Disc Review

Songs From The Capeman / Paul Simon (Warner)

ソングズ・フロム・ザ・ケイプマン/ポール・サイモン

ポール・サイモン、6年ぶりの新作アルバムは、12月1日に先行プレビュー、来年の1月8日に本格オープンするミュージカル『ザ・ケイプマン』の楽曲を集めた1枚だ。ぼくの親友の水口“ミソッパ”正裕のホームページにも情報が載っているけれど、ポール・サイモンがデレク・ワルコットって人と一緒に脚本・音楽を手がける話題のミュージカルで。なんと、あのルベーン・ブラデス(ほんとはルーベン・ブレイズって英語読みでいいみたい)が主役を張るそうだ。

ケイプマンってのは、1959年、ニューヨークで事件を起こしたプエルトリカンの少年、サルヴァドール・アグロンのことだそうだ。当時16歳だったアグロンは、ニューヨークのティーンエイジ・ギャングどうしの抗争に巻き込まれる形で、けんかの見物人を2人刺殺して逃走。黒いケープをかぶった背の高いプエルトリコの少年だった……という目撃証言から“ケイプマン”と呼ばれた。

数日後、逮捕されたアグロンはまったく良心の呵責を感じる様子もなく、「俺は焼かれたってかまわないぜ」と吐き捨てた。と、そんなこんなで、当時のニューヨーカーの間でケイプマンは悪魔の象徴とまで言われていたらしい。ポール・サイモンのように、当時ニューヨークに暮らしていた者なら誰もが記憶している鮮烈な事件なのだろう。

そんなケイプマンを題材に、どうやら彼の生い立ちから、20年の服役を経て模範囚として出所後、43歳で他界するまでの人生を描いたらしいミュージカルの音楽。なもんで、スタイルは50~60年代ホワイト・ドゥーワップふうだったり、プエルトリコ音楽~サルサふうだったり、エルヴィスふうだったり。ミュージカル自体のテーマは重そうだが、音楽は楽しい。本盤では基本的にボール・サイモンがリード・ヴォーカルをとっているが、曲によってミュージカルで若き日のアグロンを演じるマーク・アンソニーと、成長してからのアグロンを演じるルベーン・ブラデスが歌っているものもある。アグロンの母親役のエドニータ・ナザリオがリードをとる曲も1曲。

以前から南アフリカの音楽を搾取しているとか、南米の音楽をかっぱらってるとか、様々な批判にさらされてきたポール・サイモン。今度は“プエルトリコの音楽を搾取しやがって”と、ラテン・ファンからの批判の矢面に立たされるのかもしれないけれど。ぼくはとても素直に聞けた。ポップ・ミュージックの世界にいる限り、多かれ少なかれ搾取のしあいは必然だし。だいいち、ニューヨーク育ちのポール・サイモンにとってこの種のプエルトリコ音楽は、たぶん当時のスバニッシュ・ステーションを通してけっこう深く体験してきたものだったはずだ。

ホワイト・ドゥーワップ系の曲に関してはお手の物。サイモン&ガーファンクルで大当たりをとる以前は、もともとホワイト・ドゥワップふうの曲を自作自演したり、ガーファンクルとともにエヴァリー・ブラザーズのパチもんみたいなデュオでヒットを飛ばしたりしていたサイモンさんだけに、こちらは疑いなくルーツ帰り。

もちろん、正面きってポール・サイモン! って感じの曲もある。歌詞の内容に関する吟味は今のところぼくにはまだ深くできていない。ケイプマン事件の実状もまったく知らない。だから、実際のところぼくにわかるのは、美しいメロディ・メイカーとしてのポール・サイモンの魅力が存分に発揮されたニュー・アルバムだってことだけ。でも、それだけでもうれしい。ほんとはもっと普通のニュー・アルバムが聞きたいんだけどね……。

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