Disc Review

Joni Mitchell Archives Volume 1: The Early Years (1963-1967) / Joni Mitchell (Rhino)

アーカイヴス Vol.1:アーリー・イヤーズ(1963〜1967)/ジョニ・ミッチェル

先日こちらでチラッと盛り上がったジョニ・ミッチェルの超貴重初期音源集、CD5枚組、改めてちゃんと紹介します。去年、本ブログで彼女の生誕75周年を祝うトリビュート・ライヴ作を紹介した際にも書いたことだけれど。ぼくは個人的に、この人こそ20世紀最重要な女性アーティストだと思っているもんで。そんな偉大なアーティストの音源ならば、すべて味わってみたい、と。CD5枚、全長6時間弱、味わいました。でもって、大いに感動しました。

編纂したのはわれらがライノ・レコード。ライノはジョニさんの全面協力の下、丹念に調査を行ない貴重な音源を発掘し丁寧にリストア。今後数年かけて“アーカイヴ・シリーズ”として発表していく予定だとか。ニール・ヤングのアーカイヴ・シリーズのジョニ・ミッチェル版みたいな。その発掘シリーズ第一弾として世に出たのが、今回のCD5枚組『ジョニ・ミッチェル・アーカイヴズ Vol.1:ジ・アーリー・イヤーズ(1963〜1967)』だ。

レコード・デビューする前のジョニ・ミッチェルの歌声というのは、実はけっこうブートレッグ化、あるいはブートまがいのアルバム化がなされていて。ジョニさん、そういう、非公認の発掘アルバム群にけっこうご立腹だったご様子。古いテープを持っているからという、それだけのことで本人に対する何の許可もなく勝手に金儲けされちゃたまらない、と。そんなこともあって、今回、ライノとがっつりタッグを組んで、古い未発表音源の体系的リリースに乗り出した。

彼女の場合、アルバム『ジョニ・ミッチェル(Song to a Seagull)』でレコード・デビューを飾ったのが1968年だから。1963〜1967年というのは、要するにそれ以前ということ。1963年、まだ彼女がアートスクールに通うようになる前、フォーク・クラブで歌うようになる前、ギターを独学で覚えて弾き語りし始めた19歳のころ、地元のAMラジオ局CFQCで、ウディ・ガスリーのレパートリーやトラディショナル・フォーク、カントリーなどを歌った瑞々しい音源で本ボックスセットはスタートする。

以降、トロントのフォーク・クラブでの初期ライヴ演奏や、ホーム・レコーディング、各種ラジオ/テレビ出演時のパフォーマンス、エレクトラ・レコードのためのデモ、デビュー直前のライヴ音源など。基本的にはどれもジョニのアコースティック・ギター弾き語り。ブートでおなじみの音源も少なくないけれど、聞いたことがないものもふんだん。音質もがぜん良くなって。ラジオでのおしゃべりや、ライヴでのMCも含めて全119トラック。うち29曲が今回初出のジョニのオリジナル曲なのだから。やばい。

初期のものは、何というか、こう、くどさ薄めのジョーン・バエズというか(笑)。真っ向からのフォーク・シンガー。歌っているのも「朝日のあたる家(House Of The Rising Sun)」とか「ジョン・ハーディ」とか「ダーク・アズ・ア・ダンジョン」とか「コッパー・ケトル」とか、自作曲ではないし。ギターのチューニングもレギュラーみたいだし。普通にスリーフィンガーとかしてるし。

でも、月日が経つにつれ、歌もギター演奏も表現がどんどん深まっていって。「ダーク・アズ・ア・ダンジョン」なんか、ディスク1冒頭の1963年AMラジオ・ヴァージョンとディスク1中盤の1964年ライヴ・ヴァージョンとでは、もう楽曲そのものの解釈もギター演奏のアプローチもまるで別物というか。別次元。フォーク・シンガーという言葉だけではくくりきれない境地に足を踏み出し始めていて。

