Disc Review

40 / The Stray Cats (Surfdog)

SC40

40/ストレイ・キャッツ

ポップ音楽の世界には“常に新しくあらねば”という価値観が強迫観念的にあって。最新のサウンド、最新のビートばかり追い求めがちだけれど。そんな中、こうした風潮にあえて“ノー”を突きつける連中もいる。歴史への深い敬意。時を超えて輝き続ける音楽の本質に対する愛情。別に新しくなくてもいい、みんながふと忘れがちな昔ながらの音楽にだって素晴らしいものがたくさんあるんだぞ、と。そういう事実を思い出させてくれる意識的なアーティストに出くわすと、それだけでうれしくなったりする。

このサイトを定期的に読んでくださっている方ならばぼくがそんなアーティストのアルバムばかり偏愛していることはご存じだと思うけれど(笑)。中でも特に大好きなバンドがこの人たち、ストレイ・キャッツだ。

ブライアン・セッツァー(ギター、ヴォーカル)、リー・ロッカー(ウッド・ベース)、スリム・ジム・ファントム(ドラム)という3人によるロカビリー・バンド。1979年にニューヨークで結成され、80年、デイヴ・エドモンズのプロデュースでレコード・デビュー。パンク/ニュー・ウェイヴ・ムーヴメントのただ中、そんな時流に安易に迎合することなく、しかし新時代のエッジ感やビート感は巧みに取り込みつつ、50年代に一世を風靡した活きのいいロカビリー・サウンドの躍動を80年代に蘇らせてみせた。以降、83年にかけて「涙のラナウェイ・ボーイ」「ロック・タウンは恋の街」「ストレイ・キャッツ・ストラット」「セクシー・アンド・セヴンティーン」「おもいでサマーナイト」などを連続ヒットさせ、シーンを大いに賑わした。

リーゼント、タトゥー、革ジャン、ボーリング・シャツ、先の尖ったウェスタン・ブーツなどファッション感覚もごきげん。が、なんと言っても最大の魅力は、中心メンバー、ブライアン・セッツァーの強烈なロックンロール・ギターだろう。ぼくはこの人こそ世界最強のギタリストじゃないかと思うことがある。ピッチをコントロールするのがとてもむずかしいグレッチのでかいホロウ・ボディのギターを軽々と弾きこなす姿には惚れ惚れするばかり。現在は自らのビッグ・バンドを率いてロカビリー、ジャンプ・ブルース、カントリー、クラシックなど幅広い音楽性に挑んでいるセッツァーだけれども、どんなレパートリーに挑んでも、彼ならではの超絶ギター・テクニックが炸裂すれば、もうそれだけでビシッと一本筋が通る。トリオだろうとオーケストラだろうと、セッツァーのギターとヴォーカルは常にギミックのない豪快な直球勝負。泣ける。胸が躍る。

それでも、やはり彼が最高に輝くのはトリオ編成でのロカビリーに挑んでいるとき。近年のオーケストラでのステージでも、中盤、必ずトリオ編成によるロカビリー・コーナーが用意されているし。やはりブライアン・セッツァーにとってギター、ベース、ドラムの3ピースによる根源的アンサンブルは本当に重要なものなのだろう。

3カ月ほど前、すでに本サイトでもご紹介ずみのエピソードだが。あえてもう一度繰り返しておきましょう。2001年、彼は“ブライアン・セッツァー・68カムバック・スペシャル”と名乗るトリオ編成でロカビリー・アルバムを出したことがある。このバンド名が深かった。というのも、ロックンロールのキング、エルヴィス・プレスリーが最後の黄金時代を築き上げるきっかけとなった伝説のテレビ・スペシャル番組があって。タイトルはずばり『エルヴィス』。が、放送が68年暮れだったためロックンロール・ファンはこの番組を“68年カムバック・スペシャル”と呼んでいる。セッツァーはそれを自分のバンド名に付けてしまったのだ。

「このバンド名はエルヴィスへのトリビュートですか?」という質問に対し、セッツァーは「すべての音楽はエルヴィスへのトリビュートだろ?」と答えた。いかすぜ。ロック史に残る名言・至言だと思う。

ストレイ・キャッツは83年にいったん活動休止したのち、不定期にではあるけれど88年と04年に再結成。普段はそれぞれ思い思いのソロ・プロジェクトで活躍を続けているメンバーながら、やはりこの3人でしか出せない唯一無比のロカビリー・サウンドでファンを喜ばせてくれた。去年あたりにも再結成して数回ライヴを行なったらしい。そして今回、結成40周年を迎えたことを記念して久々にフル・アルバムをレコーディング。それが本作『40』だ。88年の再結成のときは何枚かアルバムをレコーディングしていたけれど、04年の再結成のときはライヴ盤を出しただけだったから、スタジオ録音によるフル・アルバムということになると、93年に日本企画として実現したカヴァー・アルバム『オリジナル・クール』以来26年ぶりだ。

内容はですね、なんというか、とにかくストレイ・キャッツです(笑)。アルバム冒頭の「キャット・ファイト」のイントロで鋭く切り込んでくるギター・リフの1音目から、もうどうしようもなくストレイ・キャッツ。どこを切ってもストレイ・キャッツ。もちろん、それでOK。問題なし。最強。最高。この人たちに2019年ならではのラディカルで斬新なサウンド・アプローチとか誰も期待していないし、本人たちもそんな気さらさらないだろうし。今回も全編に50年代、60年代の不敵でグリーシーなロックンロール・グルーヴが横溢している。

もちろん全員トシとりました。まだまだスピーディで若々しいサウンドを聞かせてくれてはいるものの、デビュー当時の青々とした感触はさすがに皆無。当たり前だ。ただ、それと引き換えに、歌も、楽器の響きも、ぐっと太くなった。昨日今日じゃねーぞという年季と貫禄に圧倒される。基本、3人で“せーの”の一発録りだったようだが、息の合い方はハンパない。全13曲中、「ホエン・ナッシングズ・ゴーイング・ライト」1曲のみリー・ロッカーの作品。残る12曲はブライアン・セッツァーの自作曲だ。

ストレートな3コードのロックンロールばかりでなく、リズム的にもコード進行的にも聞く者を飽きさせないバラエティをきっちり用意してくれているところもこの人たちならでは。「アパッチ」をまるパクりしたようなマカロニ・ウェスタン風エレキ・インスト曲「デスペラード」とか絶好のチェンジ・オヴ・ペースもの。タランティーノが即行自分の映画のサントラで使いそうな必殺の1曲に仕上がっている。エキゾチックなコード進行のもと、サーフィン・インスト「パイプライン」とかの有名フレーズをしゃれっ気たっぷりに引用した「アイ・アトラクト・トラブル」とかも楽しい。

ブライアン・セッツァーが60歳になったばかり。リー・ロッカーが57歳。スリム・ジム・ファントムが58歳。還暦迎えて、さらなるひと暴れ。ごきげんです。来月から全欧〜全米を回る40周年記念ツアーもスタート。ぜひ日本もお願いします。

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