Disc Review

Could Have Done Anything / Charlotte Cornfield (Double Double Whammy)

クッド・ハヴ・ダン・エニシング/シャーロット・コーンフィールド

2021年、前作『ハイズ・イン・ザ・マイナシズ』が出たときこの人のことを“カナダの知られざる秘密”という見出しで紹介したのはローリング・ストーン誌だっけ? ペイスト誌だっけ? カナダ/トロントを本拠に活動するシンガー・ソングライター、シャーロット・コーンフィールド。5作目にあたる新作、出ました! 

前作はレナード・コーエンなどとも仕事してきた元アーケイド・ファイアのハワード・ビラーマンにプロデュース/エンジニアリングを任せていたけれど、今回はテイラー・スウィフトとかザ・ナショナルとかジョシュ・リッターとかボブ・ウィアーとか、多彩なアーティストをバックアップしたりプロデュースしたりしてきたボニー・ライト・ホースマンのジョシュ・カウフマンとタッグ。

ニューヨーク州ハーリーのドリームランド・スタジオで6日間、シャーロットさんとジョシュさん二人でギター、ペダル・スティール、ベース、ピアノ、ハモンド、シンセサイザー、ドラム、パーカッションなどすべての楽器をこなしながらベーシックをレコーディングして。ブルックリンのザ・ガレージでオーヴァーダブ。それをD.ジェイムス・グッドウィンがウッドストックにある彼のプレイヴェート・スタジオでミックス。

と、そんなふうに紡がれた、いっさい余計な装飾のない、きわめてシンプルな音像にアルバム全体が貫かれているのだけれど。おかげで描かれているシャーロットさんの複雑な内省の揺らめきがより際立って浮き彫りにされている感じ。繊細さと大胆さ、多幸感と失望、強く焦がれる感触と絶望的な諦観などさまざまなパラドックスが魅力的に交錯。どこかビッグ・シーフのエイドリアン・レンカーにも通じる、不思議な吸引力をたたえた不安定さのようなものも感じられて。なんだか惹き込まれる。

歌詞のことはぼく程度の英語力ではまだ深いところまではよく把握できてませんが。オープニングを飾る「ジェントル・ライク・ザ・ドラッグ」って曲で“家に帰ったら私を驚かせてね/私、初めて孤独を感じなくなったわ/悲しいことも、深いことも、何も感じない/あなたがいないときに使うドラッグみたいに優しい気持ちを感じているだけ…”とか歌っていて。いきなり、なんだか複雑だなぁ、と。何かを手にいれるってことは何かを失うってことなの? 的な。

その感触はアルバムのラスト曲、「ウォーキング・ウィズ・レイチェル」までずっと続いていく。このラスト曲でシャーロットさんは、レイチェルって女友達とトイレを探して公園をお散歩したり、ナイジェルって男友達と朝のテラスでコーヒーを飲んだりしながら、気ままにいろんなおしゃべりを交わしたあと、曲の最後、こう淡々とコーラスするのだ。“私、昔より穏やかになったわ/昔よりお利口になった/昔より強くなった/昔より歳をとった/昔より怒りっぽくなくなった/昔より疑り深くなくなった/昔より地に足がついた/昔より幸せになった/昔より幸せに/昔より幸せに…”と。

そうか、よかったねとも素直には思えない、なんとも言えない切なさが歌声に漂う。そんな微妙な心情が聞き終えた後も胸にじんわり残って、で、またアタマから聞き直しちゃう、みたいな。そんな1枚だなー。

レナード・コーエン、ゴードン・ライトフット、ブルース・コバーン、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、k.d.ラングなど、カナダには優れたストーリーテラーの先達がたくさんいるけれど。今30代半ばのシャーロット・コーンフィールド。その流れに確実に身を置く個性だと思います。

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