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Disc Review

Shelby Lynne / Shelby Lynne (Thirty Tigers/Everso Records)

シェルビー・リン/シェルビー・リン

この人、かっこいいなと本格的に思わされたのは1999年に出た『アイ・アム・シェルビー・リン』という6作目のアルバムでのことだった。

もともとはカントリー界の大御所、ジョージ・ジョーンズに見出される形で世に出た人で。デビュー・アルバム『サンライズ』が出たのは1989年。その後、90年代いっぱい、カントリー・チャートの真ん中辺をうろうろする活動を続けたのち、心機一転、シェリル・クロウなども手がけていたビル・ボットレルをプロデューサーに迎え、アラバマ、メンフィス、カリフォルニアを行ったり来たりしながら制作された1枚が『アイ・アム・シェルビー・リン』だった。

1960年代ガール・グループっぽい三連曲あり、メンフィス系ソウル・ポップあり、ルシンダ・ウィリアムスふうのオルタナ・カントリーあり、ジャジーな曲あり、ストリングスを従えたバラードあり。従来のカントリーの枠にとどまらない、シェルビー姐さんのより幅広い魅力を強調した仕上がりで。“私がシェルビー・リンよ”という堂々たるアルバム・タイトルが、むしろ逆説的に印象的だった。デビュー後すでに10年が経っていたにもかかわらず、確かグラミーで最優秀新人賞を獲得した覚えが…。

以降、本格的にメジャーなフィールドでの活躍が続いた。『アイ・アム・シェルビー・リン』ほどの手応えに満ちたアルバムは残念ながらなかなか生まれなかったけれど、2008年にフィル・ラモーンをプロデューサーに迎えて制作されたダスティ・スプリングフィールドへのトリビュート・アルバム『ジャスト・ア・リトル・ラヴィン』あたりは、この人ならではのカントリー・ソウル感覚が発揮された1枚で、ちょっとうれしかったっけ。とはいえ、基本カヴァー盤だし。なんとなく物足りなかったのも事実。

結局、『アイ・アム・シェルビー・リン』以降の作品でいちばん印象的だったのは、2005年、女優としてジョニー・キャッシュの伝記的映画『ウォーク・ザ・ライン』でキャッシュの母親役を演じたことだったりして…。でも、今回はどうやらそうとうの自信作らしく。もはや“アイ・アム”すらない。ずばり『シェルビー・リン』と題したセルフ・タイトルド・アルバムをリリースしてくれた。うれしい。待ってました。

ソロ・アルバムとしては2015年の『アイ・キャント・イマジン』以来。もちろん、その間にも、2017年に実妹アリソン・ムーラーとのデュオ・アルバム『ノット・ダーク・イェット』をリリースしたり、やはりアリソンが2019年にリリースしたアルバム『ブラッド』にも曲提供したり、ツアーに同行したり…。いろいろやっていたのでご無沙汰感はないのだけれど。

やはり本人名義のアルバムはうれしい。数え方はいろいろありそうだけれど、たぶん通算16作目ということになるのかな。なんでもシェルビーさん、シンシア・モート監督の最新映画『When We Kill the Creators』に出演しているらしく。本アルバム収録の11曲中、大半がその撮影中にレコーディングされたものだとか。シェルビー単独での作詞作曲ものが半分くらい。残りの半数の作詞を、その映画を監督したシンシア・モートが手がけている。作曲はもちろんシェルビー。そんなふうに、女優とシンガーと、ふたつの極を行ったり来たりしながらの作業が本作をいつも以上に躍動させたのかもしれない。

フィクションとノンフィクション、フェイクとリアルとの絶妙な共存、みたいな?

やはり半数くらいの曲で、シェルビーさん自らがギター、キーボード、ベース、ドラムなどをひとりで重ねていて。曲によっては、子供のころ練習したことがあるというサックスまで吹いてる。もちろん、そんなにうまくはないけど(笑)、いい味。他の曲でも、ベンモント・テンチやミミ・フリードマン、ビリー・ミッチェルらがキーボードでさりげなく客演。がっつりフォー・リズムを導入してレコーディングされた曲も数曲あるものの、基本的にはシェルビーさんひとりで紡ぎ上げた音世界という感じだ。

信頼できる誰かの眼差しなり、世界観なりをあえて取り込むことによって、自らのパーソナルな思いをより鮮明に、リアルに描き出すことに成功したということかな。

先行シングルとしてリリースされた「アイ・ガット・ユー」や「オフ・マイ・マインド」でのほのかにソウルフルなセンスとか、同じく先行シングルだった「ヒア・アイ・アム」のゴスペルっぽいムードとか、シェルビーひとりで音を重ねた「ウェザー」のドゥーワップのような、教会音楽のような、なんとも荘厳な奥行き感とか、たまらない世界観。

前作『アイ・キャント・イマジン』ではロン・セクスミスと共作を披露したりしていたけれど、シンシア・モートとの共作はちょっと特別な感じもあって。いいソングライティング・パートナーになれそうな予感も。アルバムのエンディングを飾るモート&リン共作による小品「ラヴフィア」とか、大好き。彼女のホームページに行ったらアルバム全曲のサワリを9分にまとめたダイジェスト・ビデオとかもありました。映像もかっこよく、なかなか楽しめたので、ご興味ある方はそちらもぜひ。

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