Disc Review

March Of The Flower Children: The American Sounds Of 1967 / Various Artists (Grapefruit/Cherry Red Records)

マーチ・オヴ・ザ・フラワー・チルドレン:ジ・アメリカン・サウンズ・オヴ1967/ヴァリアス・アーティスツ

暑いっすねー。慣用句的にはこの時期の暑さ、もう“残暑”になるわけだけど。そういう古来の言い回しも通用しない気象状況が当たり前に。日本でも四季が二季になりつつある昨今。地球はどうなっちゃうんですかねぇ…。

でも、まあ、とにかく夏で。過去の楽しい記憶が物を言っているのか、個人的に夏はやっぱり嫌いになれない。冬より好き。“真っただ中”って感じがして。ただ中を突っ走るイメージ。なんだか、ぐっとくる。俺、ビーチ・ボーイズ・ファンだし(笑)。

どんなものにも、それぞれの“夏”ってのがあって。それぞれの熱気がピークを迎えている瞬間。夢に燃えて突っ走ってる状態。そういう時期がどんなものにもある。たとえばロック音楽にしてもそう。今やすっかり混迷をきわめ、旬が過ぎた音楽として語られることも少なくないロックという文化にだって、かつて夢と希望に燃える“夏の時代”があった。それが1967年。“サマー・オヴ・ラヴ”〜“愛の夏”と呼ばれるあの年だ。

1960年代半ば、アメリカ西海岸では既成の古くさい秩序や概念を打ち破るボヘミアン的存在として“ヒッピー”たちが台頭しつつあった。サンフランシスコのハイト・アシュベリー地区、ロサンゼルス郊外のローレル・キャニオンなどを拠点に、ボヘミアン的な文学者、ラジカルな政治家、思想家、音楽家、詩人、作家、画家、演劇家、学生ら“ヒップな連中”が多彩なカウンター・カルチャー、ドラッグ・カルチャーなどと結びつきつつ価値観のドラスティックな転換を声高に主張し始めた。泥沼化しつつあったベトナム戦争に対抗して、花を飾って平和をもたらそうとするフラワー・ムーヴメントが巻き起こった。こうした動きは1967年にピークを迎え“サマー・オヴ・ラヴ”と呼ばれた。

音楽的には、サイケデリック・ロックが台頭。グレイトフル・デッド、ジェファーソン・エアプレイン、ビッグ・ブラザー&ホールディング・カンパニーなどが、ドラッグによるトリップ感覚を助長するために様々なサウンド・エフェクトを多用したり、長尺なインプロヴィゼーションを展開したり、めまぐるしく原色の照明を交錯させるライト・ショーと同調したり。実験的なパフォーマンスを繰り広げていた。

1950年代に誕生して以来、卑俗で猥雑でやかましいガキ向けのガラクタ音楽と社会からまともに認知されることがなかったロックンロールも、歳月を重ね徐々に成長/深化。学生運動や反戦運動などある種の“思想”と結び付き、さらに自由と解放のシンボルでもあったドラッグと合体していったわけだ。ロックにとって熱い、まさに夏の時代。

もちろん、結論から言えばこの熱も長続きはせず、1969年に40万人の観客を集めて行なわれた“ウッドストック・フェス”あたりをピークに、熱い連帯への思いをたぎらせたロックが生気を失い、代わって、ひたすら内省的な手触りをもつシンガー・ソングライターたちの音楽が静かなブームに…。ロックは“秋の時代”から“冬の時代”へと突入していったわけだけれど。

とはいえ、そうした冷酷な運命が待っていたことを誰もが知っている今なお、1960年代後半、やみくもな勢いで幻想をふくらませ続けていた時期のロック〜ポップ音楽に接すると、その楽観的な高揚感とか猥雑な山っ気とかに妙に胸が高鳴るのも事実。

というわけで、そんな振り返り作業にばっちしのCD3枚組コンピレーションが、おなじみ、英チェリー・レッド・レコード傘下のグレイプフルーツ・レーベルから出ましたよ。『マーチ・オヴ・ザ・フラワー・チルドレン:ジ・アメリカン・サウンズ・オヴ1967』。タイトル通り、1967年のアメリカの音楽シーンを賑わしたフラワー世代による音楽の“行進”だ。サイケデリアあり、ガレージ・パンクあり、フォーク・ロックあり、サンシャイン・ポップあり。まさにサマー・オヴ・ラヴのサウンドトラックという感じ。

ピーナッツ・バター・コンスピラシー、ラヴ、モンキーズ、クライアン・シェイムズ、ブルース・プロジェクト、ヤングブラッズ、ボー・ブラメルズ、グレイトフル・デッド、ポール・リヴィア&ザ・レイダーズ、ラヴィン・スプーンフル、ヤング・ラスカルズ、ハーパース・ビザール、カレイドスコープ、エタニティーズ・チルドレン、ヴァニラ・ファッジ、エレクトリック・プルーンズ、モビー・グレイプ、ストーン・ポニーズ、シーズ、バーズ、トーケンズ、サークル、エヴァリー・ブラザーズ、ティム・バックリー、ハリー・ニルソン、パレード、トミー・ロウ、メリー・ゴーラウンド、バッファロー・スプリングフィールド、ローズ・ガーデン、フリー・デザイン、ストロベリー・アラーム・クロック、ステッペンウルフ、13thフロア・エレヴェイターズ、ボイス&ハート、ジャン&ディーン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、チェンバーズ・ブラザーズ、サジタリアス、クリッターズ、マザーズ・オヴ・インヴェンション、キャプテン・ビーフハートなど、もうここには書き切れないくらいの全85曲、有名どころ、レアもの、大ヒットもの、カルトもの、バンドもの、ソロもの、ベテラン、新人取り混ぜつつ全長4時間に及ぶ1967年作品の雨アラレだ。

書き切れないので、フルの曲目リストはチェリー・レッドのサイトでチェックしてみてください。サブスクはない模様。これまたブツでゲットだっ! 48ページ・ブックレット付き。あの“夏”の時期、確実に存在した絶対的な“何か”を今、半世紀以上の歳月を経て、この“冬の時代”から改めて振り返るのも悪くないかも。

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