Disc Review

Girl Talk / Sasha Dobson (self-released)

ガール・トーク/サーシャ・ドブソン

サーシャ・ドブソン。情報通のシンガー・ソングライター・マニアの方々はデビュー直後からチェックなさっていた存在なのかもしれないけれど。ぼくがこの人のことを知ったのはデビューから数年後の2008年。ノラ・ジョーンズとプス・ン・ブーツを一緒に結成した仲のいい友だちとして認識したのが最初だった。そのあと、いろいろソロで出していた音源に後追いで接しながら、へー、こういう人もいたのか…と軽く驚きつつ、遅ればせながら盛り上がったクチ。たぶん大方の日本の洋楽ファンと同じパターンだと思う。

ほんと、まだまだ知らないところに素敵な個性が潜んでいるんだなと改めて思い知ったものだ。世の中、油断なりません。

音楽的にはノラ同様、ロックとかフォークとかカントリーとかジャズとか、こまごましたジャンルの壁を独自の見識の下、さらりと飛び越えた感じというか。自らもいい曲を書く人だけれど、カヴァーの選曲センスも素晴らしく。オリジナルもカヴァーも分け隔てなく取り上げつつ、さりげなく、でもきっちり独自の柔軟な持ち味を主張していくタイプだ。

と、そんなサーシャの新作、出ました。

この人、近年はノラと同じく、自分でギター弾きながら、アメリカーナ的だったり、ルーツ・ロック的だったり、そっち寄りのテイストを発揮することが多かったのだけれど。デビュー当初は、もろジャズというか。いわゆるグレイト・アメリカン・ソングブック系のレパートリーに加えて、ハービー・ニコルスの「シャッフル・モンゴメリー」とかケニー・ドーハムの「ストレイト・アヘッド」とか、そういうハード・バップものまで歌っていた。後追いで聞いてみてびっくりした。

で、すごいなと思って調べてみたら、血筋に納得。ボビー・ハッチャーソンと長く活動をともにしてきたジャズ・ピアニストのスミス・ドブソンと、ベイエリアを中心に独自のラテン・ジャズ・バンドを率いて活動するヴォーカリストのゲイル・ドブソン夫妻の娘さんだった。なるほどねー。

で、今回の新作は改めてそっち方面へと思いきり舵を切った仕上がり。自作曲は2曲だけで、あとは1930〜1960年代もののおいしいカヴァーがずらり。

ガス・アーンハイム楽団のテーマ曲としても知られる「スウィート・アンド・ラヴリー」、ボビー・トゥループ&ニール・ヘフティ作のアルバム・タイトル・チューン「ガール・トーク」、「キサス・キサス・キサス」の英語詞版「パハップス・パハップス・パハップス」、ナンシー・ウィルソンの名唱でおなじみ「ザ・グレイト・シティ」、ご存じ「朝日のようにさわやかに(Softly as in a Morning Sunrise)」、リー・ワイリーやビリー・ホリデイ、チェット・ベイカーらの名演で知られる「タイム・オン・マイ・ハンズ」、ジョセフ・マイロウの代表的作品「オータム・ノクターン」、そしてリー・ヘイズルウッド作、ナンシー・シナトラの大ヒット「にくい貴方(These Boots Are Made for Walkin')」のジャズ・アレンジ・ヴァージョン。

有名ものマニアックもの取り混ぜたこうした曲たちを、フィーチャード・ゲストとしてもクレジットされているピーター・バーンスタイン(ギター)を中心に、以前からの付き合いになるニール・マイナー(ベース)と、ドレッド・スコットあるいはケニー・ウォルスン(ドラム)という顔ぶれのピアノレス・トリオをバックにサーシャが軽やかに歌い綴る。曲によってサックスやトランペット、パーカッションなども。父親のスミス・ドブソンもヴァイブラフォンで参加している。さらに、親友ノラ・ジョーンズはアルバム・タイトル・チューンでデュエット・コーラスを披露。

ジャズ・ヴォーカル・アルバムとしてはちょっと詰めが甘いところもなくはないのだけれど、その辺のゆるめの手触りも含めて、なんだか好感が持てる1枚です。いや、“1枚”とか書いたけど、基本的にはストリーミング&ダウンロード販売のみのデジタル・リリース。しかも、今のところSpotifyではアルバムの配信は始まっていないみたい。フィジカルとしてはご本人のWEBストアで売ってるヴァイナルのみかな。これ、ほしいかも。買っちゃおかなー。

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