Disc Review

Hold On / Chanda Rule + Sweet Emma Band (PAO Records)

ホールド・オン/シャンダ・ルール&スウィート・エマ・バンド

シカゴ生まれ。ワシントンDCで学んで、地元はもちろん、ニューヨーク、さらにはウィーンやロシアなど内外でグローバルに活動するシャンダ・ルール。分野としてはジャズ・ヴォーカルということになるのかな。

けっこう本人名義のアルバムも出しているようだけれど、不勉強ゆえ、ぼくはそんなにたくさん聞いたことがなくて。数年前にベテラン・ピアニストのカーク・ライトシーらと共演した『サファイア・ドリームズ』くらい。でも、ジャズにゴスペルとアフリカ音楽のムードを柔軟に取り込むアプローチが印象的だったことを覚えている。オリジナル曲のほか、ハロルド・アーレン、ホーギー・カーマイケル、デューク・エリントン、セロニアス・モンク、モンゴ・サンタマリア、マット・デニスなど、まあ、有名曲中心だったとはいえ、興味深い顔ぶれのソングライターたちの曲を取り揃えていて。選曲的にもそれなりに楽しめた。

そのアルバムでオリジナル曲を共作していたのはドラマーのガーノット・バーンロイダー。彼が率いるウリピアンズ名義の『フィーリング・グッド〜ア・トリビュート・トゥ・ニーナ・シモン』にサックスのドニー・マッカスリンとともにフィーチャード・ゲストとして参加していたことも後から知った。そういえば、マーティン・ライターが自身のオルガン・トリオでリリースした『ベター・プレイス』ってアルバムにも1曲参加していたな、と思い出して。久々にストリーミングで聞いてみようと思ったら、Apple MusicでもSpotifyでもその曲だけ後半デジタル・エラー起こしていて音がブチブチ…。なんだよ、まったく。

その他、ゴスペルやコーラスのワークアウトに指導者として積極的に関わったり、ヨーロッパのダンス・シアターとコラボしたりもしているそうで。実に多才な人。そんな才女の新作です。シャンダ・ルール&スウィート・エマ・バンド名義の『ホールド・オン』。ジャズ、ゴスペル、ソウル、フォーク、ブルースなどがほどよく知的に、ほどよく肉感的に、ほどよくクールに、ほどよくホットに交錯する1枚だ。

バック・バンドの名前は、ご存じ、ザ・プリザヴェイション・ホール・ジャズ・バンドの伝説的女性ピアニスト、“スウィート・エマ”バレットにちなんで付けられたもの。でも、バンドのアンサンブルの中心に据えられているのはピアノではなくハモンド・オルガン。ここがかっこいい。トランペット、トロンボーン、サックスの3管ホーン・セクションに、ドラムとハモンドという編成。子供のころから教会で歌ってきた彼女にとって、やはりハモンドの音色は特別らしい。アルバム全編、ひたすら生な、アコースティックな手触りに貫かれているのだけれど。そうした音像の中で、シャンダさんの歌声ともどもハモンド・オルガンの響きが抜群の存在感を放っている。

エスニックなパーカッションとハーモニカとヴォーカルという、いかにもこの人らしいアンサンブルに導かれ、やがてホーン・セクションとオルガンが加わるトラディショナル「アナザー・マン・ダン・ゴーン」でアルバムは幕開け。続いてアルバート・ブラムリー作のサザン・ゴスペル「アイル・フライ・アウェイ」、さらなるトラディショナル「ロザリー」「サン・ゴーズ・ダウン」、ゴスペル・スタンダード「マザーレス・チャイル」、アーシーなアフリカン・ヴァイブが独特の躍動を演出する「キャリー・イット・ホーム・トゥ・ロージー」、フィーチャード・トラックとして先行リリースされた表題曲、ニーナ・シモンでおなじみのスピリチュアルをオルガンとホーン・セクションでぐっとタイトにグルーヴさせた「シナーマン」、そしてデューク・エリントンの「カム・サンデイ」…。

教会。地域の集まり。そうしたところで草の根的に育まれてきた米国の黒人音楽の歩みにフォーカスした全9曲。人種のこと、女性のこと。内なるエモーションをじわじわ表出する感じのシャンダさんのたたずまいが、かつての、んー、たとえばアビー・リンカーンとか、そういう先達にもまっすぐ通じるような。公民権運動のころのジャズ・ヴォーカルというか。

そういう意味では、これもまた意識的なルーツ探索プロジェクトということになるのかもしれない。けど、その感触が結果的に今の時代にもまったく無理なくコネクトしてしまうというか。今なおそのまま有効なんだという事実も思い知らされて。ちょっと複雑な気分になったり。そのあたりはリアノン・ギデンスとかとイメージが重なるかも。

この人も闘ってます。

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