Disc Review

The Complete Atlantic Singles 1968-1971 / Dusty Springfield (Real Gone Music)

ザ・コンプリート・アトランティック・シングルズ 1968〜1971/ダスティ・スプリングフィールド

ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』、ゾンビーズの『オデッセイ&オラクル』、ボブ・ディランの『セルフ・ポートレイト』など。ロックンロール・ヒストリーを振り返ってみると、発表当初は賛否が渦巻き正当に評価されずじまいだったものの、やがて歳月の経過とともに少しずつ真価がシーンに浸透、結果、そのアーティストの代表作のひとつに数えられるようになった"再評価系"の名盤が少なからずある。

そんなアルバムのひとつに『ダスティ・イン・メンフィス』というのがあって。

ご存じ、のちにベイ・シティ・ローラーズがカヴァーすることになるガール・ポップ「二人だけのデート(I Only Want to Be With You)」とか、カンツォーネの「この胸のときめきを(You Don't Have to Say You Love Me)」とか、バート・バカラックによる007映画主題歌「恋の面影(The Look of Love)」とかの大ヒットで知られる英国の女性シンガー、ダスティ・スプリングフィールドが、文字通り米国テネシー州メンフィスへと出向いて制作し1969年にリリースしたアルバム。

この時期、ダスティはヒットチャート的にちょっとしたスランプ期に入っており、そんな状況を打破するため、当時のチャートを賑わしていた最新のポップ音楽だったソウル/R&Bの生産地、メンフィスで心機一転、新境地を開拓しようと取り組んだプロジェクトだった。

英国ではフィリップス・レコード所属だったダスティながら、米国ではアトランティック・レコードと新規に契約。ジェリー・ウェクスラー、トム・ダウド、アリフ・マーディンらの指揮の下、チップス・モーマンのアメリカン・サウンド・スタジオで、レジー・ヤング(ギター)、トミー・コグビル(ベース)、ジーン・クリスマン(ドラムズ)ら“メンフィス・ボーイズ”たちのバックアップを受けつつ、キャロル・キング&ジェリー・ゴフィン、バリー・マン&シンシア・ワイル、ランディ・ニューマン、バート・バカラック&ハル・デヴィッドら豪華ソングライター陣が提供した楽曲をレコーディング。まあ、実際はバックトラックのみメンフィス録音で、歌入れはニューヨークで行なわれたようだけれど…。

こうして、スモーキーでハスキーなダスティの歌声と、米国を代表する名ソングライターたちの卓抜した楽曲と、メンフィス・ボーイズたちの南部感覚あふれる名演奏とか魅力的に絡まり合ったアルバムが完成した…ものの。ところが、このアルバム、まだまだ“早すぎる”試みだったか、今いち売れずじまい。アレサ・フランクリンのために書かれながらお蔵入りしていた曲を見事に蘇らせた「プリーチャー・マン(Son of a Preacher Man)」は先行シングルとしてとりあえずヒットしたものの、アルバムのほうは全米チャートで99位。全英チャートにはランクインすらしなかった。

でも、時代とともに評価も変わり。『ダスティ・イン・メンフィス』といえば、今では誰もが認める名盤。ほんと、『ペット・サウンズ』とかと一緒だ。21世紀になってから英BBC2でこのアルバムを巡るドキュメンタリーまで制作されたほど。その番組でジェリー・ウェクスラーは“このアルバムがようやく再評価されて。本当に生きていてよかったと思う”とコメントしていたっけ。

と、そんな時期以降、1968年から1971年までの間にダスティが米アトランティック・レコードに残したシングル音源を米リアル・ゴーン・ミュージックがコンパイルしたのが今日紹介する『ザ・コンプリート・アトランティック・シングルズ1968〜1971』だ。

リアル・ゴーンはこれまでにもこの時期のダスティの音源を熱心に再発してくれていて。メンフィス録音のあと、続いてフィラデルフィアへと向かい当地のケニー・ギャンブル&レオン・ハフのプロデュースの下で行なわれたセッションの模様を集大成した『ザ・コンプリート・フィラデルフィア・セッションズ』とか、1971年にジェフ・バリーのプロデュースで行なわれたセッションを未発表ものまで含めて発掘した『フェイスフル』とか、1970〜1971年の英国セッションの模様をまるごと記録した『カム・フォー・ア・ドリーム』とか、手応えたっぷりのコンピレーションが既発。そこにまたひとつ、ごきげんなコンピが加わったわけだ。

内容は文字通り、ダスティがアトランティック・レコードに残した全シングルAB面曲をモノラル・ミックスで集大成したもの。モノってところが最高にうれしい。モノ音源としては全24曲中16曲が初CD化だ。2002年、英マーキュリーが『ダスティ・イン・メンフィス』 をCD化再発した際、ボーナス・トラックとして8曲が出ていただけだと思う。貴重。チップス・モーマンのところで録音されたメンフィスものから、ギャンブル&ハフもの、ジェフ・バリーものまで。当時は今ひとつ正当に評価されずじまいで終わってしまったダスティ流ブルー・アイド・ソウルの魅力を、今の時代ならではの耳できっちり堪能できる。

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