺の歴史には詳しくないので本当のところはわからない。ただ、どうやらこれ、ジョー・ジャクソンが創造したキャラクターらしく。彼ならではの洒落心の下、制作された架空のマックス・チャンピオン作品集ということなのだろう。

ストリングスやホーンを含む12人編成のオーケストラを率いてノーブルに編み上げられたノスタルジックでコミカルで、でもどこかダウナーでシニカルで、ある意味ストイックですらある楽曲群。グレイシー・フィールズとかヴェスタ・ティリーとかガス・エレンの時代を想起させる世界観だ。クルト・ワイルとかの感触も脳裏をよぎるし、ハリー・ニルソンとかトム・ウェイツとかランディ・ニューマンとかバリー・ブースとかの味わいも漂う。

ヴィクトリア朝の労働者階級の厳しい生活を描きつつ、現代の英国社会を痛切に皮肉るような歌詞が見受けられたり。ジョー・ジャクソン、けっこう周到に曲作りをしているみたい。あ、というか、クレジットはどの曲も“マックス・チャンピオン作”なのだけれどね(笑)。

一筋縄にはいかない人だなぁ。

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