Disc Review

Conversation Piece / David Bowie (Parlophone)

カンヴァセーション・ピース/デヴィッド・ボウイ

1973年。ぼくが高校3年生だった春のこと。デヴィッド・ボウイの初来日公演があった。今も鮮烈に記憶している。確か豪華客船で来たんだっけ。飛行機は嫌いだとか言って。優雅に。

会場は渋谷公会堂だったか新宿厚生年金会館だったか。山本寛斎がデザインした紋付袴を身にまとい、ストロボが激しく点滅する中、ベートーヴェンの9番を鳴り響かせつつ、がががっ…とステージにせり上がってきた瞬間から、そのはったりの効いたアホみたいなかっこよさに思いきり興奮したものだ。

翌日、学校で友達にコンサートのことを話したら、「あいつ、ガリガリだろ?」と言われたこともよく覚えている。妖しく退廃的なグラム・ロックのヒーロー。華奢で繊細なトリックスター。そんなイメージで語られることが多かったせいか、友達はそう勘違いしたみたいなのだが、実際まったくそんなことはなく。お色直しを激しく繰り返し最終的にはパンツ一丁にまでなったボウイの肉体はがっちり鍛えられていて。筋肉ばっちり。歌声も力強く、声量もたっぷり。バンドの演奏もタフでタイト。ごきげんにロックンロールしていた。

時代とともにファッションや音楽性をくるくる変化させる“変わり身の早さ”こそがボウイの魅力だとよく言われる。ソウル音楽に急接近してみたり、ジャーマン・ロックにのめり込んでみたり、ドラムン・ベースを積極的に採り入れてみたり。

が、彼にとって変化そのものが目的ではなかったとぼくは思う。彼の本質はけっして変わらなかった。時代時代の気まぐれな空気感の中、変わらぬ本質をどう提示すればもっとも有効に聞き手に届くか模索し続けたがゆえのスピーディな表層の変貌。

亡くなる直前、2016年に発表された遺作『★(ブラックスター)』もそうだった。ボウイはアルバムに、これからの時代を担っていくであろう新世代ジャズ演奏家たちを多数迎え、彼らが繰り出す新鮮な躍動に身を委ねていた。が、そんな最先端の音世界のもと、ボウイは厭世感と希望とがクールに交錯する、1970年代から不変の世界観を淡々と綴っていた。

そう。ボウイは不変だったのだ。不変ゆえの普遍。あでやかな衣装やメイクを脱ぎ去れば、いつの時代もそこには初来日時と同じ、ボブ・ディランとビートルズから多くを受け継いだごきげんにタフなロックンローラーであるボウイがいた。初来日のステージで彼が歌った「スターマン」が忘れられない。当時の彼は、異性からやってきた架空のスーパースター“ジギー”というペルソナに成りきり、その成功と没落の物語を扇情的に綴っていた。が、そこには同時に、やたら冷静に自分の姿を俯瞰しているような眼差しも感じられて、本当にやばかった。まぶしかった。

そんな初来日公演のほんの数年前、彼の“始まり”の時期の試行錯誤をぎっしり詰め込んだボックスセットが今日取り上げる『カンヴァセーション・ピース』だ。誰にも真似できない不変/普遍の歩みの起点を記録した聞き応えたっぷりのCD5枚組。1969年の大傑作セカンド・アルバム『スペイス・オディティ』へと至る時期の弛まざる試行錯誤が集大成されている。

ホーム・デモあり、BBCラジオ・セッション音源あり、ジョン“ハッチ”ハッチンソンとのスタジオ・レコーディングあり、ボウイ+当時のガールフレンド、ヘルミオーネ・ファージンゲール+ハッチという顔ぶれでの音源あり。

と言っても、実は初出の未発表音源はそう多くない。11曲かな、12曲かな…。今年の4月に出た7インチ・シングル4枚組『スパイング・スルー・ア・キーホール』や、5月に出た7インチ3枚組『クレアヴィル・グローヴ・デモ』、6月にアナログLPで出た『ザ・マーキュリー・デモズ』などの収録音源をここで一気にCD化するのが主眼だった感じも。これまでバラ売りされたアナログもろもろをひとつひとつ追いかけ続けたファンにとっては、ちょっとぉ…と言いたくなりそうなボックスではある。

が、それでもひと箱に集大成されたこと自体は、やっぱりうれしい。ありがたい。ディスク1から3まで、それら貴重な試行錯誤のレア音源群を経て、ディスク4、1969年オリジナル・ステレオ・ミックスによる『スペイス・オディティ』(2009年リマスター)へと至る流れは、もちろん思いきりマニア向けではあるものの、とても興味深い。オリジナル・アルバム未収録のシングルB面曲とか、初期ミックスとかもボーナス収録されている。

で、ディスク5は、『スペイス・オディティ』を盟友トニー・ヴィスコンティが今様にリミックスして新たによみがえらせた2019年最新ミックス・ヴァージョン。オリジナルLPリリースの際、収録時間の関係でお蔵入りし、翌年シングルB面曲として世に出た本アンソロジーの表題曲「カンヴァセーション・ピース」入りの全10曲入りシークエンスでまるごと楽しめる。ちなみに、この新ミックスのみ単体でのCD/LP/ストリーミング・リリースもあり。

この後、表層をくるくるスピーディに変えながら長い歩みを続けていくボウイだけれど、この時期の楽曲に改めて接してみると、どの曲の根底にも優れたシンガー・ソングライターとしての才能がきっちり流れていること、それこそが彼ならではの不変さを支えることになる最大の武器であり魅力だったのだなと再確認できるボックスセット。120ページのブックレットも強力だ。

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