クローム・ドリームズ/ニール・ヤング
ブログ、お盆休みしてました。再開しまーす。まずは再開に適任なこの人から。ニール・ヤング!
ヤングさんの“スペシャル・リリース・シリーズ”。もともとリリースされる予定だったものの、もろもろの事情でお蔵入りした未発表アルバム群を改めてオフィシャルな形で世に出すシリーズだけれど。
まずは、1976年8月にたった一晩ですべて録音されながら、すべて弾き語りだったこともあり、“これじゃデモじゃねーか”とリプリーズ・レコードにリリースを拒絶されてしまったというアルバム『ヒッチハイカー』(シリーズ内の通し番号は“Vol.5”)が2017年に出て。翌2018年に同名映画(ダリル・ハナ監督)のサウンドトラック『パラドックス』(Vol.10)が出て。2020年に、本来ならば1975年、『オン・ザ・ビーチ』と『ズマ』の間に出る予定だった『ホームグロウン』(Vol.2)が出て。去年、盟友クレイジー・ホースとともに2000年、サンフランシスコのトースト・スタジオでレコーディングされながら未発表に終わっていた『トースト』(Vol.9)が出て。
で、いよいよ本作。当初は1977年、スティルス=ヤング・バンドの『太陽への旅路(Long May You Run)』に続いて出るはずだった幻の『クローム・ドリームズ』が登場するに至った、と。そういう流れです。今回の通し番号はスペシャル・リリース・シリーズ Vol.6 。
1977年に出る予定だったとはいえ、収録曲が録音されたのは1974年から77年まで、飛び飛び。ばらばら。しかも最終的にはその大半が、『アメリカン・スターズン・バーズ』(1977年)、『カムズ・ア・タイム』(1978年)、『ラスト・ネヴァー・スリープス』(1979年)、『タカ派とハト派(Hawk & Doves)』(1980年)、『フリーダム』(1989年)、『アンプラグド』(1993年)など、その後のニール・ヤングのアルバム群に何らかの形で、散り散りに収録されて世に出たこともあって、立ち位置的に微妙な未発表アルバムではある。
しかも、2007年には『クローム・ドリームズII』なるニュー・アルバムまで出て。でも、基本的にそれはもともとの『クローム・ドリムーズ』とはなんだか関係があるようで、ないようで…。さらにややこしいことになってしまっていた。
それだけに、オリジナル『クローム・ドリームズ』がこうして公式にきちんと形になったというのはうれしい。まあ、マニアであればアセテートから起こされたブートを絶対に1種類は持っているとは思うのだけれど、やはりオフィシャルで、1枚のパッケージで、この曲順で…というのが大事。散り散りにではあったものの、のちのち他のアルバムに大半の曲が流用されたということは、つまりいい曲ぞろいだったことの証なわけで。
収録されているのは、まず「優しきポカホンタス(Pocahontas)」。1977年にコーラスと軽いパーカッションとさらなるギターをダビングしたヴァージョンが『ラスト・ネヴァー・スリープス』で世に出た。今回のヴァージョンはその前、1976年8月に録音されたダビングなしヴァージョン。この1976年8月のセッションをまるごと収めた『ヒッチハイカー』で聞くことができたのと同じヴァージョン。冒頭のデヴィッド・ブリッグスとのやりとりは今回カットされている。
「愛する決意(Will to Love)」は『アメリカン・スターズン・バーズ』に収められていた曲。ヴァージョンも同じ。パチパチ言ってるおうちの暖炉の前で1976年4月に録音され、そこにヤングさんがキーボードや吸引力に満ちたヴァイブラフォン、パーカッションなどを軽くダビングした例のやつだ。
「ベツレヘムの誇り(Star of Bethlehem)」も初出は『アメリカン・スターズン・バーズ』。ベン・キース、ティム・ドラモンド、カール・T・ヒメル、エミルー・ハリスとともに1974年12月に録音されたものだ。本作中いちばん古い録音かな。『ホームグロウン』にも同じヴァージョンが収められていた。