ディスク2後半、1966年、フィラデルフィアでのライヴのあたりになると、もうデビュー当時のジョニさんの感触が完成。このあたりになると、もうほぼすべてが自作曲。ディスク3のラストに同郷のニール・ヤング作「シュガー・マウンテン」、ディスク4にトラディショナル「ザ・ダウイ・デンズ・オヴ・ヤーロー」が入っている程度。

ディスク3、1967年のライヴとかになると1曲ごとにチューニングを変えている。なんだかすごい。才気みなぎっちゃってる感じで。でも、かといって、ステージでこむずかしそうに寡黙にうつむいて演奏している様子ではなく、ものすごくきちんといろいろ面白い話をMCしていて。司会者とチューニングに関するやりとりとかもしていた。「普通のチューニングの曲ってあるの?」と聞かれ、「1曲だけね」とか答えてたり。すげぇ面白い。で、けっこうチューニングが最終的に合わないまま、まあいいか…みたいな感じで演奏に入っちゃったり(笑)。繊細さと雑さとの混在具合がたまらない。

そういえば以前、1969年くらいのディック・キャベット・ショーの映像を見ていたら、ジョニ・ミッチェルが出ていて。一緒にゲスト出演していたジェファーソン・エアプレインとかが、もう、いかにも“俺たちロック・アーティストだから、テレビなんかに協力してやらねぇよ”的なムード全開で、椅子を蹴ったり、インタビューに真面目に答えなかったり、素行最悪な感じだったのに対し、ジョニさんはすっごく愛想もよく、司会者にも協力的で。あー、ひとかどの人って、こういうとこちゃんとしてるんだなぁ…と思ったものでした。

まあ、とにかく、1963〜1967年というデビュー前のほんの5年間で彼女がどれほど速く、深く、鋭く、気高く、豊かに成長していったか、その過程を濃密に追体験することができるボックスセットなのでありました。トム・ラッシュがいち早く取り上げたジョニ作品のひとつ「アージ・フォー・ゴーイング」やフェアポート・コンヴェンションが取り上げていた「イースタン・レイン」といった初期作品も聞ける。

「ジェレミー」「フリー・ダーリング」「ジェミニ・トゥイン」などファースト・アルバムに収録予定ながらお蔵入りしたことでファンにはおなじみの未発表曲だ。「私の王様(I Had A King)」や「マイケル・フロム・マウンテンズ」のようなファースト収録曲はもちろん、セカンド・アルバム『青春の光と影(Clouds)』収録の「青春の光と影(Both Sides Now)」や「チェルシーの朝(Chelsea Morning)」「我を忘れて(I Don't Know Where I Stand)」、サード・アルバム『レディーズ・オヴ・ザ・キャニオン』収録の「サークル・ゲーム」「会話(Conversation)」などの初期ヴァージョンもあり。注意深く聞くと歌詞がちょっと違っていたり、初期ヴァージョンならではの楽しみもいろいろ。

このアーカイヴ・シリーズ、このあとどんな展開をしていくのか、続編に思いを馳せつつ、初期の瑞々しいジョニ・ミッチェルのレアな歌声に浸りましょう。以前のエントリーでも触れた通り、フィジカルにはキャメロン・クロウがジョニに直接取材した際に交わした対話などを詳細に掲載した充実のブックレットもついていて、これがまた興味深い内容。なので、対訳を読みたい方は今月25日に出る国内盤(Amazon / Tower)を入手するほうがベターかも。

ちなみに、1963年のパフォーマンスが『アーリー・ジョニ〜1963』という1枚もののアナログLP(Amazon / Tower)で、1967年にアナーバーのカンタベリー・ハウスで録音された3ステージ分のライヴが『ライヴ・アット・カンタベリー・ハウス〜1967』というLP3枚組(Amazon / Tower)で、それぞれ1万セット限定で出てます。『アーリー・ジョニ…』のほうはジョニさんの自画像イラスト・ジャケットで。CDボックスセットのディスク1と同じ絵だけれど、これ、やっぱサイズがでかいと良いですねー。

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