Disc Review

Petals For Armor / Hayley Williams (Atlantic)

ペタルス・フォー・アーマー/ヘイリー・ウィリアムス

不安だらけの日々。でも、ネット上ではいろいろなアーティストたちができる範囲で素敵なパフォーマンスを届けてくれていて。

この機会にかつて録音した貴重なライヴ音源とか未発表スタジオ音源とかを公開してくれたアーティストもいれば、リモート・セッション系のアプリを使ってメンバー各自のおうちからのヴァーチャル・セッションを披露してくれるバンドとかもいる。うれしい。

いちばん多いパターンが、自宅からシンプルな弾き語りスタイルで、平時だったら味わうことができなさそうな、パーソナルな、素朴な歌声をありのまま届けてくれるシンガーたち。これは、ほんと、非常時ならではというか。勇気がもらえるというか。音楽ファンとしては宝物のような感じで。ぼくも心から感謝しながらいろいろ楽しませてもらっている。

で、最近だと、ヘイリー・ウィリアムスがよかったなぁ。パラモアのヘイリー。おうちで自粛生活を続けている彼女は、時折アコースティック・ギターをつま弾きながら好きな曲をカヴァーしたりしていて。その様子を“self-serenades / amateur hour”ってキャプションも添えながらインスタグラムでたまーに公開。先月はティーガン&サラの「コール・イット・オフ」とかカヴァーしてたけど。

今回またSZAの「ドリュー・バリモア」のカヴァーも披露してくれて。歌い出す前の表情もちょっとかわいいし、歌い終えたあとの「Whatever…」ってひとことも照れ気味でぐっとくる。こういうのを見ると、リスナー側としてもぐっと距離感を勝手に縮めちゃうから。好感度がさらに増して。ヘイリーの言い方を借りれば、この“エイジ・オヴ・コヴィッド(the age of covid)”、新型コロナの時代にもたらされた新しい感触だなぁと思ったり。

まあ、このヴァーチャルな距離感みたいなやつをうまく受け止められないと、例の、ネット上での心ない暴挙につながったりするのかもしれず、いいことばかりではないと思うものの。それにしても、リモートの時代ならではのアーティストとオーディエンスの新たなコミュニケーションの在り方か、と。

ご存じの通り、ヘイリーは今月アタマ、待望のソロ・デビュー・アルバム『ぺタルス・フォー・アーマー』をリリースしたばかり。超話題盤なので、ぼくの弱小ブログごときで紹介するまでもないかと取り上げずじまいだったけれど。このアルバムとかも、今回のインスタ見たあとで改めて接すると、彼女のひたすらクールなアプローチの彼方に、また違う親密さが聞き取れるようで。まあ、プラシーボっちゃプラシーボですが(笑)。

てことで、せっかくなので、今朝はこのアルバムを取り上げときます。すでに先行リリースされていた2枚のEP『ペタルス・フォー・アーマーⅠ』と『ペタルス・フォー・アーマーⅡ』の各々5曲ずつ、計10曲に、さらなる新曲5曲を追加した全15曲入り。

ヘイリーは2017年、パラモアのアルバム『アフター・ラフター』をレコーディングしているころからメンタル的にけっこうやばい時期を過ごしていたらしく。アルバムのリリースに合わせたツアーが終わった2018年ごろから本格的にセラピーを受けるようになったのだとか。そうした、彼女自身の言葉を借りれば“自己破壊に満ちた若き日々”を乗り越えて、少しずつ回復しつつある姿をとらえたのが『ペタルス・フォー・アーマー』だ、と。

アナログなロック感とエレクトロ風味とがより深いところで結合。パラモアでのパフォーマンスほどのポップなハジけっぷりはなく、30代を迎えた彼女ならでは、いい意味で成熟した肌触りに全編貫かれた1枚に仕上がっている。エイティーズっぽさが色濃いかな。プロデュースはヘイリーとパラモアのギタリスト、テイラー・ヨーク。曲作りは基本的にヘイリー自身で、曲によってテイラーほかパラモア人脈の名前が共作者としてクレジットされている。

フィクショナルであろうが、ノン・フィクショナルであろうが、パブリックな場で自身のパーソナルな物語を綴るクリエイターにとって、SNSという便利ではあるけれどかなり荒っぽいコミュニケーション・ツールが幅をきかせるこの時代、いろいろめんどくさいことも多いとは思う。けど、ここでのヘイリーは自身の弱さも迷いも痛みも癒やしも絶望も希望も、すべてを素直にぶちまけていて。そのたたずまいはなんだか素敵だ。

国内盤には別ミックス1曲がボーナス追加されてます。

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