Disc Review

Everything Beautiful / Kelley Mickwee (AMCO Music Group)

エヴリシング・ビューティフル/ケリー・ミクウィー

ダスティ・スプリングフィールドの『ダスティ・イン・メンフィス』に触発された1枚なんだって!

じゃ、悪かろうはずがない。米テキサス州オースティンを拠点に活動していたアメリカーナ・バンド、ザ・トリシャスのメンバーだったケリー・ミクウィーが、2014年のファースト・ソロ・アルバム『ユー・ユースト・トゥ・リヴ・ヒア』から10年の歳月を経てリリースしたソロ第2弾『エヴリシング・ビューティフル』。

もちろんこの10年の間にも、彼女はオースティンで自身のラジオ番組『リヴァー・ガール・レディオ』のDJを担当したり、ケヴィン・ラッセルのバンド、シャイニーリブズの一員としてライヴしたり、レイ・ウィリー・ハバードやチャーリー・クロケット、レックレス・ケリーらのアルバムに客演したり、コリン・ブルックスらと連名でアルバムを出したり、あれこれやってはいた。

パンデミックを脱けたころには、ジョナサン・タイラーのプロデュースの下でシングルを何枚か制作。これらはわりとナッシュヴィル風味のストレートなカントリーものだったけれど。今回、デヴィッド・ボイルにプロデュースを委ねた本作ではぐっとメンフィスっぽいカントリー・ソウル色を強めてみせていて。けっこうしびれる。この辺、前述した通り、ケリーさんが昔から大好きだった『ダスティ・イン・メンフィス』をイメージした結果なのだとか。

本ブログに訪れてくださる方々には今さら説明不要だと思いますが。この『ダスティ・イン・メンフィス』ってアルバムについては、以前、2021年にダスティ・スプリングフィールドの『ザ・コンプリート・アトランティック・シングルズ 1968〜1971』ってコンピが出たときあれこれ書きました。

改めてざっくり引用しておくと——

…『ダスティ・イン・メンフィス』というのがあって。

ご存じ、のちにベイ・シティ・ローラーズがカヴァーすることになるガール・ポップ「二人だけのデート(I Only Want to Be With You)」とか、カンツォーネの「この胸のときめきを(You Don't Have to Say You Love Me)」とか、バート・バカラックによる007映画主題歌「恋の面影(The Look of Love)」とかの大ヒットで知られる英国の女性シンガー、ダスティ・スプリングフィールドが、文字通り米国テネシー州メンフィスへと出向いて制作し1969年にリリースしたアルバム。

この時期、ダスティはヒットチャート的にちょっとしたスランプ期に入っており、そんな状況を打破するため、当時のチャートを賑わしていた最新のポップ音楽だったソウル/R&Bの生産地、メンフィスで心機一転、新境地を開拓しようと取り組んだプロジェクトだった。

英国ではフィリップス・レコード所属だったダスティながら、米国ではアトランティック・レコードと新規に契約。ジェリー・ウェクスラー、トム・ダウド、アリフ・マーディンらの指揮の下、チップス・モーマンのアメリカン・サウンド・スタジオで、レジー・ヤング(ギター)、トミー・コグビル(ベース)、ジーン・クリスマン(ドラムズ)ら“メンフィス・ボーイズ”たちのバックアップを受けつつ、キャロル・キング&ジェリー・ゴフィン、バリー・マン&シンシア・ワイル、ランディ・ニューマン、バート・バカラック&ハル・デヴィッドら豪華ソングライター陣が提供した楽曲をレコーディング。まあ、実際はバックトラックのみメンフィス録音で、歌入れはニューヨークで行なわれたようだけれど…。

こうして、スモーキーでハスキーなダスティの歌声と、米国を代表する名ソングライターたちの卓抜した楽曲と、メンフィス・ボーイズたちの南部感覚あふれる名演奏とか魅力的に絡まり合ったアルバムが完成した…

と、そんな意欲的な名作アルバムに触発され、心機一転、自らのソロ・キャリアを改めて加速させようというケリー・ミクウィーの試み。現在はオースティンを本拠にしているとはいえ、もともと生まれはメンフィスというケリーさんのルーツを思いきりぶちまけた1枚です。バンドの演奏もけっこうごきげんで。なかなかアガります。

9月末にデジタル・リリースされていたのを見逃していて、ぼくはつい先日、ようやくバンドキャンプでハイレゾ音源をゲットしたのだけれど、バンドキャンプのページを見ると曲目表がサイドAとサイドBに別れて記載されていたりして。アナログ盤がありそうだなと思って探してみたら、ケリーさん自身のウェブ・ストアで売ってました。アナログLPにぴったりの音楽だし。どうしよう、25ドルか、ポチッといっちゃおうかな…。

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