Disc Review

Archives, Volume 4: The Asylum Years (1976-1980) / Joni Mitchell (Asylum/Rhino)

アーカイヴス Vol. 4:アサイラム・イヤーズ(1976−1980)/ジョニ・ミッチェル

出るたびに、こことかこことかこことかで大騒ぎさせてもらってきた“JMA(ジョニ・ミッチェル・アーカイヴス)”の“アンリリースト・マテリアル”シリーズ。最新作、出ました。

前回出た“アルバム・リマスターズ”シリーズの4箱目『ジ・アサイラム・アルバムズ(1976〜1980)』に対応したレア音源集。アサイラム・レコード在籍時の後半、オリジナル・アルバムで言うと『逃避行(Hejira)』(1976年)、『ドンファンのじゃじゃ馬娘(Don Juan's Reckless Daughter)』(1977年)、『ミンガス』(1979年)、そしてライヴ第2弾『シャドウズ・アンド・ライト』(1980年)のころ、ぐっとジャズ方面に接近しながらキャリア中最強の作品群を立て続けに生み出していた充実期の記録です。これまではCD5枚組だったけれど、今回は6枚組。仕方ないね。充実しすぎてる時期だから。

今回も手応えたっぷりのブックレット付き。貴重な写真やジョニとキャメロン・クロウの対談ライナーなどが満載。その対談ではまたまた面白い話がたっくさん語られているのだけれど。特に印象に残っているエピソードのひとつが、1976年、ボニー・レイットがドリー・パートンを連れてジョニのもとにやってきたときのこと。みんなでジョニの新作『逃避行(Hejira)』をプレイバックして。聞き終わったところでドリーさんが放ったひとことが——

「こんなに深く何かを考えたら、私、死ぬほど怖くなっちゃうわ」

だったとか(笑)。そうだよねー。ドリーさんに共感。今回、たくさん詰め込まれたデモとか、未発表テイクとか、別ヴァージョンとか、スタジオでのレアなセッション音源を聞いていると、あまりの才気にくらくらしてくるもの。

完成ヴァージョンではジャコ・パストリアスのベースが強力な存在感を放っている曲の原型とも言うべきデモとか、初期ヴァージョンとか、いろいろ入っていて。もちろんジャコ入りの公式リリース・ヴァージョンのすごさは改めて言うまでもないとはいえ、今回お披露目されたヴァージョンたちもすごい。

ジョニさんがギターを掻き鳴らしながら歌う「トーク・トゥ・ミー」のデモとか、チャカ・カーンのコーラスとともに切れ味鋭くキメた「黒いカラス(Black Crow)」とか、トム・スコットのサックスやチャック・フィンドリーのトランペットが大きくフィーチャーされた「旅はなぐさめ(Refuge of the Roads)」の初期ヴァージョン(ベースはマックス・ベネット)とか。楽しい楽しい。

「セイヴ・マジック」と題された12分に及ぶジョニさんのイマジネイティヴな即興ピアノ・スケッチも素晴らしい。副題に“Paprika Plains Embryonic Version”と付けられていることからもわかる通り、これ、『ドンファンのじゃじゃ馬娘』の核を成す「パプリカ・プレインズ」の“胚芽”とも言うべき初期ヴァージョンで。エンジニアを務めたヘンリー・ルーウィがこっそり録音しておいたものだとか。グッジョブ、ヘンリー! まじ素晴らしいです。

ライヴ音源もいろいろ入っていて。アルバム・タイトルに記されている録音期間は1976年からということになっているけれど、実際には1975年暮れ、ボブ・ディランのローリング・サンダー・レヴューに帯同したときのライヴ録音からスタートしていて。

おかげで、メイン州のバンゴー・オーディトリアムでのリハ音源を聞くことができる。ジョニさん、ダルシマーを弾きながら「ア・ケイス・オヴ・ユー」を歌っていて。いろいろジョークも連発。飲み物の話をしていた流れで“オー・カナダ・ドライ…”とか歌ってきゃはきゃは笑ってるし(笑)。歌い終えたところで、ダルシマーはステージでマイキングするのががむずかしいって話になったり、“この楽器は小川のせせらぎのそばで弾くように作られているのよ”とか言ったり。実に興味深い。

1978年9月、ブレッド&ローゼズ・フェスに出演したときのライヴ音源もいい。ステージに登場したジョニさん、まず“今、私にとって新しいプロジェクトに取り組んでいるの。チャーリー・ミンガスの曲に歌詞をつけたわ…”みたいなMCをして「デ・モインのおしゃれ賭博師(The Dry Cleaner From Des Moines)」をアカペラで歌い出すのだけれど、ひとしきり終わったところで客のひとりがジョニに“ロックンロール、ジョニ!”と叫ぶ。いるよね、そういう客。でも、ジョニさんはそれに対して“ロックンロールじゃないわ。ビバップよ”とするりと返していて。それがまたかっこいい。

マイケル・ブレッカー、パット・メセニー、ライル・メイズ、ドン・アライアスらを従えた1979年サマー・ツアーのリハーサル音源もかっこよかった。もちろんCD6枚組だし、まだ全部をちゃんと聞ききれていないから、まだまだたくさんの発見が詰まっているはず。ジョニさん最強期のオーラ、めいっぱい浴びます。

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