アレサ〜ザ・グレイテスト・パフォーマンス(デラックス)/アレサ・フランクリン
本ブログではこことかこことかこことか、何かと取り上げてしまう偉大なクイーン、アレサ・フランクリンですが。
この人、本当にたくさんのオリジナル・アルバムを生前に残していて。デビュー作から最後のオリジナル・アルバムまで、半世紀以上にわたりレーベルを超えてリリースされたアルバム45作を紹介する記事というのを、ぼくが編集長をつとめているオンライン音楽誌「エリス」の31号で書いたことがある。
まじ、どれもが素晴らしくて。1枚1枚聞き直しつつ原稿を書きながら、できることならすべての人にアレサの全アルバムを聞いてもらいたいものだ、と願ったりもしたわけですが。でも、そうは言っても、中にはCD化すらされたことがない廃盤アルバムがあったりするもんで、無理っちゃ無理。アレサほどの人なのにね。これだけ偉大なシンガーの遺産なのだから。ちゃんと誰もがすべてにアプローチできるような状況を整えておいてほしいものだと思う。
以前、この「エリス」の配信開始告知を本ブログでさせていただいたときにも触れたことだけれど。アレサの全アルバム紹介記事の前に、ピーター・バラカンさんと鷲巣功さんとぼくと、3人でアレサの魅力を語り合う鼎談があって。その中でピーターさんが“アレサ(あ、じゃないね。ピーターさんだから、アリーサ…か)はライノ・レコードが1992年に編纂した4枚組のボックス『Queen of Soul: The Atlantic Recordings』があれば大丈夫”的な発言をなさっていたのだけれど。
いやいや。全然大丈夫じゃないから(笑)。ピーターさんにしても、その4枚組ボックスだけで“十分”って意味で言ったわけではないはず。そう。あれが“最低限”ですから。
で、その米ライノ・レコード。新たなCD4枚組アンソロジーを編んだ。アレサがソロ名義でリリースした記念すべきファースト・フル・アルバム『アレサ〜ウィズ・ザ・レイ・ブライアント・コンボ』からちょうど60年目に当たり、かつジェニファー・ハドソン主演によるバイオ・ピックが話題になっているる今年ならではの好企画。それが7月末に出た『アレサ〜ザ・グレイテスト・パフォーマンス(デラックス)』だ。さて、これが新たな“最低限”となるのか?
以前の4枚組が、1967〜1976年、彼女がアトランティック・レコードに在籍していた時期の音源で構成されていたのに対し、今回の4枚組は本格アルバム・デビューよりも前、1956年にJVBレコードからリリースされたデビュー・ライヴ・シングルのAB面「ネヴァー・グロウ・オールド」と「ユー・グロウ・クローサー」でスタート。以降、コロムビア・レコード、アトランティック・レコード、アリスタ・レコードと渡り歩きつつ残してくれた名演のハイライトを詰め込んだ、いわゆるキャリア・スパンなアンソロジー・ボックスセットになっている。
さらに今回はお宝発掘音源もけっこうたくさん入っていて。貴重なデモ音源とか、UKシングル・ヴァージョンとか、各種別ヴァージョン/別テイク/別ミックスとか、作業用テープの音源とか、未発表曲とか、未発表カヴァーとか、すごい。全81曲。うち19が未発表音源。トム・ジョーンズ、スモーキー・ロビンソン、ディオンヌ・ワーウィック、ユーリズミックス、ジョージ・マイケル、メイヴィス・ステイプルズ、ルー・ロウルズ、ロナルド・アイズレーらとの共演音源も。おなじみ、ブルース・ブラザーズの映画サウンドトラックからの音源も入っている。
そしてラストに収められているのは、2015年、アレサ最後のライヴ・パフォーマンスとも言われる「(ユー・メイク・ミー・フィール・ライク)ア・ナチュラル・ウーマン」で締め。これはキャロル・キングがケネディ・センター名誉賞を受賞したときの記念イベントでのもの。
キャロル・キングはもちろん、同時に受賞した小澤征爾とかジョージ・ルーカスとか、当時の大統領バラク・オバマとかが客席に居並ぶ中、キャロルさんの生涯を描いたミュージカル『ビューティフル』の1シーンを受ける形でアレサがステージに登場。おもむろにピアノを弾きながら、この、1967年にキャロル・キングから提供された名曲を歌い出したのだけれど。本当に感動的なパフォーマンスで。キャロル・キングは少女のように大興奮。オバマ夫妻も涙ぐみながら一緒に口ずさんだりしていて。
他界する3年前。けっして体調的に万全ではない中、しかしその存在感は圧倒的だった。前2014年、ぼくはニューヨークのラジオ・シティ・ミュージック・ホールで超幸運にも彼女のコンサートを体験することができたのだけれど、そのときの感動が一気によみがえってきた。とてつもない歌姫だったなと改めて思い知る。
そんなアレサの生涯をざっくり駆け足で振り返る本4枚組ボックスセット。入門編としてだけでなく、マニアにとっても見逃せないレア音源入りの逸品だ。さすがライノ。安定の編纂です。もちろん国内盤(Amazon / Tower)もあり。ストリーミングもされているけれど、JVB音源とかロナルド・アイズレーとの共演音源とか、カットされているものも。JVBものはこれとかで補完できます。ロナルド・アイズレーのもSpotifyにはありました。とはいえ、とりあえずご注意を。