「ライク・ア・ハリケーン」も『アメリカン・スターズン・バーズ』で初出。1975年から76年にかけて、ポンチョ・サンペドロ加入直後のクレイジー・ホースとともにレコーディングしたあのおなじみの既出ヴァージョンだ。
「遠すぎた道(Too Far Gone)」はポンチョ、ベン・キース、リック・ロサス、チャド・クロムウェルらと1980年代に再録音したヴァージョンが『フリーダム』に収められていたけれど、こちらはポンチョのマンドリンとヤングさんのアコースティック・ギターだけをバックに1975年9月に録音されたもの。2020年に『アーカイヴズVol.2:1972-1976』で初お目見えしたレア音源だ。
「ホールド・バック・ザ・ティアーズ」も『アメリカン・スターズン・バーズ』でおなじみの曲。あちらはクレイジー・ホースやベン・キースたちと1977年4月に再録音したヴァージョンだったけれど、こちらはその前、1977年2月にヤングさんひとりでギター、キーボード、パーカッションなどをダビングしたアコースティックなデモ・ヴァージョン。
オフィシャルには今回初出となった未発表音源だ。曲の中盤、別歌詞が出てきたりも。
「ホームグロウン」はもともと1974年12月、同名アルバムのために録音されたもので、その未発表ヴァージョンは2020年にめでたく発掘されていたけれど。ここには1975年11月、クレイジー・ホースと再録音して『アメリカン・スターズン・バーズ』のラストを飾ったヴァージョンが収められている。1977年に出るはずだった『クローム・ドリームズ』にもこっちが入る予定だったということか。
「キャプテン・ケネディ」は例の1976年8月セッションで録音された曲。『タカ派とハト派』や『ヒッチハイカー』に収められていたのと同じアコースティック・ギター弾き語りヴァージョンだ。
「ストリングマン」は1993年になって『アンプラグド』でようやく初音盤化された曲。1976年3月に英ロンドンのコンサートで録音されたピアノ弾き語りヴァージョンを基調に、直後にスタジオで軽く手直しをほどこした音源が今回収められている。2020年に『アーカイヴズVol.2:1972-1976』で発掘リリースされたのと同じヴァージョンだ。
「セダン・デリヴァリー」は『ラスト・ネヴァー・スリープス』に収められた1978年ヴァージョンでおなじみの人気曲。ここには1975年5月、アルバム『ズマ』のセッションでクレイジー・ホースと録音した未発表ヴァージョンが収められている。ぐっとテンポを落としたクールなアプローチがかっこいい。
「パウダーフィンガー」も『ラスト・ネヴァー・スリープス』での初出曲。あちらはもちろんクレイジー・ホースを従えたバンド・ヴァージョンだったけれど、ここには1976年8月の『ヒッチハイカー』セッションで録音されたアコースティック・ギター弾き語りヴァージョンが収められている。2017年に『ヒッチハイカー』で世に出たのと同ヴァージョン。
「愛の裏側(Look Out for My Love)」は『カムズ・ア・タイム』で初出となった曲。1976年1月にクレイジー・ホースと録音したそのヴァージョンがここにも収められている。
というわけで、今回ヴァージョン的にレアなのは「ホールド・バック・ザ・ティアーズ」と「セダン・デリヴァリー」だけ。あとは、あのでっかいアーカイヴズ・ボックスを買うような熱心なファンならばすでに何らかの形で入手しているはずの音源ばかり。なので、これ、改めて買ったほうがいいかどうか、おすすめしにくい1枚ではあります。
ただ、これが1977年当時、もし本当にリリースされてたら、当然その後のニール・ヤングのオリジナル・アルバム群の収録曲もだいぶ変わっていたわけだし。そういうパラレルな展開を夢想しながら、通常の1枚ものとして本作に収録された名曲群に接し直すってのもなかなかに楽しいかも。ぼくはそんなふうに楽しんでます。
曲順とかヴァージョン選定って、やっぱ大事なのねー。