Disc Review

Stackridge: Expanded Edition + Friendliness: Expanded Edition / Stackridge (Esoteric Recordings)

スタックリッジ:エクスバンデッド+フレンドリネス(友情):2CDエクスパンデッド/スタックリッジ

ハリー・ニルソン、ハーパース・ビザール、タイニー・ティム、ポール・マッカートニー、ハリケーン・スミス、ギルバート・オサリヴァン、そしてスタックリッジ。

私事で恐縮ですが、1970年代初頭に高校生活を送っていたぼくはこうしたアーティストたちによって、紋切り型のロックを聞いているだけでは永遠に感知できない、もっと幅広く、奥深い音楽が世の中には存在するのだということを身体で学んだのでありました。

で、そんな恩人アーティストのひとつ。スタックリッジ。のちにコーギスを結成することになるジェイムス・ウォーレンとアンディ・デイヴィスを擁していた英国ポップ・バンド…とか、まあ、このブログに足を運んでくださる方ならば、そんな説明も不要でしょうが。

この人たちに関して、ぼくは特に1972年のセカンド・アルバム『フレンドリネス(友情)』が大好きだった。世間的にはジョージ・マーティンのプロデュースによる次作『山高帽の男(The Man in the Bowler Hat)』のほうが人気が高そうだけれど、個人的にはどうしてもこっち。名曲「エニワン・フォー・テニス」には心底やられたものです。

プログレッシヴ・ロックの流れの中で彼らを評価する方の場合、1975年以降、ロケット・レーベル移籍後の音のほうがいいのかな。けど、まだフォーキーな手触りを強くたたえながら持ち前のほのぼのオールド・タイミーな、往年のミュージック・ホール的なメロディ感覚を存分に発揮していたこの時期のスタックリッジも、いいのだ。未完成な部分も含めてたまらない。歌詞にも、刺激的に変化する楽想にも、イノセントな感触が漂っていて。名盤だ。セカンドから本格的に導入されたメロトロンもまたいい感じ。哀愁です。

で、その『フレンドリネス』と、よりトラッド/フォーク寄りのムードをたたえた1971年のファースト『スタックリッジ』が再発されました。まあ、これまでにも紙ジャケとかいろいろな仕様でCD化再発されてきた作品ではあるけれど、今回はもちろんどちらも2023年最新リマスター版です。

ファースト『スタックリッジ』のほうは1枚もので。オリジナル・アルバムの収録曲に加えて、解散後に出たベスト盤『ドゥ・ザ・スタンリー』で初お目見えしたトラッドのカヴァー「レット・ゼア・ビー・リッズ」をはじめ、アルバム未収録のシングルB面曲「エヴリマン」とか、1971年にBBCの『トップ・ギア』に出演したときのライヴ音源「こわれたテーブル(The Three Legged Table)」と「妖怪スラーク(Slark)」とか、全4曲が追加されている。「スラーク」は14分、フルでやってます(笑)。

『フレンドリネス』のほうはCD2枚組に拡張されたエディション。CD1がオリジナル・アルバム本編の2023年最新リマスター版で。CD2がボーナス・ディスク。1972年から73年にかけてリリースされたアルバム未収録シングル音源が4曲(前回、ファーストのボーナスに入っていたセカンド・シングル「スラーク」のシングル・ヴァージョンはこちらに。あとはそのB面に収められていた「パープル・スペイスシップス・オーヴァー・ヤットン」、サード・シングルのAB面「ドゥ・ザ・スタンリー」と「セ・ラ・ヴィ」)と、BBCラジオの『ライヴ・イン・コンサート』で放送するためにレコーディングされた1972年6月、ロンドンのパリス・シアターでのライヴ音源が8曲。

この人たちの場合、ジョージ・マーティンが絡んでいたりもするため、ビートルズっぽい部分が強調されて語られがちなのだけれど、ビートルズっぽいってことは要するにとても自由だってこと。スタックリッジは、本当に自由に、のびのびと、従来のロックの枠組みを軽々と超えるすてきなポップ・サウンドをクリエイトしていた。そんな事実を、特にこの初期2作に接すると改めて思い知るわけです。

この後、9月に『山高帽の男』と『エクストラヴァガンザ(幻想狂詩曲) 』、10月に1976年の『ミスター・ミック』が各2枚組拡張エディションとしてリリースされる予定みたい。

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