Disc Review

1970 (50th Anniversary Collection) / Bob Dylan (with Special Guest George Harrison)

1970/ボブ・ディラン

毎度おなじみ、ボブ・ディランの50年前の未発表スタジオ音源を詰め込んだ“50th Anniversary Collection”シリーズ。ヨーロッパでは未発表音源が未発表のまま50年経ってしまうと著作権を主張できなくなるらしく。その措置を避けるための著作権延長シリーズですが。アルバム・デビューを飾った1962年から50年後にあたる2012年以降、毎年毎年、LPだったりCDだったり、フィジカルでごく少数、100セットとか200セットずつ、ヨーロッパ限定でリリースされてきた。

別に売ることが目的ではなく、とりあえずEUでの著作権延長措置のためだけのリリースなので、ちょびっとしかプレスされず。当然、出たとたん、市場からは一瞬にして消える。ぼくのようなシモジモのファンの元に届くはずもない。なので、いつも海外の頼れるコレクター仲間ルートから音源だけゲットして満足してきたわけですが。

2019年に出た1969年編のことを本ブログでも取り上げたので、そちらも気が向いたら参照してください。そこにも書いたけれど、1962年編がCD4枚組、1963年編がLP6枚組、1964年編がLP9枚組。1965年から1968年までのスタジオ録音別テイク集に関してはフィジカルでのリリースはなかったけれど、その時期の膨大な未発表ライヴ音源がボックスセットの購入特典としてデジタル・ダウンロードという形で広くファンに配布された。

それに続いてCD2枚組で出たのが本ブログでも取り上げた1969年編で。その次、1970年編も去年の12月、『50th Anniversary Collection: 1970』なるタイトルのCD3枚組としてリリースされた。もちろん、ぼくはいつものように慌てて海外のコレクター仲間に連絡して、めでたく音だけ聞かせてもらって、それで楽しんでいたのだけれど。

ボブ・ディランの1970年というと、6月にアルバム『セルフ・ポートレイト』を新作としてリリースした年。でも、ディランはそのリリースを待たず、同年5月1日にスタジオ入り。やがて同年10月にリリースされることになるさらなる新作アルバム『新しい夜明け(New Morning)』のためのレコーディング・セッションに突入した。

で、この5月1日のスタジオにはなんとジョージ・ハリスンが参加。ポール・マッカートニーのビートルズ脱退宣言が同年4月10日だから、その直後のことだ。同日昼のセッションはディランの過去のレパートリーや、ジョニー・キャッシュ、カール・パーキンス、サム・クック、シレルズやクリスタルズのようなガール・グループもの、さらにはビートルズの「イエスタデイ」まで交えた軽いお遊び的なウォーミング・アップ系。

夜になるとハリスンは居残ったまま、一部ミュージシャンが入れ替わり、「サイン・オン・ザ・ウィンドウ」「イフ・ノット・フォー・ユー」「時はのどかに流れゆく(Time Passes Slowly)」「ワーキング・オン・ア・グルー」「ジプシーに会いに行った(Went to See the Gypsy)」などディランのオリジナル楽曲を録音。のちのバングラデシュ・コンサートやトラヴェリング・ウィルベリーズでのコンビネーションの下地となる伝説のセッションとなった。

まあ、海賊盤などですでにおなじみの音源ではあるのだけれど、公式にはすべてお蔵入り。のちにオフィシャル・ブートレッグ・シリーズなどに収められて発掘リリースされたのはそのうちほんの一部のみ。なもんで、各国のコロムビア/ソニー系のレコード・レーベルが、ちょっとちょっと、ジョージも入っていることだし、これだけは限定100セットとかケチなこと言ってないで、ちゃんと出してくださいよー…と、米コロムビアに泣きついて。ついに本CD3枚組の公式リリースが決定した、と。そういう流れらしい。

ただし、去年出た『50th Anniversary Collection: 1970』と比べると、1曲だけ、「せみの鳴く日(Days of the Locusts)」のテイク2の収録個所が違っている。音源そのものは同じみたいなのだけれど、録音日時に関するデータが6月1日録音から8月12日録音に訂正/更新されていて。これ、去年、元版を出したあとで判明したミスってことなのかな。

ディラン/ハリスン・セッションに関しても、なんだかクレジットの表記が微妙で。ジョージがどの曲で何をやっているのか、今ひとつあやふやだ。いちばんの謎は「イフ・ノット・フォー・ユー」。5月1日にジョージとともに録音した数ヴァージョンのうちのひとつが『ブートレッグ・シリーズ第1~3集』で公式に発掘リリースされていて。そこにはスライド・ギターが入っていて、ジョージの初期スライド・プレイの記録だとか言われてきたのだけれど。

ところが、今回入っている「イフ・ノット・フォー・ユー」の数ヴァージョンには、どこにもスライドなんか入っていないのだ。てことは、『ブートレッグ・シリーズ』のヴァージョンで聞かれたスライドはダビングなの? でも、誰がやったの? もしかしてジョージじゃないかも…? みたいな。せっかくの未発表音源の発掘なのに、クレジットがけっこうザルなもんで、謎がますます深まってしまったり…。

そういう疑問点がいくつか。今回、光栄にもCDに封入されている曲目解説的なライナーを書かせていただいたので、そのあたりの疑問もちらちら盛り込ませてもらった。ご興味ある方はぜひ国内盤をお求めのうえ、謎を共有しましょう(笑)。

いずれにせよ、解決しようのない謎で聞き手を思いきり翻弄してくれてこそのディランではある。そういう意味ではいかにもボブ・ディランらしい未発表音源集。ディラン/ハリスン・セッション以外にも興味深い音源が目白押しだ。トム・パクストン、エリック・アンダースン、バフィ・セント・メリーといったモダン・フォーク・リヴァイヴァル期の仲間たちの楽曲をカヴァーして歌うディランも素敵だし、アル・クーパーとタッグを組んだ『新しい夜明け』セッションも楽しい。

同時期の音源で構成されたオリジナル・アルバムの『セルフ・ポートレイト』『新しい夜明け』『ディラン』、そしてブートレッグ・シリーズ第10集にあたる『アナザー・セルフ・ポートレイト』あたりとともにこのCD3枚組を聞きながら、翻弄されましょう、思いきり。

あ、ちなみに、これを“ブートレッグ・シリーズ第16集”と思っている方もいらっしゃるようですが、これ、1966年のライヴ箱とか、ローリング・サンダー・レヴュー箱と同様、ブートレッグ・シリーズの一環ではないです。お間違えなきよう。今回ストリーミングは今のところないみたい。

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