Disc Review

Special Occasion / Emily King (ATO Records)

スペシャル・オケイジョン/エミリー・キング

この人、デビューは確か2006年だか2007年だかで。でも、ぼくは何をぼんやりしていたのか当時ノーマーク。2012年にホセ・ジェイムスの「ヘヴン・オン・ザ・グラウンド」でデュエットしているのを聞いたとき、初めてその存在を意識して。以降、ちょいちょいリリースをチェックしつつ、2019年、例の傑作アルバム『シーナリー』で本格的にハマったクチです。

公私に及ぶベスト・パートナー、ジェレミー・モストとがっちりタッグを組んで、今どきの時代ならではのシンガー・ソングライターのあり方というか、エヴァーグリーンで、オーガニックで、でもいい按配にソウルっぽく、ポップな名曲をあれこれプレゼントしてくれてきたわけですが。

そんなエミリーさんの新作。届きましたー。いちおうアルバムとしては5作目。ただ、2020年の前作『サイズ』は過去レパートリーのアコースティック・ヴァージョン集だったので、新曲で構成されたフル・レングス・アルバムとしては『シーナリー』以来4年ぶりってことになる。

その間、『サイズ』の他にもブラック・ライヴズ・マターに呼応したシングル「シー・ミー」を出してグラミーにノミネートされたり、シングルをちょこちょこ出したり、いろいろしてはいたので、それほどごぶさた感はないものの、やっぱ新曲中心のアルバムはいいっすね。わくわくします。

なんでも、ジェレミー・モストと私生活では別れちゃったらしいのだけれど、音楽的な絆はそのまま。全11曲すべてエミリー&ジェレミーの共作で。プロデュースももちろんジェレミーさん。でも、音の方向性は『シーナリー』のようなエレクトロニック・アート・ポップ寄りの路線だけでなく、むしろ『サイズ』で挑んだオーガニックでアコースティックな感触をより強めた仕上がりだ。

私生活での別れを反映したか、もうあなたのことでエネルギーを浪費するのではなく、今年は自分のことだけ大切にするわ! 的な決意表明っぽい「ジス・イヤー」で幕開け。そこから本作中ぼくが個人的にいちばん気に入った、ライトなブラジル風味も漂うタイトル・チューンになだれ込んで、ハンドクラップを伴って軽やかにグルーヴする「メダル」へとつながって…。

その後、メロウな「ファルス・スタート」とか、アコギとコーラスをバックに訥々と綴られる「ホーム・ナウ」とか、ルーカス・ネルソンのデュエット・ヴォーカルとペダル・スティールをフィーチャーした「バッド・メモリー」とか、しみる曲多し。

まだフィジカルが手元にないのでミュージシャン・クレジットとかが全然わからないのだけれど。過不足ない、的確なアレンジが印象的。静謐なコーラスにぽわーっとしたオルガンが効果的に絡む「フー・ウォンツ・マイ・ラヴ」とかも、過去作の奥底に潜んでいたエミリーさんのルーツィな持ち側面が一気に噴き出している感触もあり。まだまだこの人、面白い要素をあれこれ内包しているんだろうな、と期待させてくれたりも。

次、あまり待たせず、またお願いしますね。

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