Disc Review

Love Too Late… the real album / Sorrows (Big Stir Records)

ラヴ・トゥー・レイト…ザ・リアル・アルバム/ソロウズ

ソロウズ。1960年代から活動する同名の英国バンド(「嘆きのインディアン」のカヴァーでおなじみ、ドン・ファードンが在籍していた)もいるけれど、そっちじゃなく。米国ニューヨーク本拠の4人組だ。

ボビー・ディー・ワックスマンとパディ・ロレンゾを核とするパワー・ポップ・ユニット、ポッピーズの元ギタリストだったアーサー・アレクサンダー(ギター)を中心に、同じくポッピーズに在籍していたジェット・ハリス(ドラム)、そしてジョーイ・コラ(ギター)とリック・ストリート(ベース)という顔ぶれ。1980年にパヴィリオン・レコードからファースト・アルバム『ティーンエイジ・ハートブレイク』をリリースしてデビューを飾った。

これがものすごくかっこいいパワー・ポップ・アルバムで。エリー・グリニッチとかエレン・フォーリーとかも参加していたっけ。人脈も魅力的。けっこう好きだった。で、翌年にはセカンド・アルバム『ラヴ・トゥー・レイト』もリリース。これまたいい曲ぞろいで。こっちもそれなりに聞いたものですが。ただ、プロデュースを手がけたシェル・タルミーがちょっとやり過ぎちゃったというか。

曲作りも手がける3人のメンバー、アレクサンダー、コラ、ストリートによる3パート・ヴォーカルをフィーチャーしたシンプルで、ワイルドで、でもどこかキュートで憎めない痛快ギター・ポップ/パワー・ポップ…というのが、ソロウズ本来の持ち味だったわけだけれど。プロデューサーとして“やった感”を出すためか、自意識過剰気味のマーキングだったのか、タルミーはそこにセッション・プレイヤーによるキーボード・ダビングとか、バック・シンガーによるコーラスとか、そういう余計な要素をあれこれ付加。ハヤリのニュー・ウェイヴ調アルバムに仕立てあげてしまった。

噂によれば、モンキーズよろしく、ヴォーカル以外の演奏はほとんどソロウズではなくセッション・ミュージシャンによるものだったとも言われている。パヴィリオン・レコードがそれを要求したとも。詳しい事情は知らないけれど、そのせいもあって、ソロウズとレコード会社はずいぶんとギクシャクしたようで。音楽的にもセールス的にも失敗。バンドも解散へ…。

あれから40年の歳月を経て、3人のオリジナル・メンバー、アレクサンダー、コラ、ストリートが再結集。後輩世代の新ドラマー、ルイス・ヘレーラを迎えて、いやー、実はこのセカンド・アルバム、自分たちとしてはこうしたかったんだよねー…と。そんな長年の鬱憤を一気に吹っ飛ばす“本音”の再レコーディングを敢行したのだった。そうして生まれたのが本作『ラヴ・トゥー・レイト…ザ・リアル・アルバム』だ。

いろいろ権利関係の問題が片付かず、なかなか思いを遂げることができないまま長い歳月が流れてしまっていたらしいのだけれど。そのぶん、たまりにたまったピュアな思いがドバッと炸裂しているようで。むちゃくちゃかっこいい。まあ、ベーシックなアレンジはそのままなので、微妙な違いっちゃ微妙な違いではあるものの。このちょっとの違いがでかい。ライナーノーツにアレクサンダーが記したフレーズを引用すると、本作は“real Sorrows, playing real Sorrows music, as only Sorrows can”、つまり本物のソロウズが、本物のソロウズの音楽を、ソロウズにしかできないやり方でプレイしたものだ、と。

ざっくり言ってしまえば、ソロウズの音楽というのはビートルズ、バッドフィンガー、ラズベリーズあたりから、チープ・トリック、シューズ、カーズ、プリムソウルズ、ロマンティックスあたりへと流れる路線というか、そういうある種不変のヴィンテージ・パワー・ポップ愛を徹底的に貫いているわけで。1980年代ならばともあれ、この21世紀になってしまえば、もう特に新しいだの古いだの、そんなささいなこと問題にする必要すらない音楽。エヴァーグリーンなロックンロール。そういう意味でもこの『ラヴ・トゥー・レイト…ザ・リアル・アルバム』、全然“トゥー・レイト”じゃないというか。むしろ、寝かせたぶん、ジャスト・イン・タイムになったというか。

キンクスの「ウェイティング・フォー・ユー(Tired of Waiting for You)」のタイトかつソリッドなカヴァー以外、すべてメンバーのオリジナル曲。オリジナルLPとは一部曲順を入れ替えたりしながら、さらに1曲足す形でアップデートさせた1枚だ。昨日今日じゃない、長いキャリアに裏打ちされたまっすぐなパワー・ポップ・アルバムです。フィジカルは今のところビッグ・スター・レコードのアーティスト・サイト、あるいはバンドキャンプでしか売ってないみたいで。ぼくも今のところデジタル・ダウンロードで購入した音源で楽しんでいるのだけれど。限定レッド・ヴァイナルとかほしいかも。買っちゃおっかなー。

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