Disc Review

Carnegie Hall 1970 / Neil Young (Shakey Pictures/Reprise)

カーネギー・ホール1970/ニール・ヤング

ぼくのブログの最多登場アーティストって、もしかしたらニール・ヤングかも。新作が出るペースは、まあ、他の大物アーティストたちとほぼ同程度だけど。発掘ものがむちゃくちゃ多くて。しかも、それらがことごとく素晴らしいもんで。出るたびに取り上げていると、かなりの回数になってしまう、と。そんな感じ。

この人の発掘ものというと。もう10年以上続いている、ご存じ“ニール・ヤング・アーカイヴズ”プロジェクトってやつだ。いつも同じような説明をしている気もするけれど(笑)、このプロジェクトがいくつかに枝分かれしていて。

まずは各10枚組というボリュームで、公式音源、未発表もの取り混ぜつつ実に細かいところまで掘りまくる“ボックス・セット”シリーズ。これが1963〜1972年を扱ったVol.1と、1972〜1976年を扱ったVol.2まで出ていて。今後も1980年代もの、1990年代もの、2000年代ものと続く予定。

さらに、未音盤化ライヴ音源を次々リリースする“パフォーマンス”シリーズってのがあって。これが、まあ、ボックスに収録されただけでバラ売りがないものとかも含めるとすでに15作。未CD化だったオリジナル・アルバム群をHDCDやDVDオーディオで復刻する“デジタル・マスターピース”シリーズが4作。もともとリリースされる予定だったものの、もろもろの事情でお蔵入りした未発表アルバム群を世に出す“スペシャル・リリース”シリーズが3作…。

加えて、公式リリースものをリマスターして再発する“オフィシャル・リリース”シリーズもあるし。もう、ほんと、次々たたみかけるように貴重な音源のリリースが続いているわけだ。

この1年ちょいくらいだけを振り返ってみても、去年の6月にスペシャル・リリース・シリーズとして『ホームグロウン』が出て。11月にパフォーマンス・シリーズとして『リターン・トゥ・グリーンデイル』が出て。ボックス・セット・シリーズとして10枚組の『アーカイヴズ Vol.2』が出て。12月に『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』の50周年ボックスが出て。今年の2月にパフォーマンス・シリーズとして『ウェイ・ダウン・イン・ザ・ラスト・バケット』が出て。3月に引き続きパフォーマンス・シリーズの『ヤング・シェイクスピア』が出て。

正直、各盤をそれぞれ十分に味わい尽くす時間もとれないくらいの勢い。なのに、またさらなる新シリーズが始まってしまった。題して“オフィシャル・ブートレッグ”シリーズ。なんか、ボブ・ディランみたいですが(笑)。

ディラン同様、ニール・ヤングのブートレッグというのもたくさん出ているけれど。ファンが勝手に作ったものとはいえ、どうせ世に出回ってしまっているわけで。だったら、その中から代表的なものをピックアップして、その音質をちゃんとオフィシャルなレコーディング音源でアップグレードしてリリースしよう、と。アルバム・ジャケットもブートのまま出そう、と。もともとはそういうコンセプトのもとで発足したものだったらしい。ちょうど1年前、去年の10月にこういう新シリーズがスタートするぞと報じられたときに予告されていた通り、まずその第一弾として出たのが本作『カーネギー・ホール1970』だ。タイトル通り、ニール・ヤングがニューヨークの名門ホールに出演したときの模様を収めた2枚組。NY in NY…ってことね。

が、ここでいきなりコンセプトが変更。この気まぐれっぷりもまたニールさんっぽい。これまで広く世に出回っていたブートレッグ版の1970年カーネギー・ホール公演音源は1970年12月5日深夜に録音されたミッドナイト・ショー(というか、4日が5日になった真夜中に行なわれたセカンド・ショー)でのパフォーマンスだったのだけれど、ニール・ヤング本人はその前に録音されたファースト・ショーのほうの出来が気に入っているらしく。出すならこっち、と。そういうことになったみたいで。

当初のコンセプトとは微妙に違ってしまったものの、ニール・ヤング本人お気に入りの未発表パフォーマンスが晴れて公式に世に出たわけだ。じゃ、新シリーズじゃなくてパフォーマンス・シリーズでよかったじゃねーかとも思うけれど。

