Disc Review

The Complete Island Recordings / Bob Marley & The Wailers (Island)

ザ・コンプリート・アイランド・レコーディングズ/ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ

ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズのオリジナル・アルバム群というのは、これまで何度も何度も繰り返し再発されてきて。今さら改めて買う人いるのかな…とすら思ったりもするのだけれど。

それでも、あ、今回の再発で全部揃え直して、一カ所にまとめておきたいな…とか思うこともたまにはあって。今年6月に日本でアンコール・プレスされた一連の紙ジャケものとか。心が動いた。まあ、この人、紙ジャケに関しても2004年以来、機会があるたび何度もアンコール・プレスが繰り返されてきたので、もういいよって感じのマニアも少なくないとは思いますが。

今年は過去に紙ジャケ化ずみのスタジオ・アルバム9作とライヴ2作に加え、ベスト盤『レジェンド』も初紙ジャケ化。それだけに購買欲が少し刺激された。でも、これら一連の盤、収録曲的には2001年に出たデラックス・エディションが下敷きなんだよなぁ。2枚組仕様になっているものも多く。1枚ものは税込み3000円弱、2枚ものだと4000円弱。全部揃えるとけっこうな買い物だぞ、と。ちょっと腰が引けたものだ。

腰が引けたと言えば、5年前、マーリーの生誕70周年を寿いで出たアナログLP12枚組『ザ・コンプリート・アイランド・レコーディングズ』。あれにも思いきり腰が引けたっけ。2枚組作品ひとつを含むオリジナル・アルバム群11作をすべて180グラム重量アナログLPで詰め込んだ箱。内容が最高なのはもちろん、外装も最高。本物のメタル製Zippoライター型ボックスに入った完全限定コレクターズ・エディションとかもあって。腰が引けたとはいえ、かなり物欲がうずいたのも事実。

まあ、ぼくの場合、これがエルヴィス・プレスリーとか、ビーチ・ボーイズとか、ボブ・ディランとか、個人的に溺愛するアーティストの箱だったら無条件購入なのだろうけれど。ぼくの中でボブ・マーリーのプライオリティがそこまで高くなかったこともあり。さらにこれまたバカに高価だったこともあり。しばし悩んでいるうちに入手困難になってしまった。情けない。

しかーし!

あの悩ましかったアナログ・ボックスセットのCD版。出ました。ついに。いつ出るかいつ出るかと待たされ続けて早や5年。生誕70周年記念が75周年記念になっちゃって。でも、お値段はいきなりお買い得な感じになって。5000〜6000円くらい。これなら買い直しするにしても罪悪感薄め(笑)。イケる気がしてついゲットしました。

こちらは11作をそれぞれCD1枚ずつに振り分けた11枚組。アルバムごとにミニチュア・カード・スリーヴに収納したうえでボックスに詰め込んだ仕様だ。1973年の衝撃のメジャー・デビュー作『キャッチ・ア・ファイアー』がオリジナルのZippoジャケットではなく、1974年以降のマリファナ・ジャケットになっているのはLPボックスのとき同様。ちょっと残念かな。

音質的にはけっこうぶっとい。やはり『キャッチ・ア・ファイアー』だけはちょいヒスが気になる個所もあるけれど、基本的には全編ブーミーでファットな仕上がりだ。割れ気味なところも含めて気持ちいい。

今さらながらではありますが、『キャッチ・ア・ファイアー』の他、入っているオリジナル・アルバム群をざっとリストアップしておくと。「ゲット・アップ、スタンド・アップ」「アイ・ショット・ザ・シェリフ」などを収めた1973年の『バーニン』。バニー・ウェイラーとピーター・トッシュがウェイラーズから脱退し新メンバーを迎えて制作された1974年の傑作『ナッティ・ドレッド』。1975年のロンドン公演の模様を記録し、レゲエをワールドワイドな存在にするうえで大きな役割を果たした大ヒット作『ライヴ』。ご意見、いろいろございましょうが。やはりこの『ライヴ』に至るまでのボブ・マーリーの熱さこそ最強、というのが大方のファンの共通認識だろう。この熱は何にも代えがたい。

初の全米トップ10アルバムとなった1976年の『ラスタマン・ヴァイブレーション』。忌まわしき銃撃事件のあとロンドンで録音された1977年の名作『エクソダス』。穏やかさを増した1978年の『カヤ』。1978年のツアーでライヴ録音された『バビロン・バイ・バス』。アフリカの連帯と平和を願った1979年の『サヴァイヴァル』。生前最後の作品となった1980年の『アップライジング』。そして、マーリーの死の2年後、1983年にリリースされたウェイラーズのラスト・アルバム『コンフロンテイション』…という11作。重要な作品ばかりだ。

ただし、アルバムそのものの内容とは裏腹に、ボックスのブックレットとかはアウト。内容薄し。ジャケットもチープ。収録曲的にも、オリジナル・アルバム収録曲だけそのまま移し替えているだけ。デラックス・エディションで出た別テイクとかまでは望まないけれど、シングル・ヴァージョンとか12インチ・ヴァージョンとか、そういうのだけでいいからボーナス・ディスクに軽くまとめて、CD12枚組にしてくれてもよかったのに…とか。不満点も少なくない。その辺に強くこだわる方は冒頭で触れた生誕75周年記念紙ジャケアンコール・プレスをゲットするのが最善かも。

でも、このボックス、何よりとにかくお手頃なんだよなぁ。お買い得。新型コロナ禍をきっかけに、ウイルスどころじゃない、もっと深刻な病巣が日本にも、アメリカにも、いや、もう世界中に蔓延しているんだ、という現実が否応なくあぶり出されてしまった今年、ボブ・マーリーに救いを求めたくなった人も少なくないと思う。そういう空気感の下、この人が何を思い、何をめがけてメッセージを放ち続けていたのか、改めて見つめ直すためにも超お手頃なボックスセットだ。

まあ、お手頃に見つめ直すテーマじゃない気もするけど(笑)。

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