Disc Review

Freewheelin' Woman / Jewel (Words Matter Media)

フリーホイーリン・ウーマン/ジュエル

ぼくが初めてこの人、ジュエルの動く姿を見たのは、もうずいぶんと昔の話。1996年初頭だったか。たまたま滞在していた米国で、メリサ・エスリッジを主役にしたVH1の特別番組『デュエッツ』ってのを見ていたら、そこにデビューしたばかりのジュエルもデュエット・パートナーのひとりとして出演していて。メリサとデュエットを聞かせていた。

そのときはメリサ姐さんのど迫力を前にすっかり緊張した様子で。か細いヴォーカルを聞かせるばかり。そんな彼女の姿が妙に印象的だった。懐かしい。

その後、日本でもMTVなどを通して彼女の生演奏を見る機会が増えてきて。そのたび、彼女の急激な成長ぶりと人気爆発ぶりに驚かされたものだ。1997年半ばのMTVムーヴィー・アワードで見た彼女は、ほんの1年ちょっと前にメリサの前で縮こまっていたひ弱そうな少女とはもはや別人だった。表現力が飛躍的に豊かになり、歌声自体の強さ、太さも増していた。

1995年、特に大きな話題を呼ぶでもなくリリースされたデビュー・アルバム『心のかけら(Pieces of You)』を、その後の地道な活動によって、1997年には全米で500万枚を売り上げる大ベストセラーへと仕立て上げた自信が、彼女のパフォーマーとしての才能をより大きく開花させたのだろう。経験ってやっぱすごいな、大事だなと改めて思い知りました。

1974年、アラスカのフォーク・ソング・デュオとして活動していた両親のもとで生まれ、スイスのヨーデルやオペラの影響なども受けつつ、デビュー当初の個性を確立。系譜としては1980年代に話題を呼んだスザンヌ・ヴェガ以降の新世代女性フォーキー・アーティストの流れの上にある人という感じだったけれど、アメリカ人にとってエキゾチックな要素を少なからずたたえていたのがまた新味で。そのことも成功の大きな要因となったはず。

ただ、そういう素朴で、触れれば壊れてしまいそうな持ち味だけでなく、ジュエルの中にはもっと幅広い音楽性が潜んでいたのだよ、と。そんなことを思い知らされる新作の登場です。

前作『ピッキング・アップ・ザ・ピーシズ』から7年ぶり。子供向けの作品集やクリスマス・アルバム、朗読アルバム、ライヴ・アルバムなども多い人なので、何作目と数えればいいのか、ややこしいのだけれど。通常のオリジナル・スタジオ・アルバムとしては9作目ということになるのかな。子供向け、クリスマスもの含め、歌もののスタジオ作としては通算13作目。自身のレーベル“ワーズ・マター・メディア”からの初リリースだ。

収録曲の中にはもちろん、初期、フォーキーだったころの彼女を思い起こさせるタイプの、静かで内省的な楽曲もいくつか含まれてはいる。中でも悲しげな眼差しで過去へと思いを馳せる「ホエン・ユー・ラヴド・ミー」あたり、なんとも切々たる仕上がりで。おー、ジュエル、来た…と思わせてくれたりもするのだけれど。今回、アルバムの中でより確かな存在感を放っているのはポップ・ソウルとかカントリー・ソウル的なアプローチを展開した楽曲たちのほうで。ちょっと驚きつつも、この人の柔軟な魅力を再確認させてもらえた。

マーヴィン・ゲイとかカーティス・メイフィールドっぽいちょいハネのグルーヴとホーン・セクションのリフがかっこいいオープニング・チューン「ロング・ウェイ・ラウンド」では、“2歩進んで1歩下がる、それが人生。楽しみなさい”みたいなことをジプシーの女性から告げられる様子が描かれていたり。“どんな男より、あなたの思い出が強く、長く、私を愛してくれる”と、なんとなく内向きなことを歌っているようにも思える「リヴィング・ウィズ・ユア・メモリー」も、しかしサウンドはファンキーにバウンドするごきげんなものだったり。ずいぶんとボジティヴな感触。

トレインとの共演で、昔のような二人に戻ろうと歌う「ダンシング・スロウ」や、生きていく中で大切なのは踊ること、歌うこと、笑うこと、愛すること…とメッセージする「ダンス・シング・ラフ・ラヴ」、キャッチーなオルガンのリフに乗って“いろいろあるけど、大丈夫、愛は勝つわ!”とぶちあげる「ラヴ・ウィンズ」なども同様。

ジュエルさん、10代のころにはフォーキーな音楽だけでなく、エラ・フィッツジェラルドとか、サラ・ヴォーンとか、さらにはダスティ・スプリングフィールドとか、一連のマッスルショールズ系R&Bとか、そういうレコードも幅広くたくさん聞いていたのだとか。そのあたりの影響を今回はあえて抑えることなく、自身のレーベルという自由な環境の下、のびのび表に出してみた、と。そういうことらしい。

7年というアルバム・リリースのブランクの間に発表されたシングル曲「ノー・モア・ティアーズ」も収められていて。これはホームレス問題を扱った2018年のドキュメンタリーのテーマ曲。ダリウス・ラッカーとのデュエットで綴られているのだけれど、こちらもちょっとゴスペル色をたたえたソウルフルなハチロクのバラードだ。

ある種の決意もにじませたジュエルの“フリーホイーリン”な冒険。ちょっと力はいりすぎな感もなくはないけれど。わくわく楽しませてもらいました。ストリーミングはすでにスタート。CD発売は今週末、4月22日。アナログは6月だとか。

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