実はパフォーマンス・シリーズとしては、1970年にクレイジー・ホースと一緒にやったフィルモア・イースト公演がVol.2として2006年に出ていて。そのあと、翌年1月のトロント公演の模様を収めた『ライヴ・アット・マッセイ・ホール1971』がVol.3として2007年に出て。でも、その後、1970年11月末から12月アタマにかけてワシントンDCで録音された『ライヴ・アット・セラー・ドア』ってのが発掘されたもんで、これをVol.2.5として2013年に出して…。そうなると、確かに今回の音源、パフォーマンス・シリーズとして出すとなったらVol.2.75とか(笑)、そうとう細かく刻まなきゃならなくなっちゃうからなぁ。順不同で出るシリーズものにクロノロジカルな通し番号を振ろうとした当初の計画が大間違いだった、と。ちゃんとしているのか、ちゃんとしていないのか、よくわからないところが魅力のニール・ヤングならでは、か。

このソロ・ツアーは各地でちゃんとマルチ・トラック・レコーダーを回していたようで。今回、そこから新たにリミックスしてのリリースとあいなった。素晴らしい! コンサート全編、ニール・ヤングひとりのアコースティック・ギター、あるいはピアノの弾き語りステージ。1970年12月という時期を振り返ってみると、その年の3月、まずクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング(CSNY)としてアルバム『デジャ・ヴ』を出していて、6月にCSNY名義のシングル「オハイオ」があって、ソロ・アルバムとしては9月に『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』が出ていて、それを受けての年末。もう絶好調期。注目度もピークをきわめていたころだ。なので、CD(Amazon / Tower)、LP (Amazon / Tower)ともに2枚組に収められた全23曲、どの曲も観客の反応が早いし熱い。ちなみにぼくはWEBのニール・ヤング・アーカイヴズ・サイトの会員さんなので、そこで注文したアナログの到着を待ちつつ、とりあえずハイレゾ・ストリーミングで楽しんでおります。

この公演の前後、前述、ワシントンDCでの『ライヴ・アット・セラー・ドア』とか、『ライヴ・アット・マッセイ・ホール1971』とか、あるいは1971年1月下旬にコネチカット州ストラトフォードのシェイクスピア・シスターで収録された『ヤング・シェイクスピア』とか、そのあたりの同時期ソロ・ライヴものがこれまですでにパフォーマンス・シリーズとして世に出ているけれど、それら同様、ものすごく充実した歌唱と演奏が満喫できる。

曲ごとにギターのチューニングを変えたり、“今日はたくさんの曲を歌うから、歌詞忘れたり、コード間違ったりしても大目に見てね”とかけっこう人なつっこいMCとか交えたりしながら、まだ瑞々しさがほとばしる若き日の歌声で自作曲をていねいに歌い綴っていく。最高。

ソロ作品はもちろん、バッファロー・スプリングフィールド時代の曲も、CSNYとして発表した曲も、ごく自然に、いい感じに取り混ぜつつのステージ。アタマのほうだけ流れをたどっても、「ダウン・バイ・ザ・リヴァー」→「シナモン・ガール」→バッファロー時代の「アイ・アム・ア・チャイルド」→同じくバッファロー時代の「エクスペクティング・トゥ・フライ」→「ザ・ローナー」ときて、当時まだ未音盤化だった「ワンダリン」を挟んで、CSNY「ヘルプレス」→「サザン・マン」→バッファロー「ナウアデイズ・クランシー・キャント・イーヴン・シング」…とか。この感じで全編ずっと続く。やばいです。

『ライヴ・アット・セラー・ドア』ではピアノ弾き語りで綴られていた「シナモン・ガール」をこちらではギター弾き語りで披露していたり。ステージごとに本当に自然体で弾き語りパフォーマンスを展開していたのだろう。何度も本ブログで嘆いたことだけれど。まじ、この時期のニール・ヤングのライヴをリアルタイムで生体験できていたら、人生全然違っていただろうなぁ…と思う。

この“オフィシャル・ブートレッグ”シリーズでは今後、1971年1月のUCLA公演、同年2月のロサンゼルス公演、1973年11月のロンドン公演、1974年5月のニューヨーク公演、1977年8月のサンタ・クルス公演などが出る予定だとか。あー、お金、ためとかないと…。

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